白銀シルバー











バージルはどうして、こんなことを自分に強いるのだろう。ダンテにはまるで判らない。こわさ ばかりがダンテの心を占めていて、バージルの意図を読み取ることなど出来るわけもなかった。 幼い子どもにセックスの意味を理解することは無理に近いだろう。

薄暗い路地裏の、きれいとは間違っても言えぬコンクリートの壁に背中を押しつけられて、 何度バージルに貫かれたか。回数を数えている余裕なぞダンテにはなく、むしろ貫かれるという 行為自体にも、ひどい痛みと激しい衝撃だけしか認識することが出来ずにいた。
体内に侵入するバージルの熱塊をきちんと意識出来る程、ダンテは成熟してはいないのだ。

「っ……ん……、ふく……」

両手で覆った唇から、悩ましい吐息が絶えず漏れ出す。口を自ら塞いでいるのは、バージルが そうするようダンテに言ったからだ。煩くするな、と。先日の恐怖を思い出して咄嗟に悲鳴を 上げてしまったダンテに、バージルが眉を顰めて言ったのだ。
苛立ちをあらわにしたバージルに、ダンテは竦み上がった。出来ることならば逃げたかった。 しかしバージルは彼の逃走を予想してか、ダンテの脚の間に腿を割り込ませていた。ダンテは 身動きもままならず、これから我が身を襲う痛みと恐怖を思って涙をこぼさずにはおれ なかった。
そもそも、逃げることはダンテには出来ない。逃げればバージルの怒りを増長させてしまうという ことを、ダンテは先日のことできちんと学んでいた。だから、逃げることは出来ない。こわくて こわくて堪らない涙が止まらないけれども、耐えるしかないのだ。

バージルに両脚を担ぐように持ち上げられた恰好で、もうどれくらい揺さぶられているだろう。 繋がったそこからは、バージルがダンテの内部に叩き付けた白濁が挿出のたびに溢れ、 アスファルトに淫靡な染みを作っている。
濡れているのは、無論そこばかりではない。股を中心に、ダンテの下肢はおろか顔までも、 粘質のある体液にまみれていた。服は半ばバージルに剥ぎ取られ、汚れているのは一部で しかないが、あらわにされた膚は当然ながらそういうわけにはいかなかった。男の放った白濁で 白磁の膚を濡らしながら、必死に声を抑えようとするさまは歳不相応の色気があってたちが悪い。 もちろん、ダンテに自覚などある筈もないが。

ダンテはただただ、この恐怖が一秒でも早く終わってくれることしか考えてはいない。バージルの 怒りが(躾、とバージルは言ったけれど)、早く過ぎ去ってくれることを願うばかりであった。 その為には、ひたすらバージルに従順でなくてはならないのだと、ダンテは思い込んでいる。
だから。
バージルの怒張したものに舌で舐めることだって、ダンテは夢中でした。どろっとしたものを 顔にかけられたけれど、嫌だとか、そういう言葉は全く口にしなかった。ダンテはひたすら、 従順であった。

下から突き上げるような衝撃が、一際強くなったようだった。ダンテは唇を噛み締め、 堪える。

「んっ、く……ふ……ぁ……ッ!」

ぞくりとした、寒気に似た何かが背筋を走った。駈け登った、といったほうが正確かもしれない。 頭の中が真っ白になって、ダンテは知らぬ間に射精していた。ぶるっと躰が震え、無意識に 弛緩したダンテをバージルが笑みとともに抱え直す。

「悦かったようだな」

それが揶揄だということに、ダンテは気付かなかった。いい、とはいったい何のことを指して 言っているのか、それすら判らなかったのだから。

はぁはぁと、口を塞ぐことも忘れて荒い息を繰り返しながら、ダンテは濡れた瞳でバージルを 見上げた。抱き抱えられているとはいえ、長身のバージルを見やろうとすれば顎を上げなくては ならない。が、躰が怠くて仕方のないダンテには、顎を上げることさえ億劫で、上目遣いに 視線だけをバージルに向けた。その仕種が、男の本能を刺激し猛らせるのだとは知る筈も なく。
腹を内側から圧迫するものが、体積を増したようにダンテは感じた。ひっと喉を震わせるより 早く、バージルがダンテの痩身を激しく突き上げる。

「! ッは、ぁっ、あっ……!」

息継ぎもままならぬ程に繰り返し突き上げられて、ダンテは文字通り喘いだ。声を抑える余裕など ありはしない。バージルの生み出す律動に合わせて、涙がはらはらと頬へ滑る。
ふっと笑う気配がした。バージルがダンテの顔を覗き込むようにして、額と額を合わせる。

