蒼芽ソウガ











言うなりになれと言われ、頷きこそしたものの、やはり不安は拭いきれるものではない。

ダンテはバージルの胸に頭を預け、目を閉じている。まるで反応を示さなくなった中心を、 バージルの掌が包み込んだ。冷たい指先に、反射的にびくりとする。が、それだけなのだ。
悪い夢だと思いたい。夢ならば何て変な夢を見たものかと、笑い飛ばして終了に出来る。 なのに。

これは、夢なんかじゃないんだ。

陰茎を、ゆるく上下に扱かれる。先刻もされたが、やはり何も感じない。バージルの手が自分に 触れているということが、ダンテの羞恥を煽りはするがそれだけだ。あとはただ、疼痛のような ものがじわじわと腰に伝わってくる。

「……っ……」

快楽を得られないまま行なわれる行為は、ただつらく恥ずかしいばかりだ。しかし堪えなければ ならない。自分の為にもだが、何よりバージルの為に――――もしこの何も感じない躰のままで いたら、バージルに抱いて貰えなくなる。飽きられてしまう。捨てられる。それだけは絶対に 嫌なのだ。どんなにつらくても、どんなに恥ずかしくても、堪え抜かなければ――――
親指の腹で先端をくちりと押し潰すようにされて、ダンテは「ひっ」と悲鳴を上げ思わず腰を 後ろに引いた。バージルの左手が素早くダンテの尻を掴むように押さえ、自分のほうへ引き戻す。 ダンテにはもちろん逃げるつもりなどないのだが、反射的に躰が動いてしまうのは仕様がない。 だから、

「逃げるな。ダンテ」

耳朶を甘噛みされて、ダンテは頬を赤くしながらも頷いた。

「わかってる、よ。……でも」

「何だ」

聞き返しつつ、バージルの手がダンテの尻をまさぐる。ソファーのクッションに隠れていた秘蕾に 無遠慮に触れられて、ダンテはぎくっとした。顔をそろそろと上げ、上目遣いにバージルを 見上げた。

「……って、恥ずかしいん、だ……よ……っ」

語尾が震えてしまったのは、バージルが探り当てたばかりの秘蕾をくにくにと擦ったからだ。 全く慣らしもせずに指を突き立てられるのではと、ダンテのそこは意思とは別に戦慄いた。 触れているバージルには、それがダンテ自身よりもはっきり判ったらしい。くつりと笑うさまは、 バージルの意地の悪さが露見していてたちが悪い。

「期待しているようだな、ここは」

揶揄されて、ダンテは首筋まで赤くなった。ダンテ本人に期待などしているつもりは一切ないの だが、そんな言い訳はバージルには通用しない。

「後ろを犯せば、思い出すかもしれぬな」

躰が勝手に、という言葉を、バージルはあえて口にしなかったのだとダンテは察した。もっとも、 その部分があろうがなかろうが、露骨すぎる科白であることに変わりはない。
ダンテが絶句していると、バージルが左手をダンテの口許に運んで唇を撫でた。

「口を開けろ」

嫌だ、とは言えない。バージルの言うなりになることを、ダンテは既に約しているのだから。

唇を薄く開けると、すぐにバージルの指が二本、口腔に侵入してきた。節の高く長い指に、 そうっと舌を絡める。苦しげな吐息が勝手にこぼれた。

「ん……んぅっ……」

ただ唾液を絡めれば良いだけかと思いきや、バージルの指が動いて舌を挟まれた。そうして、 くにゅりと弄ばれる。次第に息が上がっていくのを、バージルは愉しんでいるようだ。まったく、 性格が悪い。

「ふぅ、ん……んくっ……」

意地の悪いバージルの指に舌を弄られているうちに、陶然としてしまっていたのかもしれない。 バージルがくすりと笑った。

「止まっているぞ」

はっとした。バージルに指を舐めろと言われていたのに、すっかり忘れてしまっている。 ダンテは慌てて舌を動かそうとするが、バージルの指が邪魔をするように動くものだから、 眉を寄せた。

「ん……! ふぁ、じうっ……」

抗議したくとも、バージルの指があってはろくに言葉を紡げない。ダンテはバージルを睨んだ。 やれと言ったのはバージルだろうに、これはないではないか。が、自分の双眸が涙で潤んで いようとはまるで知らぬダンテである。バージルが笑みを深くした理由など、判るわけが なかった。

「そう煽るな。このまま犯して欲しいのか?」

慣らさずに。そう囁かれて、ダンテは悲鳴を上げかけたが寸でのところで飲み込んだ。

「られあ、ほんら……!」

誰がそんな煽るような真似をしたのか、と。抗議する言葉は酔っ払ったように呂律が怪しい。 しかしバージルには、ダンテの言いたいことが伝わったようである。

「それが誘っていると言うんだ」

「ひへはいっ!」

間抜けなことこの上ない。バージルに舌を捕えられていては文字通り話にならず、しかし ダンテはバージルの指を噛むことはしない。これは意識してバージルの指を噛まぬように しているのではなく、全くの無意識だ。
バージルが不意に、ダンテの中心を少し強めに握りこんだ。瞬間、ダンテの躰がびくっと ねる。

