灯菓
人が行き交う通りの、外れ。薄闇に包まれた路地に、腕を引かれるまま連れ込まれた。
誰かが路地に姿を消そうと、人々は気付きもしない。路地には身を隠すものはあるわけでも
なく、よくよく見れば誰かがいると判る。
街灯の燈る通りからは、暗い路地は見えにくいのだ。しかし暗い路地からは、明るい通りが
よく見える。歩いていく人の顔も。
だから。
「っあ……」
ともすれば漏れる、鼻にかかった嬌声を、ダンテは口に手をあてて堪えるしかなかった。
大きな声を上げてしまえば、きっと不審に思った誰かが路地を覗く。暗いとはいえ、こんな
ところであられもなく犯されている姿など、誰が見られたいと思うだろうか。
ダンテの精一杯の努力も、彼を苛む男には伝わらない。
「口を塞ぐな」
ダンテの腰を片手で抱え直し、空いた手で口にあてた手を引き剥がされる。同時に深く
突き込まれ、彼は堪らずに啼いた。
「あぁっ! やっ……、まずい、って……っ」
涙に瞳を潤ませて訴えるが、むしろ男の慾を煽ってしまったらしい。
「何が拙い?」
嘯く男の、ダンテを貫く肉が一層猛る。
ダンテはびくりとして男にしがみついた。壁に背を押し付け、脚を抱えられて貫かれた
状態では、支えは繋がれたそこか、男しかないのだ。
男の肩に顔を埋めると、揶揄するように軽く揺すられた。犬のようなくぐもった声が漏れる。
「っくぅ、ん……」
ペースは完全に男のもの。ダンテが主導権を握ったことなど皆無に等しく、いつの時も男に
翻弄されるばかりだ。
今も、当然のように。
買い物の帰り道、二人で並んで歩いていると、突然腕を引かれた。路地に入ったことはすぐに
判り、しかし何が目的なのかは判らずに。何、どうしたんだ、と言っている間に脚を抱え上げられ、
貫かれていた。
男の行動が突然なのはいつものことだが、これはあまりに唐突すぎる。何の準備もない
挿入には、悲しいかな慣れている。が、そういう問題ではないのだ。
思考が別のところに飛んでいたことに気付いたらしく、男がダンテの耳に囁いた。
「足りぬ、か?」
余裕だな、と揶揄され、ダンテはかっと顔を紅潮させる。
「そ、ゆぅ、ことじゃ……」
最後まで言うことは赦されず、腰を掴む男の手が不意に緩み、自重がかかってより深く男を
銜え込むことになる。
「ひぅ……ッ! ふ、……やぁっん……」
甲高い声を上げそうになって、慌てて男に顔を押し付ける。驚いた拍子に男を締め付けて
しまったのだが、しかし男は息も上がっておらず。
「悦い声で啼く……」
などと、うっそりと呟きすらする。忌々しいが、ダンテが逆に男を翻弄することなど出来ない
のだ。どうあっても、この立場は覆すことが出来ない。
何が出来るか。この状況においては、早く男を満足させて、家に帰ってしまうことだ。
イけば、終わる。きっと。
不安はあるが、彼にはもうその手しか残されていない。こんな外で――――しかもいつ誰が
気付くか判らない、通りからほとんど離れていない場所でセックスなど、異常だ。
「ん、んっ」
自ら、可能な限り腰を揺らめかせ始めたダンテに、男が笑った気がした。
「そんなものでは、まだまだ終わらんぞ」
嗤う声は、ダンテの目論見などすっかり見通していると語るもので。それでもダンテは、
男の要求に応えるように腰を揺らした。
いつ誰に見られるか判らぬ、この異常さが、ダンテにこの上なく羞恥を与えると同時に、
昂奮をももたらしているのだ。
浅ましいと、思う。しかし快楽は止むことを知らず、より強いものになってダンテの官能を
揺さぶり続ける。
「っあ、あふ……っ……」
思考など半ば溶けている。しかし男を満足させようとする意思は消えてはおらず、
「ぁ……じ、る……イイ……?」
快楽に濡れた双眸で男を覗き込む。どくり、と内壁を押し上げるものが弾け、ダンテの内を
満たした。
