青銅ブロンズ











人が、記憶を失うのにはどんな理由が充てられるだろうか。事故か、それともよほど精神が 追い詰められたときか。経験したことも見たこともないものには、その際に脳に何が起こって いるのか、想像することも難しい。

誰、と言われた。互いに互いがなくてはならぬ存在である筈の、双子の弟に。有り得ぬことだ。 しかし、今バージルの腕の中で震えている少年は、確かにバージルを見知らぬ男として認識して いるのだ。
弟が悪魔の毒を受けたことにより、躰が縮んでしまったのはもう随分前の話だ。しかし中身は バージルと同じ年齢のままであり、幼くなったのは見目だけのことだった。それが。

「こわいよう……」

迷子のうさぎのように震え、涙をこぼす弟を、バージルは眉を顰めて抱き締めた。しかし少年の 不安を取り除くことは出来ず、細い躰はバージルの腕を嫌がるように藻掻くばかりだ。
少年が求めているのは、“兄”の腕であって、“見知らぬ男”のそれではないのだ。が、 少年の兄はバージル以外にいない。少年がバージルを、己の兄として認識していないことが 問題なのだ。

記憶が消えているのだと考えるのが、妥当なところだろうか。しかし理由が判らない。

「何故だ」

声に出して呟いても、答が返ってくるわけもなく。ただ、弟がぷるぷる震えているのみ。

苛立つのは、当たり前のことだとバージルは思う。
少年の首筋に刻んだ痕に、バージルはもう一度唇で触れた。びくっと跳ねる躰を左腕で押さえ、 右手を少年に着せたシャツの裾から脇腹へ滑り込ませる。途端に躰を強張らせて逃げを打とうと する少年だが、バージルがそれを許す筈はない。少年の腰を深く抱き、シャツをまくり上げて 胸を飾る小さな尖りを爪で弾いた。

「あっ……!」

びくんと、少年が背をしならせる。驚いたように大きな瞳をいっぱいに見開いて。
指の腹で転がすように触れてやれば、快楽に馴れた躰は本人の意思とは関係なく蕩け始める。 それを知っているバージルは、少年の耳朶を甘噛みしながら、ふと片目を眇めた。少年は 確かに、バージルの指に反応を示している。しかし、だ。その表情は快楽を得ているという よりも、未知の感覚に対する驚きと困惑が色濃いように見える。漏れ出る声も、そうだ。 甘やかな喘ぎとは、明らかに違う。

何故なのか。

バージルは恐怖の為か、すっかり畏縮してしまっているダンテの、股に手を伸ばし脚の間のものを 布の上から撫でるように触れた。当然のように、ダンテの躰がびくりと強張る。何をされるか、 全く判らぬのだろう。初々しい反応と取れるそれに、バージルは目を細めただけだった。
下衣の上からダンテの中心を撫ぜ、掌で擦るように刺激を与えていく。先刻は快楽など知らぬと ばかりの反応を示していたダンテだが、さすがに陰茎を弄られて無反応を続けることは出来ない。 そこはバージルの手の中で、じわじわと、しかし確実に昂っていく。同時に、ダンテの唇からは 切羽詰まったような吐息と喘ぎが漏れ始めた。

「っぁ……はぁ……ふ……んん……やぁ、ん……っ」

戸惑いの混じった声。逃げようという思考は飛んでいるのか、ダンテの手はバージルの肩を掴み、 縋りつくものへと変わっている。目の前にバージルがいるから――――縋れるものがバージルの 他にないから、だ。ダンテはまだ、バージルを己の兄として認識しておらず、そのことは、 ダンテがバージルにしがみつきながらも総てを委ねようとはしていないことから明らかだ。 ダンテがバージルに対して抱いている感情は、畏怖であって思慕ではない。
何とも腹の立つ話だ。

男の躰は意思とは関係なく快楽を得ることが出来る。バージルの掌の中で、ダンテの陰茎は ようよう張り詰めている。綿のパンツを穿かせてあるとはいえ、下着に包まれた状態では 苦しいに違いない。ダンテが自身の躰の変化に気付いたらしく、脚の間を見下ろし、ダンテから すれば不自然に見えたのだろう膨らみを認めてぎくっとなる。

「っ……なに、これ」

愕然としたような声音と、恐怖の色すら浮かぶ表情。大きな双眸は今にも土砂降りの雨に なりそうな程、歪んでいる。
バージルはその反応に一つの確信を抱きつつ、ダンテの背中をぽんぽんとあやすように優しく 叩いてやる。

「怖がる必要はない。男なら当然のことだ」

ぽん、ぽん。バージルの殊更優しげな声音と手に安堵したのか、顔を上げたダンテの瞳には、 もう大雨になりそうな様子はない。ただ、生理的なものだろう涙が溜まってはいるが。

「大丈夫……なの? ぼく、へんじゃないの?」

拙い言葉遣いだが懸命に伝えようとするダンテに、バージルは微笑を見せてやった。

「あぁ、大丈夫だ。お前は俺に、総てを委ねれば良い」

ダンテは少し迷いながらも、こくんと頷き、バージルの服の裾をきゅっと握り締めた。

「……うん、バージル」

それは無意識に紡がれたものだったのだろうか。ダンテのバージルを見つめてくる双眸に変化は ない。
ダンテの記憶――――精神、と言うべきか――――は、どうやら随分幼い時分にまで退行して しまっているらしい。時期としては、彼らが肉体的な関係を結ぶ前。もしかすれば、バージルが ダンテに性的な意味合いで触れた前まで溯っているかもしれない。どちらにせよ、今のダンテは まるで性的な知識を持っていない状態だ。バージルのすることにいちいち怯えるのも、無理は ない。
もっとも、ダンテの精神が退行していると判っただけで、治療方法までは判らないが。

