標本
あぁ、何という陳腐な、――――
全く似ていない双子。自分たちはまさしくそうだとダンテは思う。顔立ちこそ瓜二つ
らしい――――これも自覚はない――――が、中身となると似ても似つかない。
むしろ似ていてたまるか、とすら思っているダンテだけれども、一つ認めねばならない
ことがある。
「……悪趣味」
ぼそりと呟けば、こちらを見下ろす形で脇に立つバージルが嫌な笑みを作った。その程度の悪態は
可愛いもの。そんな顔だ。ダンテは内心で舌打ちして、バージルを睨んだ。どうせ、いくら睨んだ
ところでバージルには痛くも痒くもないのだろうが、そうせずにはおれない。後ろ手に縛られた腕が
地味に痛む。
「何のつもりだよ、バージル」
悪趣味と罵ったのは、腕を縛られたからだけではない。ダンテはコートは着たままで下衣だけを
剥ぎ取られ、下肢をさらした恰好でベッドに座り込んでいるのだ。いや、ただ座っているのではない。
後ろ手に縛られた腕をベッドヘッドに括り付けられている。その為、寝転ぶことが出来ず座っている
しかないのである。もっとも横になれたとしても、ダンテは意地でもそうしたりしなかっただろう。
バージルの見ている前では。
バージルは笑みを消し、異常なまでに冷たい目でダンテを射抜いた。思わずぞくりとする、零下の
瞳。同じ碧眼でも、やはり自分とは違うのだと思い知らされる。
「何故、と問うか。ならば俺も問うとしよう」
何故、意固地になる?
ダンテは眉を顰めた。意固地になっている覚えはない。ただバージルに対して折れることを己の
矜持が許さないだけだ。――――それを、果たして意固地と言うのだろうか。何かにつけて
従うことを強要するバージルに、何故双子の片割れである自分が膝を折らねばないのか。
対等であろうとすることを、何故バージルは否定しようとするのだろう。
「意固地はアンタだろ? ガチガチの頭で考えることなんざ、ろくなもんじゃないな」
ふん、とバージルが嘲笑うように鼻を鳴らした。
「口だけはよく回ることだ。が、その姿では何を言ってもさまにならんぞ」
自分でしておいて、何を言うのか。ダンテは肩を竦めようとして失敗した。腕が痛んだだけだ。
「さまになるならないの話じゃねぇよ。アンタが何考えてるかなんて知らねぇけどな、
こんな真似……」
いきなり斬りかかってきたことと言い、わけが判らない。傷こそもう塞がっているが、
いかにバージルでも喉を突くなどやりすぎだ。
血を流しすぎて気を失ったダンテを、バージルは自宅に連れ帰り傷の手当もせずに今の姿に
し立てたのだ。お蔭でシーツは赤茶の染みと鉄錆の臭いが酷い。これを悪趣味と言わずに何と
言おう。
バージルの言動が突拍子もないのはいつものことだが、これはやはりやりすぎだ。しかし当の
本人は自らの行動に何の疑問もないらしい。
「お前が意地を張るからだろう」
と、まるでダンテが総て悪いような言いざまだ。たちが悪い。
「意地ってな……言うけど、アンタはどうなんだよ。我を張ってるのはアンタの方じゃねぇの
かよ」
対等でありたいと思うダンテに反して、バージルは自分を上にして物ごとを考えすぎる。
それは子供の頃からそうで、しかしダンテは、何故バージルがそうなのかまでは判らない。
そこが、ダンテの甘いところなのだ。
バージルの目が常に自分だけを映していることには気付いても、その視線の意味は、ダンテには
判らない。――――否、気付いてはならないと、無意識に理解することを拒んでいるのだ。
理解すれば譲歩を迫られることを、恐れていると言っても良い。
ダンテは昔から、バージルが恐くてならない。恐怖とは違う。得体の知れないものが、
バージルにはある。
バージルは鉄面皮をぴくりともさせず、つと腕を伸ばしてダンテの髪をぐしゃりと掴んだ。
「黙っていろ。舌を縫いつけられたいか?」
