流架
「自分でしろ」と言ってやれば、ダンテは素直に「判った」と頷いた。
男に跨がり自ら腰を振るさまは、いかにも淫らで。どんなに男を悦ばせることに慣れた娼婦で
すら、これ程ではないだろう。
髪を振り乱し、恥も外聞もなく啼き喘ぐダンテを、バージルは冷徹に観察した。
しよう、と誘って来たのはダンテの方だった。
はっきりと言葉でそう言ったのではないが、同じことだ。
早く済ませるつもりの仕事が思ったよりも長引いて、帰ってみればダンテが事務所の真ん中で
寝転がっていた。何をしている、と髪のくしゃくしゃになった頭を軽く蹴ってやれば、ダンテは
のろのろとバージルを見上げ。
「……おかえり」
と。どこか傷心を湛えた目をして言った。
「遅ぇよ、バージル……」
仰向けになったダンテの下肢は、明らかに精液と判る白濁のもので汚れていた。さらしたままの
陰茎は先端を濡らして震えている。誰かに犯されたのではなく、ここで自分を慰めていたの
だろう。
「俺が戻るまで待てなかったのか」
バージルが肩を竦めれば、ダンテは両腕を伸ばしてバージルを呼ばわった。
「なぁ、バージル……足りないんだよ……」
いくら出しても、足りない。アンタのじゃなきゃダメなんだ。
そんなふうに誘われて、雄を猛らせない男などいないだろう。バージルはしかし、ダンテを
冷ややかに睨み据えた。
「淫乱が。判っていて、何故俺を待てんのだ」
この弟を満足させ得るのは自分のみ。そう仕込んだのは自分だからこそ、バージルは苛立ちを
覚えた。
ダンテが自分で自分を慰めるさまは、淫らで良い。だが、最終的にバージルが犯してやらねば
ダンテは不満を募らせるばかりなのだ。自分から誘うことはめったになくとも、そのことを
ダンテ自身も知っている筈である。それなのに、だ。
「バージル……してくれよ……」
もはやバージルに犯されることしか頭にないらしく、ダンテが自らの精液で汚れた手で
バージルの脚に縋ろうとする。バージルはぴくりと片眉を吊り上げ、その手を踏み付けた。
ダンテが痛みに顔を歪めて呻く。
「俺が欲しいなら、判っているな?」
言葉で誘い、縋るのではなく。“誘い方”は、前に教え込んである。
足をどけてやれば、ダンテはふらふらと躰を起こし、バージルの足許に膝をついた。腕は垂らし
指先で床を掴み、顔をバージルの下腹に寄せる。茶の革パンツのボタンを銜えるようにして歯を
使って外そうとするが、上手くは行かない。そもそも、思考そのものが働いていないのだ。
その状態で口だけでパンツのボタンを外すなど、簡単である筈がない。
しかしバージルは、一切手を貸すことはしない。ダンテの浅ましい姿をその目に映し、そして
時折言葉を下すのみだ。
「何をもたもたしている、早くしろ」
俺が飽きる前に。
びく、とダンテが顔を強張らせる。飽きる。捨てる。それらの言葉に、ダンテは尋常ではない
恐怖を持っている。一種の心的後遺症でもあるだろう。ダンテがそうなった原因は、他でもない
バージルにある。
「っん……っ……」
ようやく、パンツのボタンが外れた。ジッパーを下ろし、下着を銜えて少しだけ引き下ろす。
そうして、ダンテの強張っていた表情に笑みがさした。
はぁ、と熱っぽい溜息を漏らし、バージルの陰茎に舌を沿わせる。まだ僅かな熱すら持っていない
ものを、熱心に舐め銜えるダンテにバージルは嫌悪に似たものすら感じた。
確かにダンテを満足させ得るのは自分より他にいないと言えど、ダンテはバージルにしか脚を
開かぬわけではないのだ。ダンテをこうも淫乱な躰にした根本の理由はバージルにある。しかし
バージルは、誰に抱かれてもよしとするダンテの躰を呪わずにはおれない。
誰に犯されようと、ダンテは自分のもの。そんなことは生まれる以前から定まっていることだ。
けれど、ダンテがこの躰で、この舌で、他の男を誘っていたのだと思うと、忌々しくなる。
誰を、何度銜えたのか。どう、犯されたのか。
今更、問いただすことこそしないけれども。
「んん……ふぁ……ぅ……」
どこか必死に銜えるダンテの頭を、バージルはおもむろに掴んだ。ぐいと引き剥がし、自分の
ものから口を離させる。どうして、と上目遣いに見上げて来るダンテの口とバージルの陰茎を、
糸のような唾液がつうと繋いでいる。
バージルは目を細め、黒檀の机の脇に倒れた椅子を立てた。腰を下ろしてダンテを見やれば、
ダンテは汚れた口許を拭うこともせずぼうっとこちらを見つめている。鈍い表情が、来い、と
命じるバージルの言葉にはっと弾かれたようになる。
「足りぬのだろう。自分でしろ」
充足のいくように、自分でして見せろ。
酷い言葉とは、バージルは思わない。むしろダンテには丁度良いだろう。この、自分に従うことに
悦びを感じる弟には。
ダンテは獣のように四足で床を這い、バージルの脚にすり寄って来た。緩慢な動きで立ち上がり、
椅子の肘掛けを支えにしてバージルの膝に乗り上げる。ふ、と息を吐き、バージルのものに指を
