快楽主義者の主張(――お互い様ということで)












ほう、と満足げなため息がもれる。ダンテの口からではない。ともに浴槽に浸かっている彼の 口からこぼれたものだ。思わずふっと笑みをもらすと、聞き止めたらしい彼が「なに、」と少し 拗ねたように言った。
ダンテは彼の濡れた髪を撫で、

「気持ち良くてついな。坊やはどうだ?」

すぐそばにある彼のこめかみに唇で触れた。彼はダンテの胸に背中を凭れさせ、肩口を枕にする 恰好で全体重を預けている。重くないわけではないけれども、苦と感じるほどでもなく、この 体勢にさせたのはダンテ自身であるから文句があるわけはない。湯の膜すらなく密着していると、 確かにひどく心地が好い。それは彼も同じであろう。
ほう、と彼が再度もらしたため息はやはり仕合わせそうだ。

「ん……気持ち良い、よ」

意識してかしないでか、頭をすりりと肩にすり寄せてくる彼に、ダンテは笑みを深くした。 気紛れな猫のこうしたさまは、見ていて楽しく思えるものだ。髪を指先で梳いてやると、彼が 何やら首をひねるようにして顔をこちらへ向けてきた。紅潮した頬。潤んだ双眸。キスを ねだっているのだと自己解釈をして、ふっくりとした唇を塞いでやった。





あの、後。





風呂にでも入るかとのダンテの提案を、彼はしばし考えたのちこくりと顎を引くことで受け入れた。 実際、下肢は股を中心にぐっしょりと濡れていたのだ。風呂で始末をするより方法はなく、彼が 少々返答に詰まった理由は、ダンテが一緒に入るということに多少の抵抗があったからだろう。
ここまでしておいて何を恥じらうことがあろうかと、ダンテは少しばかり呆れたが声には 出さなかった。言えば必ず、彼は一人で風呂に入ると言い出すことが判っていたからだ。

ダンテはにこりと笑んで見せ、じゃあ決まりだと言って彼を腕に抱き上げた。彼は下ろせと喚いた が、ダンテは取り合わなかった。と言って、無視をしたのではない。そのまま歩けば床が濡れると 言って諭したまでだ。

自分の状態を忘れたわけではないだろうが、彼ははっとしたらしくすぐにおとなしくなった。 腕の中で小さくなる彼に、ダンテの微笑も深くなる。

最も難があると思われたのは、もちろん彼のまとうパンツのジッパーであったが、これは意外にも あっさりと乗り越えることに成功した。いくら下げようとしてもびくともしなかった金具を、 ダンテはふと思い付いて引き上げることにしたのだ。押して駄目なら引いてみろ、と。彼は うさん臭そうに眉を顰めていたが、これが当たりだった。ジッパーはすんなり一番上まで戻り、 それから再び引き下ろすと、何が問題になっていたのか不思議に思うほど呆気なく全開になった。 先刻はあまりにも焦っていたため、こんな簡単なことすら発想が沸かなかったのだ。
ダンテは茫然とする彼の頭をくしゃりとして、悪かったと再度詫びた。べつに。呟いた彼の尖った 唇を、衝動的に吸ったが彼は怒らなかった。調子に乗って二度三度と啄むと、さすがに嫌な顔を されたけれどもそれは照れ隠しであると判っていたので上辺だけで反省をしておいた。

汚れてしまった衣装のパンツは、彼の主張もあって先に水洗いだけすることにした。ざっと 水で汚れを落とし、適当に丸めて浴室の隅へ寄せておく。それから、ようやく人間の番だ。

パンツを洗っている間に、浴槽には三分の一ほども湯が溜まっていた。それを視界の端で 確認しつつ、彼を手招きシャワーを浴びせる。わぷっと彼がかわいい悲鳴を上げたのは、 ダンテが彼の頭から温かい雨を降らせたからだ。

「先に言えよっ」

睨み、怒鳴る彼にダンテは肩を竦めて見せ、

「どうせ髪も洗うんだ。気にすんな」

言いつつ自分もシャワーを浴びる。もちろん、頭の先からだ。
濡れた髪を掻き上げ彼を見ると、なぜか反論もなくじっとこちらを見つめている。どこか思い 詰めたような双眸に、ダンテは言い知れぬ不穏を感じたが、表情には出さず彼の顎をひょいと 指先で持ち上げた。そうしておいて、何をするかなど野暮なことは訊くべきではない。重なった 唇から、彼の密やかな吐息がもれる。薄く開いた唇の間へ舌を差し込むと、彼の肩がびくりと 跳ねた。無論、キスを厭っての反応ではない。これか彼の、かわいい癖のようなものだ。
おずおずと差し出された舌がダンテの舌に触れる。絡め合わせると、くちゅくちゅと卑猥な水音が 響いた。彼はキスに夢中らしく、ダンテの二の腕を縋るように掴み全神経を舌に集中させている ようだった。彼の唇からもれ出る吐息は、ダンテの促すままに甘くなっていく。

