隠慝
「バージル、やめ……!」
制止など、したところで意味のないことだということは、判っていた。キレたバージルが、
遅かれ早かれこういう手段に出ることも、ダンテには判っていた筈だった。
子犬のじゃれ合いのようなセックスをすることもあるが、こうして感情をどうして良いか
判らずにセックスすることでそれを互いにぶつけ合うことも少なくない。
ダンテは前者を好むが、しかしバージルの煮詰まった感情を受け止められる――――ぶつけ
られる――――のは自分だけだという自覚があるからこそ、バージルを拒絶することは
滅多とない。
普通の人間に、悪魔としての色合いの濃いバージルの責めは、とてもではないが堪えられない
だろう。
下肢が外気に晒され、ダンテは思わず肌を震わせた。寒いのではない。こちらを見つめた
ままのバージルの双眸――――捕食者のそれが、ダンテを射抜く。
「っ、は……」
息が詰まるような視線に、ダンテはいつものように軽口を叩くことすら出来ない。
他のどんな相手であっても、ダンテをこんなふうにさせることは不可能だ。
そう、これはバージルだからこそ。
ダンテの唯一であるバージルだからこそ、意図せず出来得ることなのだ。
自由を奪い、組み敷いた弟がどこか恍惚とした瞳をしていることに、バージルは気付いている
だろうか。今のバージルには、そんなことなどどうでも良いに違いない。
言葉もなく、バージルは性急にダンテを貫いた。
前戯なしの乾いた後孔を無理矢理蹂躙され、ひりついた悲鳴がダンテの喉をつく。
「ッひ……!」
身をばらばらに裂かれたような激痛に、ダンテは顔を歪めた。額から汗が噴き出し、前髪を
濡らす。口から漏れ出すものは苦痛の呻きでしかなく、掠れた喘ぎは甘い色など欠片もない。
しかし、バージルはダンテを気遣う素振りも見せず、傷になって血の流れる秘所を
無表情に犯す。
まるで紙のような、とダンテは苦しみながら思った。
色素の薄い肌は表情がない所為か青白くさえあり、病人のようだ。それも、余命僅かで死を
間際にした、病人。
人を乱暴としか言えぬ形で犯していながら、その本人が死にそうな顔色をしているなど、
笑い話にもならないではないか。
ダンテは拳を握り、戒めを引き千切らんばかりに力を込めた。下肢の痛みに比べれば、手鎖が
肌に食い込む痛さなど蚊に刺される程もない。
ぎし、と軋む鎖の音は、しかしバージルの気を引くだけの効果はもたらさず。ダンテもまた、
痛みしかなかった蹂躙に僅かずつ快楽を得始め、手首の痛みなど忘れてバージルの腰に脚を
絡ませた。
自らを手酷く支配する征服者に媚びる姿は、精神の異常が見え隠れして。しかし征服者に縋り、
自らの身を差し出すさまは一種異様な色気が漂っており。
無論ダンテは無自覚のままだが、捕食者の慾望を助長させるには充分すぎた。
内壁を抉る杭が、一層奥に突き込まれる。犯す、ではなく、壊す、と表現すべきかもしれぬ、
暴力じみた交合。が、ダンテは最早、意識を半ば飛ばしてしまっていた。
「はぁ……んっ……! んぅ……、う、あ、あッ!」
がくがくと揺さぶられるままに揺れる躰を、ダンテは既に自分の意思でどうすることも
出来なくなっている。
バージルの穿つ楔に絡む肉は、熱い。意識してのことではないということが、男の征服慾を
掻き立てるのだと、ダンテは知らない。その無自覚さが、ダンテがしきりに首を捻る、男に
迫られる、という現象を幾度も起こしている一因なのだとは、知る筈もない。
「あっ、あぁッ……バー……ジルぅ……ッ!」