添えて自らの後孔にあてがって、そろそろと腰を下ろした。
「くぅ、うっ……!」
僅かも慣らしていないそこは悲鳴をあげ、裂けたのだとすぐに判った。バージルの陰茎に血と
思われる液体が伝う。交合には慣れていても、本来男の躰は何ものをも受け入れるようには
出来ていない。慣らさない上での挿入が受け入れる側を傷付けることなど、判りきっている
ことだ。
しかしバージルは時折、ダンテを酷く犯す。これもその一環だ。わざと血を流させ、
赦してくれと泣かせては散々に犯す。好きだろう、と囁いてやれば、ダンテは否定しながら精を
散らせる。そのさまが、またバージルを滾らせるのだ。
「んっ、くぅ、う……!」
呻きながら、ダンテは自重に逆らえずバージルを根元まで銜えこんだ。
「締め付けるな。早く動け」
バージルの声音はどごまでも冷酷だ。ダンテを貫くには充分な程に猛ってはいても、理性でもって
射精を堪えることは難しくない。そう、ダンテに溺れてしまわなければ、バージルは自身の慾望を
自らの意思で操ることが出来るのだ。
焦れったく動こうとしないダンテの尻を、バージルは力任せに掴んだ。性的な意味はなく、
ただダンテを詰る為に。
「何をしている。休んで良いと、誰が言った」
びく、とダンテが震え上がる。しかしこの引きつった表情も、すぐに快楽に溶けるのだと思えば
哀れみなどは欠片も感じはしない。
ダンテは痛みを堪える為にか、目をきつく瞑り、唇を噛み締めて腰を浮かせた。ぎちりと
いっぱいに広がった襞がバージルを締め付ける。緩慢な動きで、ダンテが腰を落とした。
「んぅっ……あ……!」
高い声が上がった。意図せず弱い箇所を擦り上げたのだろう。不意の快楽に、ダンテはバージルに
しがみついて震えた。初心な仕種だが、揺れる腰がそれを裏切っている。心と躰が釣り合って
いない、とでも言おうか、それ故に淫らな光景だ。
「っあ……あぁ……っはぅ……ん……ッ!」
鈍かったダンテの動きが次第に激しくなっていく。自ら引き出す快楽に、すっかり酔っている
のだ。
「あぁっ……、ジル……ッ……バージル……!」
兄の名を叫びながら、ダンテが達した。壮絶なまでに淫靡で、しかし美しいダンテを、
壊してしまう程に犯したいと思ってしまう自分がいる。
「浅ましいな」
ぼそりと、バージルは呟く。ダンテがびくりと怯えたように顔を強張らせたが、バージルが
嘲ったのはダンテではない。己自身だ。が、それはダンテに伝わらずとも良いことだ。
バージルはダンテを黒檀の机に押しつけ、吐精後で僅かに弛緩した躰を揺さぶった。自分で
動くのとはわけが違う激しい挿出に、ダンテが背を弓なりに逸らして高く啼く。
「ひッ……あぁっ……ぁ、あ……!」
応えるように締め付けてくる後孔を犯し、内壁を抉る。鎌首をもたげ、快楽の雫をこぼす陰茎を
少し強めに扱いて、そうして震えるダンテの耳に、囁く。
「泣く程、悦いか」
頬を濡らす水を舐め取ってやれば、ダンテはもっとと息だけでねだり、バージルの首に腕を回して
腰を揺らめかせた。
バージルは口角を上げ、ダンテの首筋に文字通り噛み付いた。じく、と滲む甘い血を舐め、
また一つ、意図して伸ばした牙でダンテの膚に穴を開ける。ぞくりとダンテの背が震えるのが
判った。
半身の血はバージルにとっての媚薬だが、ダンテにとってはバージルの狂気じみた行為こそが
媚薬なのだ。
「まだ、達くな」
囁き、ダンテの陰茎を指で戒める。どうして、と啼く姿もまた、佳い。
バージルはダンテの脚を片方肩に担ぐようにし、より深く犯す形に腰を進めた。
「ひぅっ! あっ、は……ぁ……ジ……ぅんんっ……!」
達することの出来ぬ陰茎から溢れたものが、バージルの手をしとどに濡らす。
「……残さず、飲め」
バージルはにぃと笑い、ダンテの最奥に精を叩き付けた。びくん、とダンテが喉を
のけ反らせる。
「ぁああっ……!」
飲み込み切れなかった迸りが、こぷりと音を立てて結合部から溢れ出、ダンテの尻と黒檀の机を
汚す。バージルは目を細め、空いた手をダンテの首に添えた。
「残さず飲めと、言った筈だが?」
「ぁ……」
ぐ、と頸動脈の辺りを指で圧してやると、ダンテは溜息に似た声をもらした。表情は、苦しげ
だけれどもどこか恍惚としている。
「ふ……ぅん……っ」
その吐息をも食らうように、バージルはダンテの唇を吸った。ようやく口付けをされたからか、
ダンテは嬉々として自ら舌を絡めてくる。どこまでも浅ましく、ひたすらにバージルを求めて
くる。
「っん……ふ、くぅ、ん……ッ」
唇を離し、しかし唾液を絡め合ったまま、息の触れる近さでダンテに宣告する。
「お前の総て、その一欠片足りとも譲ってやるつもりはない」
誰にも――――そう、それがたとえお前自身であろうとも、呉れてはやらぬ。
「――――勝手な真似をするな」
ダンテの首を締める手に、力をこめた。
既に首筋に残っていた痕は、ぴたりと合わされたバージルの指にその存在ごと消され。
ぱたりと落ちたダンテの腕を拾い上げ、その手首に、
牙を、埋めた。