「お前の中は心地好いな」

なんて、言われてもダンテには意味も意図も判らない。反射的に首を傾げると、またバージルが 笑った。きれいな微笑だと、ダンテは思った。もっとも、頭でそうと考えたわけではないが。

ずん、と内側を強く押し上げられた。同時に熱いものがダンテの内部に流れ込み、しとどに 濡らす。

「っあ……はぁ、ん……」

熱に浮かされたような吐息を漏らし、ダンテは今度こそ脱力した。バージルが逞しい腕でしっかり 抱き留めてくれる。また、バージルは笑ったようだった。

「ダンテ、」

名を呼ばれて、億劫だったけれど顔を上げた。バージルにいつでも従順であることという、 無意識下の戒めがダンテに顔を上げさせたのだろう。
ぼうっと虚ろな表情のダンテの頬に、バージルは一つキスを落とした。優しいキスだ。ダンテが 目を瞬かせると、今度は額に唇が触れた。やはり、優しい。今の今までダンテを責め苛んでいた 男とは思えぬ、硝子細工に触れるかのような口付けだ。

「……ばぁじる……」

ため息をもらすように、ダンテはバージルの名を呟いた。応えるように、バージルもまたダンテの 名を囁いてくれる。

「ダンテ、」

そうして、唇と唇とを重ね合わせた。触れるだけで離れていく唇に、何故だか足りないものを 感じて、ダンテは「もっと」とバージルにねだった。

「やめちゃやだ……もっと、して……?」

いつも兄にねだるように、小首を傾げる。バージルはきれいに微笑んで、ダンテの唇をいくつも 啄んだ。ちゅ、ちゅ、と音をさせて。

ダンテの内部には、バージルの熱がいまだその体積の総てをとどまらせている。が、ダンテは そちらにはまるで気にしたふうはない。バージルのくれるキスに夢中になりすぎているのだ。 もっと、と何度もせがんでいるのが証拠で、バージルがその通りキスをしてくれるものだから、 より止まらなくなっていた。それが、バージルの意図して仕向けたことだとは気付かずに。

ふふ、とバージルが柔らかく笑った。

「そう急くな、ダンテ。時間はあるのだから、焦る必要はない」

「ん……、」

してほしいものは、してほしい。今。焦っているのとは違う気がしたが、ダンテには説明 出来なくて、諾と頷きながらバージルの首に腕を回した。バージルは、笑う。

この優しい空気が、ダンテはひどく好きだと思う。痛みを与えられているときとの差が大きい 為に、いっそう強く感じるのだろう。
バージルの怒りはダンテにとって心底恐ろしいものであるが、怒りの去ったあとに見せる優しさは ダンテを癒して余りある。幼い子どもが“嵌まる”のに、これ以上の理由はいらぬのだ。

飽きもせず、ダンテはバージルにキスをねだった。(子どもとは、何かに嵌まればそればかりに なるものである。)ダンテの顔で、バージルの唇が触れていない場所はない。けれども「もっと」 と言って止まないダンテに、バージルはすぐさま応えてくれる。瞼にキスをしてもらうと、 ほぅっとため息がこぼれた。

「気持ち好いか?」

バージルの声。低い声音には怒りの色などなく、むしろ優しげだ。先日もそうだったように、 件のこわいことを終えてしまうと、バージルはひどく機嫌が良くなるらしい。ダンテの髪を撫でる 仕種一つを取っても、その差は歴然としている。こうなってしまえば、バージルはまたしばらく ダンテを甘やかしてくれるに違いない。ダンテは子どもの幼い本能でそれを学び、しっかりと 心に刻み込んだ。
記憶すべきは、もう一つある。

バージルは厳しい。兄もそうだが、ダンテに下手な我儘を赦さない厳格なたちの人間だ。

精神的にも幼いダンテには、時に我慢が効かなくなることもある。お菓子やフルーツが目の前に あって、どうして我慢など出来ようか。しかし兄が駄目だと言えば、ダンテは堪えるしかない。 それが出来なければ、先刻バージルのように、兄はダンテを叱り付ける。お仕置に、ぶたれる ことも少なくなかった。
躾には厳しい母のおかげで、ダンテは随分行儀の良い子どもに育っている。が、兄と比べれば まだまだなっていないということになる。
それを理不尽だとは思わないのがダンテだ。兄の言葉は絶対であると、思って欠片も疑わない。 だから、兄によく似たバージルのことを疑わないのも、ダンテにとってみれば当然のことと 言えた。
バージルがお仕置と言えば、どんなに恐ろしくても堪えねばならない。バージルがやれと言えば、 どんなことでもやらなくてはならない。最後まで耐え抜けば、ご褒美があることをダンテは 知っているのだ。