ぱらりと、掻き上げていた前髪が一房、額に落ちた。

片手で彼の腰を抱き、もう一方の手を伸ばしてシャワーのコックを捻る。彼の背中から湯が降り 注ぎ、意識してか否か、彼がキスによる快楽とは別なため息をもらした。
彼の舌を口内へ引き込んでちゅっと吸い上げ、唇を離す。んっ、とかわいらしい声をこぼした 彼の、とろりとした表情が好きだとしみじみ思う。

「なぁ、坊や」

囁いた声にすら快楽を覚えたのか、彼はぞくりと背中を震わせながら「なに、」と応じた。

「躰。洗ってやるから、そこのボディソープ取ってくれ」

顔を真っ赤にさせながらも、そろりと腕を伸ばしてボディソープのボトルを取り上げ、ばかと 悪態を吐いてこちらへ差し出した彼を、愛しく思わぬわけがない。





忘れたわけではないのだろう。先刻のリビングでの出来ごとのことである。忘れられるわけは ないに違いない。当事者ではないダンテですら、しっかりと覚えているのだから。
けっして忘れたわけではないが、引きずってはいないようにダンテには見受けられた。丹念に躰を 洗ってやったのが良かったのか、それともそれを含めての自分の対応が功を奏したのか、理由は ダンテには判りかねるが、何にせよ彼の機嫌は悪くないのだから蒸し返すようは馬鹿はしない。 ダンテ自身、あの程度のことをいつまでもくどくど言うつもりは一切ないのだ。忘れるつもりも、 ないのだが。

あのとき、彼はひどく可愛かったとダンテは思い返してはにやりとする。心底焦った顔も、絶望に 塗り込められた顔も、そして泣き濡れる顔も。たちが悪いと自覚はあるが、どれを取って見ても 嫌悪を覚える表情はなかった。手を濡らすものを汚いと思わなかったことは、正直のところ 自分でも驚いたけれども。

浴槽に二人、こちらに背を向けた彼を抱き締め浸かっていると。当然ながら膚が触れ合うどころか 上半身が密着しているのだから、何をも思わぬわけがない。しかも彼のほうからキスをねだって きたのだ。快楽には弱いが自ら行為をねだることなどめったにない彼が、だ。ダンテは彼の唇へ 軽いキスをいくつか降らせながら、口端を吊り上げて笑んだ。

「さっきのじゃ、足りなかったか?」

さっき、とは躰を洗ってやっていたときのことを言っている。 彼の腰に回した手を滑らせ、引き締まった腿の内側を指先でつつっとなぞる。びくっと内股を 震わせた彼が、顔を赤くしてもごもご口ごもった。

「っ、んなわけ……」

「へぇ? じゃあ、これは何だろうなぁ」

わざとらしく意地の悪いものの言いようをして、手を内股から彼の花芯へ移動させた。あっと 驚きの声を上げ、彼が手でそこを守ろうとするがもう遅い。彼の急所はすでにダンテの手の内だ。 無論、ダンテは彼が嫌がって暴れたとしても手をどけることはしない。まぁ、そこまで嫌がりは しないと見当をつけているが。

「や、だ」
拒む声は予想に反せず弱い。朱に染まった顔を隠すように俯いた彼の、ほのかに色付いた耳朶を 舌先を伸ばしてちらりと舐める。ただそれだけで、彼は肩を竦め、花芯がひくりとかわいらしく 震えた。

「嫌、か? して欲しいの間違いじゃないのか、坊や?」

「ち、が、ぅ」

言葉が途切れ途切れになったのは、ダンテが彼の花芯をゆるく上下にしたからだ。嫌だと言い 張り、ダンテの手首を掴む彼だけれども、その手にはさしたる力もこもってはいない。むしろ 行為を促すために添えているのではと、男ならば思うだろうものになっている。ダンテは目を 細めた。
馬鹿なことを考えている。いつも、これだけは考えぬよう避け続けているそれに思考が向かい そうになって、ダンテは自身を戒めた。