目が本気だ。しかしダンテは顔を歪ませて笑った。
「そりゃ、ぞっとしないな」
バージルが片方の膝をベッドに乗り上げ、ダンテに顔を近寄せた。息の触れる間近にあって、
バージルの双眸はやはり氷のように冷たい。
「煩い口だ」
薄い唇が重ねられた。当然のように舌が口内に侵入してくる。ダンテはバージルと視線を合わせた
まま、口内をまさぐる舌を軽く噛んだ。バージルの目が、一瞬だけ笑った気がした。しかし次の
瞬間には笑みはなく、バージルはダンテの舌を口外に引き出し、そうして、
「……ッ……!」
みじり、と舌の端を噛み切られる嫌な音が頭の中に響いた。
黙れと言われた口は布で覆われ、後ろ手に戒められた腕はそのままに、
ダンテは浅い吐息を繰り返していた。ともすればくぐもった呻きが布を噛んだ口からこぼれそうに
なる。ダンテは必死に、震える躰を叱咤し声を堪えねばならなかった。
「ッ……ぅ……」
布を噛み締め、じっと堪え続けるには無理がある。それは判っている。ダンテを嘲笑うかの
ように、バージルの手によって埋め込まれた玩具がダンテの内部で絶え間なく暴れている。
快楽に馴れたダンテは、もう何度不本意極まりない射精をしたか知れない。
バージルはダンテに無機質のものを埋め込んで、その後ダンテを放置したのだ。それが今から
どれ程前のことなのか、時間感覚のなくなっているダンテには判らない。
ただ、腹立たしい。
初めはぐっと快楽に堪えていたが、一度達してしまえば躰は快楽に貪欲になるばかりで、
性器からはとめどなく白濁がこぼれているという、酷いありさまだ。
まだ薬を使われていないだけましかもしれない。しかし催淫剤なしにこれかと思うと、我が身を
嘆かずにはおれない。
情けない程に浅ましい躰。
ダンテの高い矜持は、そんな自分を許せる筈がない。バージルの思惑がどこにあるかは知れな
が、快楽のまま喘ぎ身を震わせて悦楽に屈することだけは絶対にすまい。屈してしまうことは、
すなわち敗北だ。それだけは。
「……ふ……」
息が漏れる。忌々しいまでに熱っぽい吐息。ダンテは目を瞑り、じりと身動いだ。それが
拙かった。
「ッ……!」
躰の位置を僅かに変えた所為で、内壁を犯す硬質のものがダンテの弱い箇所にまともに当たって
しまった。思いがけない強烈な刺激に、ダンテは身悶えせねばならなかった。
「く、ぅうっ……ん……!」
また、ダンテの性器が堪えきれずに精液を迸らせた。しかし玩具はダンテの内を犯して止まず。
射精の余韻すら味わう間もなく、とろとろと溢れる白濁を止めることが出来ない。
「っ、ふく……ぅん……ッ」
もう嫌だ。いつまで続くのかも知れぬ、こんな責め苦は。
ダンテの長い睫毛に涙が滲む。その時、部屋のドアが前触れもなく開いた。バージルだ。
ダンテはが目を開くと、睫毛に絡んだ水がぴんと弾かれた。
バージルがダンテの痴態に視線を呉れる。細められた目に、愉んでいるのだと知れてダンテは
猿轡をぎりりと噛んだ。
「随分愉しんだようだな、ダンテ?」
揶揄する声から、バージルが自分で遊んでいるのだと嫌でも判る。ダンテはバージルを
睨みつけた。しかし当然のことながら、こんなざまのダンテが睨んだところで効果などない。
ただでさえ、バージルはダンテがどんなに噛み付いたとて痛みの欠片も訴えぬのだ。
その目、とバージルが微かに不快を込めて呟いた。
「まだ抗うか」
当たり前だ、とダンテは唸る。こんなことをされて、どうして抗わずにおれようか。しかし
それはバージルには理解の出来ぬ類の感情であるらしい。足取りだけはゆっくりとベッドに
近寄ったバージルが、少し腰を折って無造作にダンテの足首を掴んだ。ぐいと引かれるまま
脚を開く形になり、しとどに濡れた下肢がバージルの目にさらされてしまう。