後孔に穿たれたものの快楽のみで、ダンテの中心は鎌首を擡げ、硬くなり始めている。痛みは
今だ消えないどころか、先刻よりも酷くなってすらいるにも拘らず、ダンテの陰茎は硬度を持ち、
先端からは透明の先走りを滲ませていた。
それを恥ずかしく思う余裕も、ダンテにはない。
「はっ、はぁ、ぁああっ」
ひっきりなしに零れる嬌声が、自分のものとは思えぬ程に甘い。そうさせている本人である
バージルは、果たして何を思っているのか。殺気すら感じる瞳でダンテをねめつけたまま、
ただ挿出を繰り返すばかりだ。
何の意図もなく、抜き差しされるばかりの行為だったが、不意にバージルの先端がダンテの
弱い箇所を突いた。
明らかな意図を持ったそれに、ダンテは高く啼いた。
「ひぁあっ! あ、ばぁ、ジル……っぅん……!」
たったそれだけで達してしまえそうな程、悦い。バージルとのセックスには、
よくある衝動だ。
あと一度か二度も突かれれば、確実に達する。そう確信出来る。バージルが上手いのか、
自分が快楽に弱すぎるのか、ダンテには判らない。だが。
「あぁっ、あんっ、ぁあ……!」
びく、と首をのけ反らせ、ダンテは自分とバージルの腹を汚した。
半端に捲られたダンテの服は、少し白濁がかかっただけで済んだが、ズボンの前を寛げた
だけのバージルはそうはいかなかった。しかしダンテにはそれに気付けるだけの余裕はなく、
バージルもまた何も言わず。
射精の際にきゅっとバージルのものを締め付けたことで、バージルもまた間を開けずダンテの
内に精を放つ。大量の精液を注ぎ込まれ、ダンテは躰を震わせて喘いだ。
「ん、くぅ……っ」
余韻を味わう間もなく、バージルがダンテの内から身を引いた。やけにあっさりとした
その行動に、ダンテは飛ばしていた意識をはっと引き戻した。
バージルとのセックスは、一晩に何度となくバージルが自分の中で達し、こちらが気絶すること
でようやく終了、というパターンがほとんどである。それを考えれば、キレた状態のバージルが
これだけで終わらせる筈がない。
何をするのか。不審に思ったが、答えはすぐに行動を以て示された。
格子状のベッドヘッドに繋がれた手鎖を支点に、バージルはダンテの躰を反転させたのだ。
枕に顔を押し付けた俯せの状態になり、ダンテはまさか、と思った。
「っ……バージル!」
躰を捻り、肩越しにバージルを見やる。相も変わらず射抜くような鋭い目と視線が絡む。
しかし少し違ったのは、バージルの双眸に先刻まで消えていた理性が戻りつつあると
知れたこと。
バージルは息も乱さずダンテを見つめ、く、と目を細める。力強い手が腰に添えられ、
ダンテは俄かに焦った。
「ちょ、バージルっ、」
嫌だ、と拒絶の言葉を紡ぐより早く、バージルがダンテの引き締まった腰をぐいと引き上げた。
バージルを背後において、獣のような四つん這いの恰好を取らされ、ダンテの顔が羞恥に
赤く染まる。
ダンテはバージルとのセックスは好きだが、向かい合っての体勢はともかく、こうして
後ろから、というのは苦手なのだ。バージルの顔が――――たとえそれが冷徹なもの
でも――――見えないというのが、どうにも不安に駆られて駄目らしい。バージルにそう言った
ことはないが、今までほとんどされたことがないことから、そうと察してくれているのだと
何となく判った。
しかし、今日は。
「嫌だ、バージルっ、これは……!」
この体勢はやめてくれ、と懇願するようにバージルに訴えるが、バージルが聞き届ける気も
ないことは判っている。
