蒼芽ソウガ











僅かばかりの反応を示したからと言って、完全に治ったと判断するのは早すぎる。バージルは ダンテの安堵を消したかったわけではないが、まだ駄目だと言って後孔を探る手を引き抜いては やらなかった。
ダンテは表情を曇らせ、でも、と言い募ろうとする。バージルはその口を、自分の肩に押し つけることで塞いいで黙らせた。

「後ろだけで達ければ、考えてやる」

残酷だという自覚はある。しかしこれは必要なこと――――言わば治療だ。中途半端な治療は、 ともすれば今よりも具合を悪くしかねない。処置は迅速かつ徹底的にやらねばならぬ。それが ダンテの為なのだ。
バージルの胸板を、ダンテが一回りも小さくなった拳で殴った。痛みはない。とん、と バージルにすれば軽い衝撃がある程度だ。

「大人しくしていろ。裂けるぞ」

どこが、と口にする必要はない。ダンテもすぐに察し、びくっとしたが振り上げた腕は行き場を なくして震えている。バージルが暖かい粘膜をやわく撫でてやると、ダンテはくぐもった悲鳴を 上げた。振り上げた腕が、バージルにしがみつく為のものに変わる。

「そう、良い子だ」

囁いてやれば、ダンテはバージルの服をぎゅうっと掴んだ。

「バージルの馬鹿……っ」

罵りすら、ダンテの唇が紡げばバージルの耳には甘い睦ごとに聞こえるから、不思議なものだ。







粘質の水音がひっきりなしに響く。場所は、少し前にリビングからバージルの寝室に移した。
ダンテはベッドの上で獣のように四つん這いになって、躰をほのかな朱に染めてシーツに顔を 押しつけている。煌煌とした電灯の下、バージルはダンテが羞恥に堪えるさまをじっと 見つめた。
良い恰好だ、とは既に言った後だった。ダンテをこの姿にさせたのは当然ながらバージルで、 ダンテはひどく嫌がって抵抗した。それを黙らせ、頭を鷲掴みにしてシーツに押しつけたのは バージルだ。

言うなりになれ。そう言ったバージルに、その身を委ねたのは他でもないダンテ自身だ。それを 思い出させてやると、ダンテはもう抗わなかった。今はただ、ひたすらに羞恥に堪えている。 頭を下げることで尻が高く上がり、ただ四つん這いになっているよりも扇情的だ。否応なく 下肢に熱が集まるのを、バージルは意思と理性で抑えた。

バージルはダンテの尻が真正面に来る位置から、ダンテを眺めている。指一本足りとも、 ダンテには触れていない。視線だけをねっとりと、ダンテの躰に這わせている。
ダンテの内を犯しているのは、バージルがダンテの知らぬ間に手に入れていた性玩具だ。 性能も形も様々ある中で、バージルがダンテにと選んだものはごくごく簡素なバイブレーター だった。

「んっ……ふ……く、ん……ッ」

ダンテの唇から、シーツに吸い込まれそこねた喘ぎが漏れる。確かに快楽を得ているようでは あるのだが、ダンテの陰茎からは先走りが滴るばかりで、まだ一度も射精はしていない。指で いくら弄っても駄目だった。場所を寝室に変え、指を玩具に換えてもう一時間近くなるが、 やはりどうにも巧くいかない。何故かなど判るわけもなく、ダンテの体力は磨り減るばかりだ。

「はぁ……は、ん……ぁう……」

喘ぎにはつらそうな色が滲み始めている。はっきりと快楽を感じているというのに、達することが 出来ないのは確かにつらいだろう。しかしバージルは救いようが見つけられずにいる。羞恥を 募らせてやろうと四つん這いにさせても、どういうわけか駄目なのだ。

「苦しいか、ダンテ?」

問えば、ダンテはシーツに額を擦りつけて肯首する。苦しい、と荒い息をしながら訴える声は 震えており、泣いているのだろうとバージルは察した。これ以上、玩具で弄ったところで意味は なさそうだ。もう充分すぎる程放置していたというのに、バージルは肩を竦めてダンテの尻に 手をやった。
触れた途端、ダンテがびくっとする。こちらのことが見えていないぶん、過敏になっている らしい。

