銀世界
「雪だ……!」
朝、窓から射し込む光の眩しさに目を覚ましたダンテは、一面真っ白に染まった外の景色を
目にして歓喜の声を上げた。
街中では、雪は降りこそすれ積もることはめったとない。しかし今朝はどうだ。昨夜のうちに
降り続けたのだろう雪が見事に積もり、辺りをすっかり白に覆ってしまっているではないか。
ダンテは寝不足であるにも拘らず、着替えもそこそこに部屋を飛び出した。最後に雪が
積もったのを見たのは、確かまだ小さい頃だった。それ以来と言うのだから、ダンテの
テンションが上がるのも無理はない。
「すげぇ! 寒!」
と叫びながら外に駆け出すダンテは、後ろでバージルが肩を竦めていることなど気付く筈もない。
寒いと言いながらコートも着ずにはしゃぐダンテを、バージルがおもむろに呼ばわった。
「ダンテ、」
しゃがみこんで地面を覆う雪を掻き集めていたダンテは、顔を上げてバージルを肩越しに
見やった。鼻の頭や頬は、すっかり赤くなっている。
「見ろよ、バージル! こんな積もってるぜ!」
集めた雪を玉状に丸め、バージルに見せようと高く掲げる。その姿はまるきり子供で、
バージルの苦笑を誘うのだとはダンテは気付いていない。
れっきとした成人である男が、雪が積もったと言って喜び勇んで外に飛び出すなど、はっきり
言って笑えない。しかし雪にまみれてはしゃぐダンテは、まるで犬のようにバージルの目に
映り、実に愛らしいのだ。
ダンテはバージルが目を細めた理由を、雪が眩しいからだと勘違いをしたけれども。
「これを着ていろ」
見ている方が寒い、と言ってバージルがダンテの肩に着せたのは、前にバージルが買ってくれた
例の襟ぐりをフェイクファーで縁取ったロングコートだ。中にシャツを着ているお蔭で、この間の
ような冷たさは当然ながら感じない。
ダンテは着せられるまま袖を通そうとして、自分がまだ雪玉を持っていることにはっとなる。
「バージル、ちょっとこれ持っててくれよ」
寒いのが嫌いだと知っているバージルに、言う。しかし案の定、バージルは嫌そうな顔を
した。
「その辺りに置いておけ。……指が赤くなっているぞ」
ダンテは「えー」と不服そうに唇を尖らせたが、バージルに言われた通りに雪玉を地面に置いた。
落とさずそっと置いたのは、せっかく丸めた雪玉が壊れてしまうのを惜しんだからだ。
何やら溜息を吐くバージルにコートのボタンまで留めて貰う。最後のボタンが留められるが
早いか、ダンテはまたしゃがみ込んで雪を掻き始めた。
「楽しいか?」
頭上から降る声に、当然、と息を弾ませて答える。また一つ、溜息が聞こえた。ダンテは
ひょいと顔を上げた。
「バージルも遊ぼうぜ?」
是非もなく却下されることは目に見えているが、ダンテはあえてバージルを誘った。子供の
頃から寒さに弱かったバージルと、雪遊びをした記憶がダンテにはほとんどない。今この歳に
なって、遊ぼう、はないものだと思うけれども。こんなに積もることは珍しいのだから、
やはり一人よりもバージルと一緒になって楽しみたいのだ。
バージルの手が、不意に伸びてダンテの髪をくしゃりとする。
「仕様のない……」
苦笑するバージルを見上げ、ダンテは破顔した。こういう顔をする時のバージルは、底抜けに
ダンテを甘やかしてくれると決まっているからだ。
「なぁ、バージル、でっかいスノーマン作ろうぜ!」
なぁ、なぁ。
立ったままのバージルの脚にしがみつき、上目遣いに見上げてねだる。バージルがまた溜息を
吐くのが聞こえたが、それは疲れを含んだものではなく。
「手袋が要るな」
ぽん、と頭を優しく叩かれた。
「いいよ、そんなん。それより早く作ろう」
早く早く、と急かすさまは、きっと父親を困らせる子供に見えるのだろう。ダンテは思った
けれど、気付かないふりをする。
甘えられるうちに甘えておかねば、勿体ない。そうでなくても、こんな寒い日にバージルが
ダンテの遊びに付き合ってくれるなど、普段では有り得ないのだから。
嬉しがって作ったスノーマンは、からだと頭のバランスがあまり巧くいかなかったけれど。
陽に照らされる不格好なスノーマンの、白い顔は優しく微笑み。
すっかり冷えた互いの躰を、一緒に風呂に入って暖めたことは、また別のはなし。
リハビリ週間第1弾。雪。
やっぱりダンテには、お庭で駆け回って欲しいなぁ、と。
うちの兄は寒いのがお嫌いですが、ダンテを甘やかすのはお好きです。