身を捩ろうと藻掻けばバージルはダンテの脚を吊り上げるようにして、脚を閉じさせない。
ダンテはやめろと呻き、脚をじたばたとさせた。それも、バージルは子供がぐずる程度にしか
感じないのだろう。
「暴れるな」
冷たい声が静かに命じ――――バージルの口調は昔からこうだ――――、ダンテの脚を掴んだまま
ベッドに腰を下ろした。ダンテが敵を見るような目で睨みつけていると、
バージルはふんと鼻を鳴らし。
「気に食わんな」
ダンテの脚の付け根、密やかに震え涙をこぼしてならない陰茎に手を伸ばした。逃げられず、
バージルにそこを握りこまれたダンテはびくりと躰を跳ねさせる。
「ッんん……!」
ただ触れられただけで、これだ。過敏になりすぎた躰が恨めしく、ダンテは足掻くように尻を
もぞもぞとさせた。そうすれば中に埋め込まれたものがいっそう内壁を掻くが、構ってなど
いられない。
バージルはダンテの目を見据えたまま、薄い笑みを浮かべた。
「まだ足りぬようだな」
内股だけではなくシーツまでぐっしょりと濡れたさまから、ダンテが何度となく射精をしたことは
明らかだ。しかし触れられてまた張り詰めてきたダンテの陰茎を、バージルは嗤う。
浅ましい、と。
誰の所為だと、バージルは思っているのか。
バージルの手がダンテの性器を擦り上げる。ダンテはひくひくと躰を震わせた。
「ぅうっ……う……」
出したくもない声が漏れてしまう。眉を寄せるダンテに、バージルは囁く。
「素直に啼け。つらいのだろう……?」
唆すような声音だ。ダンテはしかし、首を左右にした。
「ふん、その意地も、いつまで保つか……」
バージルがダンテの濡れた先端をくちりと爪で掻いた。びくっと跳ねたダンテをじっと見つめ
ながら、バージルはダンテを苛み続ける。
「ひぐ……ぅうんっ……」
唾液で濡れた布が気持ち悪い。鉄錆の味がするのは、バージルに噛まれた舌から滲んだ血の
所為だ。舌の痛みはもうないが、それよりも下肢が疼いて仕様がない。酸欠に近い状態である為に
頭は朦朧として、与えられる快楽に流されそうになる。が、欠片程しか残っていない理性が
ダンテにそれをさせなかった。
小さな舌打ちが聞こえた。バージルが珍しく苛立ってしたものらしい。
「ダンテ、」
名を呼ぶ声に、ダンテは鋭い視線を返した。躰は限界だが、なけなしのプライドが陥落を拒む。
それが、バージルには気に入らない。
「お前がそのつもりなら、構わん」
バージルは酷薄に呟き、ダンテの後孔に指を突き入れた。
「ひっ……!?」
くぐもった悲鳴を無視して、こつこつと無機質の玩具を確かめるようにつつく。びくびくと
跳ねるダンテの躰から、一息に玩具を抜き去った。後孔は紅く熟れ、喪失感に打ち震えるかのように
ひくついている。ダンテ自身の目に触れることはないが、バージルがそこを舐めるように
凝視しているのだ。ダンテは羞恥に耳を赤くした。見るな、と訴える声は苦しげな呻きに
しかならない。
「もの欲しそうにしているな」
呟き、バージルが目だけをダンテに向けた。卑猥な言葉とは裏腹に、バージルの双眸は
凍えんばかりに冷たい。
「欲しいと言ってみろ。俺が欲しい、と」
猿轡を取り去られ、理不尽な要求を突き付けられる。ダンテは意地でも首を縦にはしなかった。
まして欲しいなど、口にするのも羞恥に身が焼かれるようだ。
放り出された下肢をもじもじとさせてしまうのは、止めようもなく。それが悔しい。
バージルがくつくつと笑った。
「下らんな」
吐き捨てるように言い、おもむろに、バージルが猿轡にしていた布をダンテの濡れた
陰茎に巻き付けた。
「ほとんど出し尽くしたのだろう。こうして、溜めておけ」
冷酷な、目だ。ダンテは自身が蒼白になっていることには気付かず、ダンテを犯すべく
躰を割り込ませるバージルをただ見つめることしか出来なかった。