標本ヒョウホン











激しい責めに堪えきれずに気を失えば、頬を打たれて無理矢理にも覚醒させられ。やめろと 言えば、いっそう深く犯され揺さぶられる。体力も何もかもが限界に達したダンテに、バージルは 欠片の容赦もしようとしなかった。
耳に囁かれるのは、まるで支配者のそれ。

「俺に許しを乞うてみろ」

嫌だと首を左右にすれば、嘲笑うように最奥を突かれ。支配、される。主が誰であるか、膚の 隅々に、細胞の一つ一つに刻み込むように。
鉄錆の臭いが鼻をつく。無理な結合に熱塊を穿たれたそこが裂けたのだ。顔をしかめるダンテとは 反対に、バージルのおもてには笑みがある。ダンテの血の匂いが、バージルを昂ぶらせているの だろう。ダンテを今まさに征服しているのだと、血腥さから実感出来るとでもいうのか。

「ぐぅ、あ……っ」

痛みに呻くダンテの下肢を、バージルがちらと見やり悪戯でもするように指先で弄った。 くちゅ、と濡れた音が耳を犯す。

「はしたないな」

くつりと笑われ、真っ赤になる。血が出る程の責めを受けてなお、ダンテ自身は萎えてすら いなかった。むしろ今にも達しようかとばかりに張り詰め、震えている。

「くっ……」

己の痴態を見ていられずに顔を背けたダンテの髪を、バージルが鷲掴みにした。ぐいと頭を 押さえ付けるようにされて、嫌でも自分の下肢が視界に入る。

「よく見ていろ」

残酷な声は笑みを含んでいる。見ろ、お前の躰は蹂躙されることを悦んでいるぞ。嫌とは、 どの口が言うのか。認めてしまえ。認めて、そうして、

「俺を求めろ。どうして欲しいか、言え」

こちらは悦んでいる。バージルが低く囁き、ダンテの男を深く銜えこむそこを指でなぞった。 次はこちらだ。と、髪を引かれ顔が上向きになる。バージルはダンテの唇を軽く食んだ。 それだけで、ダンテの背には電流のような痺れが走る。

「っぁ……!」

声を上げるまいとしていても、快楽に慣れた躰は正直だ。それは認めねばならないとダンテは よく判っているし、言われるまでもなく認めている。が、それとこれとは別問題だ。
ダンテは確かに快楽を好むが、バージルの理不尽な征服を好んではいないし、望んでもいない。 ダンテを征服し、蹂躙して我がものにしようとして充足するのはバージルだけであり、ダンテでは ない。

ダンテはバージルの美貌を見、鼻で笑ってやった。

「解けよ。アンタにして欲しいことなんざ、それだけだ」

ぎしりとベッドヘッドが軋み、バージルの眉間に皺が刻まれた。しかしバージルの頬には 薄い笑みがあり、恐怖を駆り立てる。

「成程?」

「気に入らねぇってカオだな、」

は、と笑えば、バージルは笑みを張り付けたままダンテの頬を手の甲で打った。ぱしん、と 乾いた音が響く。赤くなった頬をおさえることの出来ないダンテは、痛みを訴えることはなく ただバージルを見据えた。
自分の目がバージルにとって気に入らないものであることを、 ダンテは知っている。バージルはダンテが己に歯向かってくることを好まない。従順を求めれば その通りにすることを、バージルはダンテに強いようとする。しかしダンテは意志のある一個の 人間――――厳密には半人半魔だが――――であり、何もかもバージルの意のままになることは 出来ない。そもそも、そんなことはダンテのプライドが受け入れないのだ。
バージルはダンテを理解しようとしない。だから、苛立つ。

ずん、と一際強く粘膜を突かれた。不意のことにダンテの喉を嬌声じみた悲鳴がつく。

「ぁああっ……!」

バージルは二度、三度とそれを繰り返す。ダンテは堪らずにバージルをきつく締め付けた。

「ひっ……く、ぁあッ……」

無言のまま、バージルがダンテの内で自身を解放した。波打つように注ぎ込まれる奔流の荒さと 熱さに、ダンテはびくびくと躰を跳ねさせた。本来なら、ダンテもまたここで精を吐き出して いただろう。けれど性器には布が巻かれ、ダンテが達することを許さない。かろうじて、先端から ぷくりと濁ったものを滲ませるだけだ。

「うぅっ……うん……」

快楽の波をどうにかやり過ごそうと、目を閉じて唇を噛み締める。腕を縛られていなければ、 バージルの背に思い切り爪を立て、肩にがぶりと齧りついてやるというのに。

「っ、ん……んん……っ」

甘く呻くダンテを、バージルは果たしてどんな目で見つめていたのか。ずるりと男のものが 内から抜ける感覚に、ダンテははっとした。ダンテの腰を抱え上げるバージルの腕。まだ猛りを 失っていない熱塊が、躊躇いもなく引き抜かれていく。
思わず、どうしてと声を上げた。まだ自分は達していない。バージルもまだ足りぬだろうに、 何故、と。