「仕置きをするのに、お前の望みを叶えては意味がなかろう……?」
硬質の、冷たい声音。振り仰いだ先の瞳は理性を宿してはいるが、しかし。
バージルは冷酷で美しい笑みを頬にはいた。
「これは罰だ、ダンテ」
当然とばかりに宣言され、ダンテはぞっと背筋を泡立たせた。バージルが、ダンテの腰から
手を滑らせ、彼の陰茎を包み込んだ所為もある。
ダンテのそれは、萎えるどころか再びやって来るだろう快楽を待ち侘び、震えている。
バージルは嘲るように酷薄な言葉を吐く。
「嫌、とは、どの口が言ったのだったか……?」
かっと頬に朱が昇るのを、ダンテは禁じ得なかった。したり、とバージルが意地悪く掌全体で
ダンテのものを擦り上げた。油断していたところへのその刺激は、単純だが確かにダンテを
追い上げた。
「あっ! ……ん、んん……っ」
何度も茎を扱かれ、ダンテの喉を止めどなく甘い声がつく。
「悦いらしいな。こちらが随分物欲しそうにしている」
前ばかりでは不公平か、などと宣い、バージルの長い指が、ダンテの意思とは別にひくつく
秘蕾をまさぐった。
「ひゃうっ! や、ぁっ……」
襞を捲るように指先でなぞり、つぷ、と易々と侵入を果たしたバージルの指を、ダンテは
無意識に締め付けた。
「そんなに欲しかったのか?」
先刻までの無言が嘘のように、バージルはよく喋る。それがダンテをより昂ぶらせる。
バージルの声は、本人が意図しようとしなかろうと、腰に来るのだ。
こうしてセックスしている時は、特に。
「あぅん、んく……ぅあっ……あはぁっ!」
悪戯をするように陰茎の先端を爪で引っ掛かれ、ダンテは咄嗟に枕に顔を押し付けた。
ベッドヘッドの格子を掴んだ手が、力が入りすぎて白くなっている。強烈な快楽に、なまじ
馴れた躰が言うことを聞かない。
さっきのようになる、とダンテは悟り、しかし拒むことは不可能だとも悟って唇を噛んだ。
後孔に突き立てられた指が、更に二本銜え込まされ、粘膜を掻き回す。
「んんぅっ、ん、……んんん!」
バージルのもので貫かれているわけでもないのに、ダンテの腰は早くも揺れている。勿論
無意識だが、尻だけを突き出した恰好で腰を揺らめかすさまは、何とも淫靡だ。
背後でバージルが、そんなダンテを総て目に焼き付けるかのように、じっと凝視している。
快感に溺れかけていても判る、半身の視線。それがダンテを昂奮させる。
「ふぅ、ん……っはぁ……」
指が抜かれる感覚と同時に襲い来る、何とも言えぬ喪失感。しかしそれはすぐに満たされた。
しとどに濡れそぼり、ひくひくと痙攣するそこに、バージルの熱い肉塊が宛てがわれる。
ダンテは無意識のうちに身構えた。
ごぷ、と表現し難い卑猥な濁った水音が響き、先刻バージルが放ったものがこぽりと溢れた。
内股を伝う生々しい感覚に、ダンテは羞恥と共に気持ちを昂ぶらせている自身に
気が付いた。
なんて浅ましい。バージルはこれを仕置きだと言ったというのに。きっとバージルは怒りを
鎮めるどころか、逆に怒り狂うに違いない。そして、また手酷いセックスを強いるのだろう。
だが、とダンテは自身の内を犯すものを意識しながら、それも良い、と諦観に似たものを
感じていた。
確かに後ろから責められるのは好きではないし、この戒めは憎いことこの上ない。
けれども、と。
バージルが満足するならば、良いのではないかと思っている自身がいることに、ダンテは
気付いていたのだ。それに、状況はよろしくなかろうと、バージルの与える快楽が好きなことに
違いはない。
楔を総てダンテの中に納めたバージルは、ダンテの腰を掴み律動を開始した。