「あはぁん……っ! ふ……くぅ……」
飲み込みきれなかったものが、じゅぷりと淫靡な音をたてて結合部から溢れ出る。ダンテが
無意識に腰を引くようにすると、そこが擦れて白濁がじゅくじゅくと泡立った。何とも淫猥な
光景だが、彼らには音を聴くことしか出来ない。
それだけでも、ダンテには充分すぎる程だったが。
「あっ……!」
短い悲鳴を上げて、ダンテは達した。革パンツの前をはだけただけだった男の服を汚さずに
済んだのは、男が機敏に彼の陰茎を掌で包んだからだ。男の手をべっとりと汚してしまったことに、
多少の後ろめたさは感じるが、元はと言えば悪いのはこの男なのだ。
「も……良いだろ? 離せよ」
目許を赤く染めたまま言えば、男は「そうだな」と呟きながら、何故かダンテを抱え直す。
内にとどまったままの男のものが、精を吐き出してもなお力を失っていないことに気付き、ぎくりと
する。
全身を硬直させたダンテに、男が珍しく愉しげに笑う。
「もう一度、だ」
耳朶を噛まれ、噛んだそこを舌でねぶられてびくりと肩が跳ねる。
「っや……冗談……」
「だと思うか?」
にやりとする男の目は、本気。判っていたことだが、この男にはどう足掻いても逆らえない。
セックスの最中などは、とくに。
ダンテはさぁっと蒼褪めた。
「や……だ……やめ、」
現実を拒絶するように抗うダンテを、男が開放する筈はない。
「孕んだら、責任は取ってやるさ」
その言葉を最後に、ダンテの記憶は途切れた。
次に気が付いた時、ダンテは自分が暗い路地ではなくベッドの上にいた。どこだここ、と
一瞬混乱を起こしかけたが、すぐに自宅だと判ってほっとする。
自室ではなく兄の部屋に寝かされていたらしい。整頓された部屋は明らかに自室ではないと
主張している。
空はまだ暗い。隣りを見れば、兄のただ目を瞑っただけのような寝顔があった。
あれから、何があったのか。何が、などと愚問も良いところだが、全く記憶のないダンテには
当然の疑問である。
手を腹にやって、寝着を着ていないことに気付く。しかし綺麗に拭ってくれたのか、べたつきや
不快感はない。疑問は、そう、あの後何度挑まれたのか、ということだ。
男の絶倫ぶりは不本意だがよく知っている。先に気を失うかして白旗を揚げるのは、必ず
ダンテなのだ。
(満足させる、なんて無理に決まってんだよな……)
まだ意識があった時の自分を罵り、ダンテは溜息を吐いた。その時、
「何を溜息など吐いている?」
ぎょっとした。
「ねっ、寝てたんじゃなかったのか!?」
「お前が起きた気配で目が覚めた。それで、何をしている」
腹を何とはなしに撫でていた手を掴まれ、びくっとしてしまう。
怖いか? と揶揄されて、ダンテはむっとしたが何とか堪えた。
「……もう、外は嫌だ」
いきなりすぎる、と自分でも思う。しかし訴えずにはおれなかった。
バージルはくつりと喉の奥で笑い、
「善処する」
とやけにあっさりと聞き入れる。不審だ。
「……何か企んでねぇか?」
「企んでいて欲しいのか?」
そんな切り返しが戻って来て、ダンテはちょっと焦った。
「ほ、欲しくないっ」
「それは残念だ。……で、どうする」
「なにが」
「眠るか、するか」
「何でそこにセックスが入るんだよ!?」
「喚くからだ。欲求不満なのかと思うだろう」
バージルの思考回路は、やはりダンテには理解不能だ。
「んなわけねぇだろ! 寝る! 寝させて下さい!」
叫び、毛布を頭から被る。掴まれた手はそのままで、ぎゅっと目を瞑った。バージルが
空気だけで笑った気がしたが、無視だ。
握られた手から伝わる低い体温に不覚にも安心して、ダンテはいつの間にか眠っていた。
青姦です。ってこんな字?…いや、字がどうとか言う問題でなく。
素直に善処してくれた兄ですが、本心はどうなのか?そこは妄想プリーズ。