「ふん……」

鼻を鳴らせば、ダンテが反射的にびくりとする。苛立ちはすれど、このダンテが悪いわけでは けっしてない。精神が退行する以前のダンテに何かしら原因があるとしか考えられなかった。
バージルはダンテの耳に直接「悪かった」と吹き込み、ほっとしたように頷くダンテの下衣を 下着ごと脱がせた。脚を割り広げてバージルの腿を跨ぐ格好に座り直させる。これから何が 起こるのか、何をされるのか、ダンテは不安なのに違いない。視線をきょろきょろと落ち着き なく泳がせて、手はバージルのシャツの裾を握ったまま。下肢だけをあらわにして怯えるさまは、 下手な商売女よりも雄を猛らせるから始末が悪い。

バージルには幼い子どもを性慾の対象にする趣味などないが、ダンテが相手ならば話は別だ。 ダンテはバージルが慾を覚える唯一の存在なのだから。

ダンテの、ふっくりと膨らんだ陰茎を、バージルはやわく扱いていく。思わず、だろう。 逃げ腰になる細い躰をあやしながら、バージルはダンテの陰茎の先端を親指の腹で弄った。 くちゅりと、透明な先走りが肉と擦れて卑猥な音をさせる。

「ひゃっ……ぁ……バぁ、じ、ル……っ」

ダンテの手に力がこもる。先端を数度擦ってやると、ダンテはあっけなく射精した。手に纏わり ついた少量の白濁を、バージルは躊躇わずに舌で舐め取る。ダンテは吐精の余韻でぼんやりと した双眸をバージルに向けている。バージルの手を、じっと見つめているらしい。

「それ……なに?」

首を傾げるダンテに、バージルは「男は皆出るものだ」と簡素に答えておく。これと同じ問答を、 子どもの頃にした記憶がある。バージルの答えはあのときとは違うものだが、今のダンテには そうと知られることはない。
ダンテは納得したようなしないような表情で、何か考えているふうだ。何を、か。バージルが 眉を顰めてダンテの腰から尻に手を滑らせると、ダンテは弾かれたようにびくっとした。

「やっ……?」

「動くな」

冷たい声で命じれば、ダンテはうさぎのように怯えた瞳にバージルを映した。良い目だと、思う。 ダンテは生来の快楽主義者だが、子どもの頃から露骨にそうだったわけではない。バージルが 教えてやったからこそ、性的な快楽に酔うようになったのだ。
現状のダンテは、おそらく本当に何も知らぬ白紙の状態であるのだ。バージルが触れるたびに いちいち怯えるのも、そうだからだろう。そんなダンテを、犯そうとしている自分は異常なの だろうか。答えは――――否、だ。
記憶に奇妙な障りが出ていようとも、ダンテがダンテであることに違いはないのだ。

バージルはダンテの尻からさらに奥へと手を滑らせ、きゅっと窄まり異物を阻む蕾を指先で なぞった。途端、ダンテがひゃっと大袈裟といえる悲鳴を上げた。

「やだっ」

人に触れられるべきではない箇所である。軽い混乱を起こしてじたばたと手足を振って暴れる ダンテを、バージルは再びあやそうと手を離した。その隙を、ダンテが抜け目なく突いたのか、 どうか。

「っ……」

細い躰がぐらりと傾いた。後ろへ倒れると思いきや、ダンテは腰を捻って背後のテーブルに 両手をつき、這うようにテーブルを乗り越えてしまう。まんまとバージルの膝から逃れた ダンテは、覚束ぬ動きでテーブルの上から降り、たっと部屋の隅へ逃げ込んだ。
といっても、隠れる場所はどこにもない。バージルから距離を取ったことで安堵したらしく、 ほう、とため息など吐いている。

ダンテが、逃げた。

バージルは己の中で何かの音が響いたのを聞いたが、それが何を意味するのかは 判らなかった。
気が付いたときには、顔を蒼褪めさせて怯えるダンテの痩身を、壁に押し付けて深々と貫いて いた。慣らさずに押し込んだらしく、やけに滑りが良いのは無理矢理犯したそこが裂けて、 血が溢れているからだろう。

痛い、嫌だと泣き喚くばかりの口はハンカチを詰め込むことで塞ぎ、藻掻こうとする腕はベルトで 一纏めに縛り上げて。

「んんっ……ん、ふぅ……んぅう……ッ!」

ぼろぼろと涙を流し、当たり前だが息苦しそうに喘ぐダンテに、バージルはより強く雄が猛るのを 感じて、慾望のまま、ダンテを蹂躙した。戒めた腕を首に回させると、ダンテがバージルの肩に きつく爪を立てた。その痛みすらバージルを甘く誘い、雄を煽るのだとは、ダンテが判っている 筈もない。

「ッぐ……ん、くぅッ……!」

ダンテの涙は止まることを知らず、バージルの蹂躙はダンテが気を失うまで続けられた。
























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