黒点コクテン









す、と銀の糸に差し込むと、それは何の引っ掛かりもなくすとんと下へ落ちる。また、す、と 差し込む。落ちる。それを何度も繰り返していると、ふと銀糸の持ち主が声を上げた。

「なぁ、バージル」

何やら不服そうな声だ。バージルはしかし素っ気なく、何だ、とだけ応じてやる。

「まだすんの?」

「始めたばかりだろう」

「何十分やりゃ気が済むんだ? 俺もうやだよ」

情けない声を上げ、ダンテがバージルの膝にこてんと頭を乗せた。

「頭を動かすな」

ダンテの耳の辺りに手を差し入れ、ぐいと頭を持ち上げる。しかしダンテは頭を起こす気が ないらしく、バージルの手に頭を預けたままぐったりしている。

「疲れたって、バージル〜」

不平を漏らすダンテは、首をのけ反らせてバージルを仰ぎ見た。ぱさりと銀糸がバージルの 手首をくすぐった。まるで子供のそれのような、柔らかい感触だ。

「辛抱すると言ったのはお前だろう」

「でもよぅ、」

「口答えをするな。もう少しだ」

「……いっつも、それじゃん……」

詰まんねぇ。ダンテのぽつりとこぼした呟きを、バージルは無視してまたそれを銀糸に 差し込んだ。
バージルの手にしているものは、半月形のいわゆる櫛だ。以前、ある骨董屋で偶然見掛けて 一目で気に入り、ダンテを連れて行った際にようやく譲って貰った貴重なものである。本来ならば 箱に入れて大事にすべきかもしれぬのだが、バージルはあの日から毎日、ダンテの髪をこの櫛で 梳いている。

ダンテの髪は、バージルの昔からの気に入りだ。手入れをしなくとも艶のある美しい髪は、 手入れをするごとにしっとりと手に馴染むように艶を増す。それが何とも愉しくて、最近では ダンテの髪を洗うことから総てバージルがしてやっているのだ。
髪を洗い、タオルで拭き、そうして最後に櫛で梳かす。櫛だけでなく、シャンプーやタオルまで、 バージルが選び抜いた上質のものだ。

明らかに行き過ぎた髪への執着に、バージル自身は気付いているようで気付いていない。 毎度、ダンテがぐったりとする理由はその辺りにあるのだけれど、何かに熱中し出した バージルには何の言葉も届かないのだ。

くたり。

また、ダンテの頭がバージルの膝に落ちた。バージルはソファーに腰掛け、広げた脚の間に ダンテが背を向けて床に座っているのである。ダンテが首を横に倒せば、自然バージルの脚に 凭れることになる。

「起きろ」

少し苛立ち、バージルはダンテの耳を軽く引っ張った。が、ダンテは動かない。

「…………」

後ろからダンテの顎に指を添え、ついと引く。少し仰向けになったダンテは、気持ち良さそうに 眠っていた。やはり、とバージルは肩を竦める。
髪の手入れをしている最中に、ダンテが眠ってしまうことは往々にしてある。

(またか)

憮然として、バージルはダンテの髪を指で梳いた。柔らかい。自分の日々の成果に、バージルは 小さく笑みを浮かべた。
この髪に触れ、口付ける。それから紅い唇を塞ぎ、白い膚を余すところなく愛撫する。 そうして、ダンテを貫くのだ。

眠るダンテの耳に顔を寄せ、軽く噛んだ。犬歯で柔い皮膚を破ってやれば、そこから甘いものが 滲むとバージルは知っている。しかし、甘噛みするだけで自身を抑えた。
舌の暖かな感触に、ダンテがふるりと躰を震わせる。

可愛いものだ、といつも思う。

もっと貪り尽くしたいという衝動は、いつもバージルの傍らにある。
いつ壊してしまっても、不思議ではないのだ。しかしその衝動は、理性でもって押し止どめ られる。

壊してはならない。

「ダンテ、」

心地好い銀の糸を撫ぜながら、声には出来ぬ言葉を唇が紡ぐ。
眠るダンテの体重が、バージルの片足にかかる。しかし重いとは感じない。
バージルは口端を上げ、自分の膝を抱き枕のようにしているダンテの、さらさらとした髪を いつまでも撫ぜていた。






いつまで続くか判らぬこの仕合わせを、今はまだ、手放すことが出来ないから。





甘く香る血への衝動を、押し殺して己を騙し。






それは愛かと、

問う誰かの声を、


串刺してばらばらに刻んで、










知らぬふりを、する。



















戻。



リハビリ週間第4弾。予想外の短さ。
この辺りから、ちょっとリハビリがリハビリじゃなくなってきた感じ。
よそ見して、さぁ続き、と思うと、「アレ…?」
……いつの間にか思考が後ろ向きに。