しかしキスは、何度ねだっても叱られない。我儘と何が違うのかダンテには判らないけれども、 お仕置を受けたあとのキスは、何度でもねだって良いのだということが判れば充分だった。

バージルは厳しい。兄と同じに。しかし何もかも総てが赦されないわけでは、けっしてないない。 ダンテはその赦された中で、目一杯バージルに我儘を言い、甘えれば良いのだ。そうすれば バージルは、ダンテをどこまでも甘やかし可愛がってくれるに違いないから。

「ん……バージル、もっと」

夢中になってねだった。バージルは唇と唇を触れ合わせ、ダンテの下唇を舌でぞろりとなぞった。 痺れのようなびりっとしたものがダンテの背筋を伝うが、その感覚が何を意味しているのか、 ダンテには判らない。判ることはただ、気持ちがいいということだけ。

「口を開けて、舌を出せ」

バージルが囁くので、ダンテは言われるままぺろりと紅い舌を出して見せた。ぬるりとした 感触が、舌から伝わってくる。バージルの舌が触れたのだと、すぐに判った。
バージルは擦り合わせるようにして、ダンテの舌の表面をなぞっていく。ぞくぞくと背中が 震えた。バージルの服をぎゅうっと握り締める。

「んっ……ふ……」

ぴちゃ、と水音がした。唾液が絡む音なのだとは、ダンテには判らない。

「俺と同じように舌を使ってみろ」

勉強か、スポーツかを教えるようなバージルの口調に、ダンテは吐息混じりに「うん」と 応じた。
バージルがしたように、バージルの舌に自分のそれを押しつけて表面を擦り合わせてみる。 バージルの真似をしているつもりなのだが、たどたどしいのは当たり前のことだろう。判らない なりにも懸命に舌をすり寄せ、ダンテは無意識に快楽を追っていた。バージルがしたときの ような、ぞくっとした震えを得られないことに焦れながら。

「っん、ん……ふぅ……ぅん……」

夢中で舌を擦り合わせるけれど、いっこうにバージルのように出来ない。焦れったくて眉根を 寄せると、バージルがくすっと笑うのが判った。

「拙いな」

つたない、というのがどういう意味なのか、ダンテは判らずきょとんとした。バージルは笑って いるから、悪い意味ではないのかもしれない。

「一緒にやってみれば、すぐ覚えられるだろう」

バージルは出しっ放しのダンテの舌にキスをして、また舌を合わせてきた。それから、舌の裏を なぞるようにする。要は舌を絡ませたのだが、まだ語彙に乏しいダンテには巧く表現が出来ない のである。
一緒に、とバージルは言ったが、出来るものではなかった。何故ならダンテは、バージルが舌を 絡ませるたびにぞくぞくと震え、その感覚を追うことに夢中になっているのだ。同じようにする など、まして覚えるなど無茶な話だった。

「ふ……っん……ん……」

自分がすっかり蕩けきった表情になっているとは知らず、ただバージルに縋りつく。バージルが 苦笑したが、ダンテはまるで気付かなかった。

くちゅりと舌の根元をくすぐられて、びくんとダンテの腰が揺らめいた。幼さの残る性器が ふるりと身震いをして、その先端から透明のを溢れさせる。

「っはぁん……」

ダンテの漏らした熱っぽい吐息を受け止めて、バージルが囁いた。

「これだけで出す程、悦かったのか?」

「うん……」

ダンテは夢の中にいるような、ぼうっと霞のかかった思いでこくっと頷き、とろりとした双眸で バージルを見上げた。

「ばぁじる、もっと」

甘くねだるダンテに、バージルはやはり優しくて。

「仕様のない……」

呟きながらダンテの唇を塞いで、同じように舌を絡ませてくれる。

ここがどこであるかもきれいに忘れて、ダンテはバージルの与えてくれる快楽に、自覚もなく 溺れていった。
























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リクエストものの続きでございました。
中途半端な感じがしますが、これはこれで終了です。
深みにはまっていくダンテちゃんが書きたかったというか…
兄は相変わらず横暴ですね。

[08/3/28]