「ッひゃ……!」

その些細な反応すらバージルを愉しませているのだと、判っていても反応せずにはおれなかった。 ようよう、口から指が引き抜かれる。

腰を浮かせろ。

低い声音で囁かれる。ダンテは一瞬躊躇ったが、瞼を伏せてバージルの肩に手を乗せた。 バージルを支えにして重心を前に傾けることで、ダンテの尻が僅かに浮く。
するりと、バージルの濡れた指が後ろに回されて……何をするつもりかなど、今更尋ねる程、 ダンテは初心ではない。しかし、馴れてはいても初めの痛みを忘れられるわけではなく、躰が 強張ってしまうのはどうしようもない。

秘蕾を、濡れたものが触れる。窄まった襞をなぞられ、指先がその先へ入り込もうとする。 ダンテはバージルの肩に縋るようにしがみつき、額を擦りつけた。
バージルが、宥めるようにダンテの陰茎をゆるく撫でながら、やけに優しい声音で囁いた。

「力を抜け。痛い思いをさせたいわけではないのだからな」

時折、慣らさずいきなりダンテを貫くこともあるバージルが、どの口でそんなことを宣うのか。 ダンテはむっとしたが、今はそんなことを言及している場合ではない。自分の躰の為にも、 バージルの言う通りにすべきだということくらい、ダンテにも判る。けれど、

「バージルぅ……」

何故かなど判らないが、こわくてならないのだ。力を抜かねばならないと判ってはいるが、出来ない。躰が変に強張ってしまっていて、言うことを聞いてくれなかった。 まるで、初めて犯されるような―――― バージルの指先が、くっとダンテの粘膜に埋め込まれた。まだ第一関節程も入っていない。 それなのに、躰は懸命にバージルの指を排除しようとしているのが判って、ダンテの双眸に 涙が滲んだ。

「ぅ……う……」

ダンテ、とバージルが不意に呼ばわった。冷静な声音に、ダンテの肩が大袈裟に跳ねる。

「痛いか?」

気遣わしげに問うて来る、耳慣れない言葉。ダンテは慌てて首を左右にした。

「だいじょ……ぶ……だか、ら、」

拒みたいのでは、ない。バージルを拒絶するなど、有り得ないことだ。だから、

「やめちゃ、いやだ……」

必死に、訴えた。

バージルがダンテの陰茎から手を離す。行為を止めるものと思い、さっと顔色を悪くした ダンテだったが、バージルは自由になった手でダンテの腰を支え、自分の膝にひょいと 抱き上げた。

「やめてなど、やらぬさ」

珍しく軽い調子で言い、バージルはダンテの頬にキスをした。ダンテはほっとため息を吐いた。 安堵のしようがあからさまだったのか、バージルが揶揄するようにくっくと笑う。ダンテは顔が 紅潮するのを止めることが出来なかった。

「わ、笑ってんじゃねぇよっ」

むきになってバージルを睨むが、効き目がないことは判っているのだ。案の定、バージルの 笑みを消すことは出来ず、

「続きだ、ダンテ。……構うまい?」

などと嘯いて、ダンテの返事も聞かずに指を中程まで埋めた。バージル自身に貫かれることと 比べれば、指など(しかもまだ一本目だ)楽なものに違いない。しかし、やはりダンテの躰から 強張りが取れる様子はない。入り込んで来る異物にぎくりとして、また顔を伏せた。つらそうに しているさまなど、見てもバージルは不快なだけだろう。たいがいバージルはサディストだと ダンテは思っているが、何だかんだと言って、兄は自分に優しい。ダンテの辛苦に堪えるさま など、見たくないのに決まっている。

粘膜を犯す指が、じりじりと奥へ奥へと進もうと動く。それだけでなく、そこを広げるように 指を左右に揺らされて、ダンテはバージルの肩をぎゅっと掴んだ。己が快楽を感じているか否か、 考える余裕すらダンテにはない。漏れる息は、苦しげなそれだというのに。

「ッ……ふ……っ、ん、……」

腰に回されたバージルの手が、ふとダンテの背中をゆるりと撫ぜた。

「ゆっくり息をしろ。大丈夫だ。ゆっくりで良い」

大丈夫だと言われるまま、ふぅっと息を吐く。吸い込むと、既にひりついた喉に痛みを感じたが、 ゆっくり吐き出せば苦しくはない。

「ン……はぁ……は……」

背中を撫でる手が心地好くて、ダンテの躰から少しずつ強張りが解けていく。それでも、後孔に 埋められた指から意識を引き剥がすことは出来なかったが、ましにはなったと言うべきだろう。
先刻よりも明らかにダンテの緊張がほぐれたと見て、バージルが指を動かした。くちゅりという、 粘っこい水音が耳に届く。