「息を吐いて、力を抜いていろ」

言うが早いか、バージルはダンテの濡れそぼった後孔に指を挿入し、内を探った。ダンテが 思わずといったふうに頭を上げ、背を滑らかに反らせた。

「あぁっ……!」

玩具はいくらもせぬうちに見つかった。限界まで押し込んだのだが、時間が経つにつれ押し 出されて来ていたようだ。体温が移ってすっかり暖まった玩具を、バージルは躊躇もせずに 引き抜いた。ダンテの腰が、無意識にだろうが妖しく揺れる。

「ひっ……ん……」

玩具をシーツに放ると、ダンテが急に緊張から解放されたかのようにへたりとくずおれた。 微かに嗚咽が聞こえてくる。

「ダンテ、」

呼ばわるが、応じる声もない。バージルは力なく投げ出されたダンテの足首を掴み、さほどの 力も込めずに引き寄せた。小さくなったダンテは、見た目通りに軽い。

「やっ……!?」

ダンテが咄嗟に掴んだシーツごと、バージルはダンテを膝に抱き上げた。赤ん坊を扱うように ダンテの躰を膝の上で反転させ、心地が好いようにダンテの背が胸につく格好に抱き直す。

「俺の膝では、不満か?」

驚いてか、涙は止まっているらしいが、ダンテの顔は濡れたままだ。バージルはダンテの顎に 手添えてこちらを振り仰ぐように上向かせて、濡れた頬に舌を這わせた。涙は塩辛いものだが、 バージルには甘く感じられる。バージルは味わうように、入念にダンテの涙を舐め取った。 ダンテは次第に、蕩けたような表情になる。

「っん……んん……バージル……」

もっと、と。幼い声音でバージルを誘う。

眦に口付けをしてやりながら、バージルはダンテの腿をするりと撫ぜた。ぴくっとダンテの肩が 反応するが、それ以上に口付けに夢中になっているらしく、嫌がる素振りはない。
バージルは黒い革パンツの前を寛げ、十二分に猛った自身を取り出した。理性で抑えてはいた ものの、ダンテの痴態を観察していただけでこれである。己もたいがい狂っている。そう自覚は あるが、後悔はない。この狂気はダンテただ一人の為のもの。生まれ落ちた瞬間から、己は狂う ことを定められていたのだ。

「挿入れるぞ」

バージルの施す口付けにすっかり陶然となっているダンテに、囁く。

「ん……」

ぼんやりとした応え。バージルは口の端に笑みを浮かべ、ダンテの腰を抱き少し持ち上げた。 放っておかれてひくひくしているダンテの秘蕾に屹立を充て、ダンテがぼうっとしている間に、 後ろから貫く。
ぎくっと、ダンテの顔が強張った。

「ひッ……!」

指と玩具とでたっぷり拡げられたダンテの粘膜は、バージルのものをすんなりと受け入れるだけで なく、いやらしく絡みついてくる。悪魔の毒によって躰は縮み、幼さの残る容姿になりはしても、 ダンテはバージルが教えた快楽を忘れてはいない。
男を受け入れるようには造られていないそこは、しかしバージルを食い締めて最奥へ迎えようと している。仕込んだのは確かにバージルだが、素質がなければこうまで淫らにはならぬだろう。 ダンテのからだは、己を受け入れるように出来ている。バージルはそう考えて疑わない。
だから、こそ。ダンテが快楽を忘れるなど、有り得ぬことなのだ。

蠕動する粘膜に押し入ると、ダンテが堪らずといったふうにぶるっと躰を震わせた。

「ぁ……あっ……!」

寸の間、ダンテが硬直する。バージルは眉を顰め、ダンテの下肢を覆うシーツを剥ぎ取った。

「あ……」

小さな声をもらしたダンテの下肢――――どうしても射精を拒んでいたそこが、しとどに濡れて いる。シーツにも、染みが出来ていることだろう。余程溜め込んでいたらしく、白濁したものは ダンテの腹や腿までべったりとこびりついている。