バージル自身の精液が、その動きを容易にしてぐちゅぐちゅと耳を塞ぎたくなる
ような淫猥な音をたてる。
ダンテの口は最早閉じる力も失い、口端から零れた唾液が顎を伝いシーツを濡らした。
「ぁふ……っ、んぁ……あ……っ! あ! あぁああぁっ」
ぎしぎしとベッドが軋む。ダンテは強すぎる快感に背中をしなやかに反らした。鍛え抜かれた
美しい筋肉に覆われた体躯、そしてうなじに纏わりつく銀糸が、壮絶な色気を醸し
出している。
後ろを貫かれ、前を長い指が扱く。手慣れた動きが与える悦楽を、ダンテは生理的な涙を
流して貪った。
「ぁあっ、ん……バージルっ……バージルぅ……!」
もっと、と恥もなくねだると、突然バージルがダンテのはち切れんばかりに張り詰めた陰茎の、
その根元に指を巻き付けた。
あと少しで二度目の射精を果たそうとしていたダンテは、当惑に揺れる瞳をバージルに
向ける。
「バぁじる……な、んで……っ」
挿出を繰り返しながら、バージルの声音は少しも変わらぬ低く冷たいもので。
「仕置きだと言った筈だ」
斬り捨てるようなその言葉に、ダンテは悟った。
今し方の、自分の言葉が――――
「バぁ、ジル……俺は……あぁんっ」
弁解しようとした言葉を拒むように、バージルがダンテの最奥を突き上げた。黙れ、と
声なき声で命じられる。
頭から水を浴びせられたような、突き放されたような感覚に、ダンテは絶句する。
しかしそれでも、無理矢理引き出される快楽は残酷にダンテの身を蝕んだ。
「っ、ぁ……、あぅう……んぐぅ……!」
生理的なものではない涙が、不意に溢れた。卑猥な律動に合わせ、ぱたぱたと零れてシーツを
濡らした。
悲しいのか、辛いのか。それすらダンテには判らない。
「ひぁああっ……!」
下肢を戒められたまま、バージルの慾望が叩き付けられた。熱い奔流がどくどくと内部に
満ちる。しかしダンテには達することを許さず、バージルはずるりと自身を引き抜いた。
熟れた蕾からぬめった白濁が溢れ出し、シーツにいやらしい染みを作る。
ダンテはがくがくと震える膝を支えられず、自身の血で紅く染まり、先走りで濡れた
シーツに崩れ落ちた。
躰の間に割り込むようにダンテのものを戒めるバージルの手が、辛うじて彼の腰を
浮かせている。
「はぁっ……はぁ……ぅう、ん……」
肩で息をするダンテを見下ろす、バージルの冷めた瞳。
二人の温度差がもたらすものに、ダンテは精を吐き出せずに小さく震えながら、悪魔と
対峙していても感じぬ恐怖を抱いていた。
バージルがまだ、仮面を付けたように無口になり、かつ表情がなくなっていることが背を
向けていても判る。
「ぁ……う……」
バージルのそれが、既に怒りを凌駕する何かに変わっていることに、ダンテが気付く。
しかしそれが何かは判らず、困惑と恐怖に駆られるばかりで。
俯せからまた仰向けに戻されたダンテは、その瞬間に総てを放棄した。考えることも、
思うことも。しかし。
「……バージル……っ」
残酷なばかりの快楽を、棄てる術を彼は持ち得なかった。なぜならそれを与える支配者が、
ダンテの双子の兄であるが故に。
この世で唯一の支配者に、彼はその身を差し出した。
そうなった理由など、とうに忘れて。
私からは一言。自己責任。(最低だ…)
実はまだ続きがあります。また雰囲気が一変するようで同じなような…?
とりあえず、この時点で後悔してる方は…また悪化するかも…
やっぱりリンクはちょっとだけ隠れてます。こっそり。
何があっても許せる方のみドウゾ
…