今は、いつにも増して彼に集中していたい。

彼の花芯、その先端をくすぐるように指を動かす。びくりと彼の手が竦んだが、構いはしない。 そこは湯の中にありながら、先走りであろうものをにじませ、ぬるりとした感触をダンテへ 与えた。

「なんだ、もう濡れてるじゃねぇか」

揶揄すれば、一瞬にして彼の耳すらも真っ赤に染まってダンテの目を愉しませた。違う。馬鹿。 悪態を吐きながら、その合間にもらす吐息の甘さを耳で愉しむ。
自分ばかり愉しんでは不公平だろうと、花芯をしごく手を少々早めてやった。途端、辛抱し きれなかったらしい喘ぎが彼の喉からこぼれ落ちる。

「ぁっ、あ、あ……っ」

自身の嬌声を恥じ、唇を噛んで堪えようとするさまは何とも色気があって良い。しかしダンテは 彼の声を聞くほうをより好んでいる。だから、空いた手を彼の口へ運び、引き結ばれた唇を割って 指を噛ませた。んぐ、と彼が呻いて指に歯を立ててくるが、この程度の痛みなど大したことは ない。

「我慢するのは躰に毒だぜ」

言って、彼の花芯をいじる手をいっそう早いものへ変える。彼が唇をわななかせた。

「はぁ、ぁっ、あぅ、ん、んッ」

ぶるっと、彼の腰が震える。その瞬間に、ダンテは彼を抱き竦めて力任せに湯の外へ躰を 揚げさせた。もちろん自分も一緒に、だ。そうして浴槽へ脚だけを浸からせたまま、

「あ、ぁ……!」

彼からすればわけの判らぬうちに、浴槽の外側へと射精した。ぴしゃりと思いのほか大きな水音が 響き、しかし射精の余韻によって躰を震わせている彼の耳には届かなかったのかもしれない。 肩で息をする彼からは、文句の一言もないのだ。

「坊や、」

囁き、うなじへキスを落とす。蒼白くすらある膚はほんのりと朱に包まれており、ダンテは衝動の まま彼の背中へ舌を這わせた。

「ンッ……」

鼻に抜ける吐息が甘く耳に残る。彼はまったく、どこもかしこも敏感だ。だから彼を抱くという わけでは、もちろんないが。しかし敏感かそうでないかを選ぶならば、前者がより良いに決まって いる。彼が過ぎるほど敏感な体質であることは、ダンテにとって嬉しい誤算だった。
彼の背中を舌で愛撫しつつ、手は彼の花芯を包んでゆるゆると前後へ動かしている。荒っぽい 息遣いすら艶めいていて、ダンテは自身が十二分に猛るのを自覚せぬわけにはいかなかった。
ふっと、自嘲を浮かべる。彼と同等かそれ以上に、ダンテもまた一貫した快楽主義者なのだ。

「駄目、とは言わねぇよな、坊や?」

尻の奥まった箇所へ手をやると、彼は怯えたように肩を震わせた。

「、め、って……」

「うん?」

「駄目だって言っても、するんだろ……」

ひどく恨めしげな声音だ。ダンテは二度まばたきをし、次いでからりと笑った。

「まぁ、そうかもな」

「っ……なら、早く」

やけになったように言い捨てる彼の、うなじもすでに朱一色に染められて。いかにも旨そうに 熟れたそこへ、母猫が仔猫にするように軽く噛み付き。小さく鳴いて背を弓なりに反らした彼の、 ひくつく後孔へ己のものをあてがった。慣らさずに強行すれば、彼へかかる負担は当然増す。 しかしダンテはもはや辛抱ならなかったし、それは彼も同じだと知れたので。

「判ってるだろうが、力、抜いてろよ」

告げて、彼が「良いから、さっさとしろ」などと可愛くないことをのたまうものだから。ダンテは にんまりと口許を歪め、亀頭を襞へ埋めた。

「ッあぅ……!」

呻く彼のうなじを甘噛みし、ダンテは笑みを湛えたまま囁いた。

「それだけ余裕があるなら、手加減は要らねぇな」

えっ? と戸惑う彼など置き去りにして、ダンテは彼の内部へ自身のすべてを沈ませた。





後から聞くことになるだろう彼の恨み言など、子どものわがままよりもはるかに可愛いものに 違いない。



















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リクエスト第2弾、4ダン3ダン羞恥の続きでした。
風呂。の一言に尽きるものの、風呂要素をうまく使えてなかった感が…
尻切れ感も満載でしたが、これはこれで完結です。
いたんへ様、お気に召されましたらこれも一緒にお納めくださいませ。

[08/11/14]