「……良い音だな、ダンテ?」

優しいかと思えば、これだ。ダンテは唇を噛んだ。

「ッ、るさ……あっ」

言葉を奪う為にか、バージルが俄かに指を上下させたものだから、ダンテはぎくっとして高い声を もらした。くちゅくちゅと、わざとさせているとしか思えない、いやらしい音が背中を這う。 羞恥に身をつまされる。
粘膜がバージルの指に絡み付き、ひくついているのが判り、湯上りのように全身がほんのりと 赤く色付く。

羞恥は快楽に繋がる。

そのことをダンテに教えたのはバージルだ。そして現在、バージルはそれを実践しているの だろう。快楽を忘れてしまったダンテの躰に思い出させる為――――と言えば尤もらしい 建て前だが、本音はバージルが愉しいからだとダンテには思える。恨めしい限りだけれども、 それで治るならば文句は言えない。そもそも、こんな躰になってしまったというのに、バージルが 自分に愛想を尽かせなかったこと自体が、既に奇跡ではないか。この際、バージルの悪趣味には 目を瞑るしかない。
飽きられては、いけないのだから。

くっと奥歯を噛み締めたダンテのうなじに、バージルが唐突に歯を立てて膚を吸った。

「ッ?!」

ひゃっと悲鳴が出そうになるが、どうにか飲み込んだ。耳に、バージルの低い声音が吹き 込まれる。

「余裕だな、ダンテ? 一本では足りぬということか」

ぐちゅりと内壁を掻かれ、ダンテは思わず「ひっ」と悲鳴を上げて腰を揺らめかせた。 バージルの指は止まらない。

「ひぁっ……んん……っ」

今感じている感覚が何であるのか、ダンテには判らなかった。喉をつく喘ぎは当惑の色が濃くて、 快楽によるものであるかの判別はつけ難い。
バージルが何をか考えるふうに「ふん」と鼻を慣らし、指を引き抜いた。二本に増やそうと しているらしく、我知らずひくつく後孔に充てられて、ダンテは咄嗟に背中越しに尻を見やった。 バージルの指は奥まったところで動いているので、この位置から目視することは出来ない。

「どうした。お前のここが、俺の指を咥えているさまでも見たいのか?」

卑猥な言葉を衒いもなく口にするバージルを、ダンテはたまに殺してやりたくなる。その余裕が あれば、の話だということが情けないばかりだが。

「違ぇよっ……」

「ならば、何だ」

言いざま、バージルは指を二本、ダンテの粘膜に押し込んだ。

「くぅ、んッ……」

犬が甘えるような声を上げてしまって、咄嗟に口を手で覆ったが、出て行った言葉を取り戻す ことは出来るわけもなく。バージルが音もなく笑ったのが、気配で判る。煩い。笑うな。唇を 噛み締めて、内心で罵る。バージルが意地悪くダンテの粘膜を弄り始めたものだから、下手に 口を開けば甲高い悲鳴でも上げてしまいそうなのだ。

「堪える必要などないだろうに」

バージルが囁きながら、ダンテの弱い箇所を指先で突く。弱いと言っても、それは躰の変調が 起こる前のことだ。今は……

「んぁッ……あ……」

びりっと痺れるような感覚があって、ダンテは目を瞠った。今のはどういう類の感覚なのか。 やはり、判らない。ただ明白なことは、萎えたままだったダンテの陰茎が、ぴくりと首を もたげかかったこと。
その変化に、ダンテよりも先に、見えていない筈のバージルが気付けたのはどうしてなのか、 ダンテには判らない。

「順調のようだな」

声が笑っている。ダンテは躰を引いて自身を見下ろした。バージルが立て続けに弱い箇所ばかりを 擦り上げ、その度に、ぴくぴくとダンテの陰茎が微かにだが反応を示す。
ダンテの目が、輝いた。がばりとバージルを見上げる。

「大丈夫、なのか? 俺、もう……」

治ったのかと、急いたように問う。期待に満ちたダンテの問いに、しかしバージルのくれた答えは ひどく慎重なものだった。

「まだだ。これだけではまだ、治ったと断言は出来ぬ」

途端にしょぼくれて肩を落とすダンテの後孔を、バージルはくすぐるようにくちゅりと 掻き混ぜた。

「ひんっ! ……や、ちょ……っ」

制止を求める声を、バージルは許してくれなかった。痛いくらいに粘膜を掻き回されて、 ダンテはまた、バージルにしがみついた。

「俺の言うなりになるのだろう。もう忘れたか、ダンテ?」

耳に囁かれる低い声はひどく酷薄で――――ひどく、甘くて。

ダンテはバージルの首に腕を回し、ぎゅうっと抱き付いた。

「……加減、して?」

小さな小さな声で、少しばかり恨めしげに訴えた。
























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次?
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