「……ほう、」

思わず感心したように呟くと、ダンテは真っ赤になってシーツを掻き寄せて頭からかぶった。 入れただけで射精したことなど、あっただろうか。しかも散々、玩具で弄っても達することが 出来なかったというのに。
シーツにすっぽり包まったダンテの、声もなく震える躰をバージルは抱き締めた。ダンテは 恥ずかしいことこの上なかっただろうが、何にせよ目的は果たされたのだ。ダンテは不感症では ない。

「ダンテ、もう大丈夫だ」

安堵させてやる為に、優しく囁きながらダンテの肩や二の腕を撫でる。初めから己のもので 貫いてやっていれば良かったのかもしれない。そうは思うが、そうしていても今のように なったかどうかなど判らず、所詮は仮定の話でしかないのだから無意味だ。

「……バージル、」

か細い声。バージルは耳を寄せた。シーツがもそもそと動き、バージルの腕をそっと押さえる ように重ねられる。

「ダンテ?」

「もう……大丈夫なんだよな……?」

「あぁ、」

「じゃあ、もう……やめる、か?」

確かに、後ろだけで達ければ、という交換条件を出した覚えはある。射精が出来なければ 治ったとは言えぬと、言った。だからダンテも、震えながらバージルの言うなりになって いたのだ。射精をすれば終わる、と。しかし、だ。今のダンテの口振り――――声音からは、 どうも……

「どうした、ダンテ」

バージルの腕に重ねられたシーツに皺がいく。ダンテがバージルの腕をきゅっと掴んだのだ。

「バージル、まだ……まだやめちゃいやだ……」

抜かないでとばかりに、バージルを咥え込んだ襞がきつく締まる。不意のことに、バージルは 片目を眇めた。

「ふん……? ならば、どうして欲しいか言え。上手に言えたなら、その通りにしてやろう」

ダンテの頭からシーツを脱がせ、くしゃくしゃになった髪を殊更優しく梳いた。絡まることも 引っ掛かることもなくするすると梳ける銀糸は柔らかく、心地が好い。

「……意地悪ぃ……」

「今更、だ。いつも言っているが」

「くそ……、……バージル、もっと……して……?」

怖々、といったふうにバージルを振り仰ぎ、上目遣いに見上げてくる碧い瞳。これが赤ならば、 さしずめ狩人に追い詰められた兎といったところか。

だが、まだだ――――

「何を、どう、だ? 細かく言わねば判らぬぞ」

「そ、んな」

絶句するダンテに、バージルは笑んで見せた。言わぬならこのままだ。表情からバージルの 言わんとしていることを察したらしいダンテが、悔しそうに唇を噛んだ。狡いと、言いたいの だろうか。しかしダンテはこちらの要求を突っ撥ねることは出来ないと、バージルは 確信している。

「バ……ジル……」

掠れた声がバージルを呼ばわる。良い声だと、バージルは思った。
ダンテの耳が赤い。

「……もっと、う……動いて……奥、突いて……」

早く、とねだり、腰を揺らめかせるさまはいかにも淫らで良い。バージルはダンテの髪に 口付けた。

「まだ足りぬが……まぁ、大目に見てやろう」

囁くなり、ダンテの膝裏に手を差し込み、ほっそりとした躰を上下させた。容赦などない 突き上げに、ダンテが驚いたように喘ぐ。

「ぅあッ……! あっ、あぁ……っ!」

衝撃に堪えながら、しかしその唇からもれ出る声には明らかな快感が滲んでいる。熱く熟れた 粘膜は、意思があるかのようにバージルの律動に合わせて蠢き、いっそう蕩けてはバージルを 深く導いていく。
バージルはダンテの内で、自身がより張り詰めるのが判った。内壁を圧迫されて、ダンテが 唇をわななかせた。

