甘唇アマイモノ









がぱ、と冷蔵庫の扉を開ける。ごそりと取り出したのは二リットルペットボトル。 中身は何の変哲もない水だ。
キャップを外し、カップに注ぐ……わけではなく、そのまま口を付け、ごくりと一口飲んだ。 一度口を離し、まだ渇きが癒えていないことを確認して、今度はごくごくと流し込む。

冷たい水が、食道を通り胃に流れて行くのが判る。心地の良い冷たさだ。

ふ、と息を吐き、ペットボトルの蓋を閉める。と、

「…………」

まずいものと目が合った。

それはじとりとこちらを睨つけ、言う。

「俺がやるのは、駄目なわけ?」

恨みがましく文句を吐いたのは、双子の弟であるダンテだ。

バージルはペットボトルを持ったまま、珍しく言い淀んでしまう。
以前、今し方バージルがしたことをダンテがやった時、バージルはカップを使えと 言って叱ったのだ。そのバージルがカップを使わずに水を飲んでいては、まるで面目が 立たない。

「……何とか言えよ、バージル」

苛立ちのこもった声音と表情に、バージルは観念して溜息を吐いた。

「急いでいたのでな。カップを出すのが面倒だった」

「急ぎなら、良いのかよ」

勿論、そんな問題ではない。しかしバージルは本気で急いでいたのだ。

「悪かった。だが、一応言っておくが、お前の所為でもあるのだぞ?」

ダンテが不機嫌な理由は、実はそれが大半だと言うことをバージルは知っている。 水のことなど、そのついでのようなものだ。

「何で俺なんだよ」

むっとしてダンテが噛み付いて来る。これは予想の範囲内だ。

「お前があんなものを喰わせるからだ」

「あぁ? でもアンタ、言ったじゃねぇか」

「何をだ」

「前に、嫌いじゃねぇって」

いつの話をしているのか。バージルの記憶には、そんなことを言った覚えはなかった。 言った言わないは置いておくとして、だ。

「嫌いではないことは確かだ。しかしな、」

バージルは溜息を漏らし、先刻ダンテがしたように睨んでやる。

「量はいらん」

大量――――バージルの適量を基準として、だ――――に食べればやたらと喉が渇き、水を 飲まねばひりついてしまうのだ。そのことは、ダンテには言っていなかったという記憶が ある。
きっぱりと言い切ると、ダンテは目をぱちりと瞬かせた。

「量って、三口ぐらいしか喰ってなかっただろ」

「お前にとっては少なくても、俺にすれば多いということだ」

認識の違いだ、と言って、バージルはペットボトルのキャップを外した。喋ったらその分、 喉が渇いてしまったのだ。やはりカップは出さず、そのままペットボトルに口を付ける。

「バージル、」

また、ダンテがバージルを睨む。それを横目で見、バージルはもう一口水を含んでから、 口を離す。そして、ダンテの顎をがしりと掴み。

「は?」

間抜けのように開いたダンテの口を塞ぎ、そこに水を流し込んでやる。驚きに見開かれた目を じっと見つめたまま、ダンテの甘い口腔を一舐めしてから唇を離す。

「な、にすんだ!」

拒みようもなく温い水を嚥下したダンテは、目を吊り上げてバージルに掴み掛かった。 バージルは眉間に皺を刻み、

「……甘い」

忌々しげに呟く。

「アンタ……、……苦いより良いだろ、可愛げがあってさ」

恥ずかしかったのだろう、ダンテがぷいとそっぽを向く。赤く染まっている耳に、 バージルは悪戯をするように囁いた。

「水はもう良いのか?」

びくっと肩を跳ね上げるダンテに、仕返しだ、と笑ってやる。

先刻は事務所で、ダンテが嬉々として買って来た甘ったるいだけのソフトクリーム (味はストロベリーだ)を食べさせられたのだ。それも、いちいちスプーンですくって 食べるものらしく、一口一口、口に運ばれて。

はい、あーん。という例のあれだ。

寒い、と今は思うが、正直、その時はそうされて悪くない気分だったバージルである。 つい、三口程食べてしまったのだが。

「み、水は、いい」

そうもごもごと言うダンテにまた笑い、バージルはダンテの顎に指を添えてこちらを 向かせた。重なる唇は柔らかく、暖かな口腔は甘い。思う存分双子の弟の唇を貪りながら、 バージルはやはりと思う。

甘いものは、これで充分だ、と。



















戻。



…胃にもたれる…。また短いし。
これを書いた日、バイト先の上司が2リットルペットで水ラッパ飲みしたはったんですよ。
たまたま見かけて、何か良いなぁ、と。
まさかこんなネタにされてるとは思いもしませんよね、ウフフ☆(嫌)