紅玉ルビー









「どこ行ってたんだよ?」

ダンテは並んで歩くバージルを見上げ、ちょっと恨みがましく言った。小鬼らは ともかく、バージルがいればあんな馬鹿な男どもに絡まれることなとなかったのだ。

バージルは肩を竦め、ぴったりと寄り添ったダンテに何かを差し出した。

「これを買っていたんだ」

「? 何だ、この塊?」

紅い、子供の拳大の球体が棒に刺さった何か。てらてらとした見た目から、飴のようでも ある。

「林檎飴だ」

こちらから訊かねば何の説明もしないバージルらしい、端的な答え。ダンテは棒を持ち、 くん、と鼻をひくつかせた。

「り……、リンゴアメって?」

「林檎はapple、飴はcandyだ」

「りんごの飴か……そんなんあるんだな」

呟き、ぺろりと舌先で舐めてみた。砂糖の甘ったるさが口に広がる。甘い物には目のない ダンテだが、これは初めて食べる味だ。
何度か舐め、あ、と口をいっぱいに開けて林檎飴を囓る。がり、と表面をこそぎ取るように して歯で噛んだ。林檎と言っても酸っぱさはなく、どこまでも甘い。

「なぁ、喰う?」

うんとは言わぬだろうと思いつつ、ダンテはバージルの横顔を見上げた。案の定、バージルは いらぬと首を左右にする。が、

「俺はこれで良い」

言うが早いが、バージルはダンテの顎を捕らえて上向かせ、自らも屈み込んだ。
ぺろり、と。
何の衒いもなく唇を舐められ、ダンテは半瞬固まった。そして、顔と言わず耳から首筋まで、 見事に真っ赤に染める。

「どうした」

問う声は、揶揄ではなく本気。

ダンテはへたりとバージルの腕に凭れかかった。

「し、心臓に悪い……」

食事の後など、口周りが汚れていると言って拭われることはしばしばある。が、これは少し ばかり――――いや、かなり恥ずかしい。しかも本人には自覚というものが欠落しているの だから、一層始末が悪い。
意味が判らない、と首を傾げるバージルに、ダンテは最早諦めるしかなかった。もそりと 林檎飴に齧り付く。ふと、肩の辺りから声がした。

「主よ、我にもくれ」

「我も欲しいぞ、主よ」

ぴぃぴぃと喚く声は、人通りが絶えたことでぬいぐるみのふりをやめたアグニとルドラ。 ダンテは林檎飴を受け取る辺りから、二匹をまとめて右肩に乗せていたのだ。

「何だ、リンゴアメ喰いたいのか?」

ダンテが林檎飴を差し出すと、アグニとルドラは何故か首を振った。もれなく全身が揺れるが、 気にしてはいけない。

「? じゃあ何が欲しいんだよ」

「主よ、それは愚問であるぞ」

「兄上殿だけ許すなど納得いかぬ、主よ」

兄だけ。ということは……

「まさか、」

ひく、とダンテが顔を引きつらせた。

「主の果実の如き唇が欲しいのだ!」

「主の甘い唇を吸いたいのだ!」

ろくでもない言葉を喚き散らす二匹に、ダンテは青筋を浮かべて深い溜息を吐いた。

「あのな……よく聞けよ、お前ら。――――俺の口は食い物じゃねぇ!」

ツッコミを入れるポイントを完全に外してしまったダンテを、バージルが冷ややかに 見下ろした。

「ダンテ、」

アグニとルドラに気を取られていたダンテは、兄の低い声音に思わずびくりとなる。

「っ、な、何?」

見上げた先には、バージルの氷のような凍て付いた瞳。ダンテの肩で、アグニとルドラが もそもそと動いた。

「兄上殿、いつもの如く邪魔だてするか」

「主を独り占めなどさせぬぞ、兄上殿」

いつもの兄と二体の不毛かつ噛み合わない戦いが始まるのかと、ダンテは思った。自分が アグニとルドラと遊んでいると、バージルは決まって二匹を排除しにかかる。そして排除した 後は恐ろしく機嫌が悪い。

今日もその展開かと思いきや、そうではない、とダンテは感じた。バージルの目は、 ダンテしか映していない。

「バージル?」

不安になって名を呼ぶと、いきなり抱き上げられた。ダンテは驚いて目を瞠った。

「っわ! な、何す……っ」

言葉尻は、バージルの口腔に呑まれて消えた。
やめろ、だの何だのと耳元で小鬼らが暴れている。しかしバージルは、ダンテの唇を痛い くらいに貪ってくる。ダンテは息苦しさと痺れるような快感の狭間で、ぞくりと躰を 震わせた。

「っ……んぅ……」

甘えたような声が零れたが、ダンテの頭は既にぼうっとしてしまい、自制など出来そうもない。 躰こそ子供のものに縮んでいるが、バージルに仕込まれた快楽はそのまま覚えている。触れる だけのキスを繰り返ししたことは勿論、濃密なセックスをしたことも、総て覚えているのだ。
第一、こんなキスを挑まれて、平常でいられる人間なぞこの世にいるだろうか。

「……っはぁ……ん……」

ようように唇を開放された頃には、ダンテはすっかり脱力し、バージルの肩に頭を乗せて 荒い息を繰り返した。
バージルが吸った所為か、ダンテの唇は出かける前に引いた紅よりも赤い。薄く開いた 唇から覗く舌の紅とが、酷く扇情的にバージルの目に映る。

「ん……バ……ジル……何なんだよ?」

問うと、バージルはダンテの首筋に触れた。ぴく、とダンテの肩が跳ねる。

「どこを触れられた」

「……え?」

「あの馬鹿どもに、どこをどうされたかと訊いている」

ダンテは少しばかり沈黙し、別に何も、と小さく答えた。勿論、それでバージルが納得する などとは思っていない。

「ほう、ではこの痕は何だ?」

……これは予想外だ。
痕など付けられていたのか。ダンテは柄にもなく慌ててしまった。

「そ、れは……」

「それは?」

「その、……ちょっと舐められただけで、噛まれた覚えは……」

つい、口を滑って出た言葉に、バージルが邪悪な笑みを浮かべた。

「やはり、な」

鎌をかけられたのだと、ダンテは瞬時に悟った。

「バージル、アンタ……っ!」

「素直に言わんからだ」

淡々と言うなり、バージルの指がダンテの喉に絡まった。長い指で頸動脈を、広い掌で喉を 押さえられる。

「っ……ばァ……じ……」

視界が明滅し、端から徐々に黒く染められて行く。

「戻ったら、躾直してやる。仕置も含めて、な」

それまで眠れ、とバージルは微笑する。

前にもこんなことがあったな、とダンテはどこか他人事のように思った。

肩に乗せていたアグニとルドラがいつの間にか消えていることに、ダンテは意識を失う瞬間に なって気が付いた。

だらりと力なく垂れた手から、紅い林檎飴が零れて落ちた。



















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どうオチをつけたものか迷った末の暴挙…どうする、どうすんの俺!?(ライ●カード)
続いちゃってるー!?しかも子ダンテ落としちゃった…!これはいけません。
物凄く嫌な予感がして仕方ありません。どうしよう…(ガタガタブルブル)
ドンと来い!おっしゃる奇特な方、いらっしゃいましたらメルフォで挙手お願いします…!





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