「ぁ……ジル……っ、あんっ……でかす、ぎ……!」

バージルはダンテの最奥をぐちりと突き上げ、しれっと言ってやる。

「お前のここが狭いのだろう」

ダンテがまたしても絶句している。が、バージルが責めの手を休めることはなく、ダンテに高い 嬌声を止めることを許さない。肉のぶつかる音と、粘質の水音の卑猥なこと、先刻の比では ない。

「ッ……ひぁ……あ……は……あぁんっ……!」

抉るように最奥を突くと、その衝撃にダンテが堪らず吐精した。しかしバージルはまだなのだ。 くたりと弛緩したダンテの脚を抱え直すと、先刻よりも強く粘膜を犯した。ひっ、とダンテが 悲鳴を上げる。

「やっ、まだ……ぁあっ!」

待って、とダンテは必死に懇願するが、聞き入れるバージルではない。ダンテも判っている だろうに、それでも言わずにはおれぬ気持ちは判らないではないが、汲んでやれる程バージルは 寛容でも寛大でもないのだ。
吐精の余韻を引きずったままのダンテを、バージルは加減なしに揺さぶった。

「っ! くぅッ……んん……ッん……!」

衝撃に堪えるだけで精一杯なのだろう。制止を求める声がなくなり、バージルは唇の端を吊り 上げた。

「相変わらず、よく締まる……」

淫猥な言葉を囁いてやれば、ダンテは羞恥からバージルをより強く締め付ける。無論、無意識に やっていることだ。バージルは笑みを深めた。
ダンテが息も絶え絶えにかぶりを振った。

「はぁっ……あ……バージルっ……また、くる……っ」

激しく揺さぶっていながらも、ダンテの弱い箇所はほとんどかすめる程度にしか動いて いなかったバージルは、ひそと眉を寄せた。射精するにも出来ず、精を溜め込んでいたというのは 判っている。が、それにしては少し……感じすぎではないだろうか。
疑問を感じながらも、バージルは試しに前立腺を数度、突き上げる。途端、ダンテが細腰を 揺らめかせて性器から白濁を吐き出した。バージルの律動につられるように、とぷっとぷっと 少量の体液が溢れ出る。

「あっ……はぁっ……はぁ……」

さすがに続けて三度の吐精はつらいものがあったらしく、ダンテはひどく苦しげに息をしている。 その背後で、バージルは疑問を確信に変えていた。
反動が効いたのかどうか、ダンテはどうも、以前にも増して感じやすい躰なっているようだ。 本人に自覚があるかはまた別だが、バージルとしては何の問題にもならない。むしろ面白いと 思う。

「ダンテ、」

まだ息が整わないダンテの耳朶を、バージルは軽く甘噛みした。びくっと、ダンテが過ぎる程に 躰を竦ませる。

「ぁっ……な、に……」

「まだ終わりではないぞ?」

バージルはまだ、一度も熱を晴らしていないのだから、当然といえば当然だ。ダンテは蒼く なるかと思ったが、違った。

「わ……判ってる、から、早く……」

何とも、珍しいこともあるものだ。バージルはちょっと目を瞠った。そしてどうやら、ダンテは 理性をまるで保っていないのだと察し、納得して弟の望みを叶えてやるべく律動を再開させる。 あられもなく喘ぐダンテをシーツにうつ伏せに押し倒し、細い躰を存分に味わった。






それから、数日――――昼も夜もなく交合を繰り返していた所為で、ダンテはベッドから起き 上がることも出来なくなり、バージルは何もなかったかのような涼しい顔で、恨めしげな目を した弟の世話を焼いたのだった。
























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頂きましたリクエスト、
「不感症のダンテを諦めずに愛の力で直すバージル。ダンテも痛がりながらも協力」
というものでした。ちょっと…達成出来ていない感が…
しかも長っ!…こんな仕上がりになりましたが、よろしければお納め下さいませ。

[08/2/6]