理不尽な蹂躙には心底腹立たしいものを抱えてはいるが、快楽は快楽だ。途中で放り出されては、 困る。

揺れるダンテの双眸を覗き込み、バージルが艶然と微笑した。

「して欲しいことなど、ないのだろう?」

何も。だから俺は何もしない。

「俺は、な」

恐ろしいまでに美しい笑みを湛え、バージルはダンテの陰茎から戒めを取り去った。遮るものの なくなった性器は、しかし達することはなく。バージルはくっと目を細めた。

「バージル? ……っ」

蒼白になる。バージルがベッドのサイドボードから取り出したものに、血の気がざぁっと音を 立てて引いた。

「いっ……嫌だ、バージル! それは……っ」

ダンテの抗いなど、バージルにとっては子供がぐずるようなもの。ひょいと膝裏を一纏めに持ち 上げられ、あられもない恰好で尻をあらわにされてしまう。そして、バージルの精液と血に濡れた そこに硬質のものが突き入れられる。

「っあ、あぁ……っ!」

衝撃程に、痛みはなかった。それはバージルに散々掻き回された所為だろう。しかし精神的な 痛みは小さくない。それ――――男の性器を模したディルドーだ――――を突き込まれた瞬間に、 達してしまったのだ。追い詰められていたとはいえ、ただ入れられただけで果ててしまったのは 屈辱である。
悔しさに唇を噛むダンテの頬に、バージルの手が思いの外優しく触れた。が、紡がれた言葉は 手とは裏腹に残酷なもので。

「やめて欲しいなら、俺に泣いて縋って見せろ。それが出来ぬなら、いつまでもこのままだ」

かち、という小さな音。途端に内部で震え出した玩具に、ダンテは目を見開いた。下肢を戒める ものはない。達したいなら好きなだけ達すれば良い。しかし、それだけだ。玩具に遊ばれるまま、 果てるだけ。バージルはダンテが一人で乱れるさまを眺めている。許してくれと、ダンテが バージルに縋りつくまで。
――――何という、ひどい、

「こ、のっ……サディスト……!」

涙の溜まった瞳でバージルを睨み付ける。バージルはくすりと笑い、ベッドから離れた。 ダンテはそれを、睨むことしか出来ない。






放置されてどれ程が経ったか。時間の感覚などとうになくなったダンテは、窓から見える陽光の 赤味に今が夕刻であろうことをどうにか察した。バージルは、先刻部屋を出、階下へ行った らしい。
ダンテはベッドから下ろされ、床にべたりと座り込んでいる。粘膜を犯すものは変わらず内部で 蠢き、ダンテの身を苛んでいる。後ろ手に縛られた腕もそのままだ。変わらないのはダンテの 姿だけ。それ以外が、何もかも変わってしまった。

慣れ親しんだダンテの部屋は、今や他人の部屋のようにがらんとしている。散乱していたものは、 不要の一言で、バージルが総て処分してしまった。服も、アクセサリーも、雑誌も、何もかも。 残ったものはダンテが身に着けたままの赤いコート一枚きり。ダンテの愛用する銃と剣は事務所に ある為、安否は知れない。

すっかり床の見えるようになった部屋でひとり、ダンテは途方に暮れるしかなかった。

卑猥にくぐもった機械音。身動ぎすれば濡れそぼった下肢が粘質の音をさせ、いたたまれなく する。もはや、限界だった。

ぐったりと、ただぼんやりと他人の部屋のようになった天井を見上げる。

バージルはダンテを常から支配したがっていた。ダンテはそれに気付いていて、無視をした。 その結果が、これか。
自業自得、というにはあまりに理不尽だ。ダンテは自身をして悪いとは思わない。しかし バージルにすれば、総ての責はダンテにあるのだろう。

始めからバージルに従っていれば。許しを乞い、縋っていれば。
高いばかりでものの役にもたたぬ矜持を、もっと早くに投げ捨てていれば。

そうすれば、或いはこんなざまにはならなかったのか。

ダンテは目を閉じた。何も見ずに済むならば、ずっと目を閉じていよう。しかしそうはゆかぬ ことは、判りきっているのだ。
逃げることは、端からしない。出来る筈がない。

やがてドアの鍵が開く音がして、バージルが部屋に戻って来た。ダンテがバージルを見やると、 冷たい眼と視線が絡んだ。

「……バージル、」

答えはもう、決まっている。






選択の余地はない。



「なぁ、バージル」

アンタは俺を、何だと思ってるんだ……?






答えは始めから、そこにあったのだ。


















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「とことん鼻っ柱の強いプライドの塊のような弟を、
とことん傲慢で支配欲の塊のような兄が躍起になって調教して屈服させる。
…という裏話」

というリクエストでした。クリア、出来てるんでしょうか…(汗)
最後は屈服したのかしていないのか、ご想像にお任せすることにしました;