睡葉スイハ









うつらうつらし出したダンテを、バージルは自分の隣に移動させた。店に 入って十分経ったかどうか。まだ注文した品が来ていないというのに、ダンテはバージルの腕に 凭れかかり、夢の世界に半ば浸かってしまっている。
バージルはやれやれと肩を竦めた。

いつものように昼過ぎに起きたダンテは、朝食を兼ねた昼食を平らげるのももどかしげに、 どこかに出掛けようと言い出した。
外に出たくてうずうずしている。そんな雰囲気がありありと伝わって来て、バージルは思わず 承諾してしまった。

どこに行くということもなく、バージルとダンテは連れ立って歩いた。バイクを使っても 良かったのだが、ダンテが走りたがったので好きにさせた。気付けば、家からは随分離れた地区 まで来てしまっていた。

帰ってから作るのも面倒だと思い、バージルは目に付いたイタリアンレストランにダンテを 連れて入った。既に陽は傾いており、ダンテはどこかぼんやりとしているようだった。
椅子に座り、店員に注文を伝える間も、ダンテは不自然な程に静かで。その時ダンテの中の スイッチは、切れかかっていたのだろう。

子供という生き物は、とにかく動く。体力に限界がないのかと錯覚する程、ひたすら駆け回り 遊びまくる。が、勿論体力には限界というものがあり、大人ならばゼロにならぬよう調節しつつ 動くものだが、子供はそうは行かない。
負荷がかかり過ぎてブレーカーが落ちるかのように、突然電池が切れるのだ。

バージルは溜息を吐き、ダンテの肩を優しく揺すった。

「眠るなら、喰ってからにしろ」

「ん……」

ダンテの極めて眠たげな声に、今日何度目かの溜息が出る。自分に凭れ、うとうとと眠る ダンテは確かに可愛らしい。先日来の悪魔の毒が抜けず、未だ十四、五の姿のままであることが、 愛らしさに輪を掛けているのだ。しかし、バージルは素直に良いものとは思えなかった。
通路を通りすがる客や店員が、ダンテを見て目を細めるのだ。さも、可愛いと言いたげに。

テーブルに注文したものを運んで来た店員も同じで、おや、という顔をし、次いで小動物を 見るように頬を綻ばせた。それを見たバージルが、表情には出さず気分を害しているとは 気付かずに。

ナポリタンと大判のピザが一皿づつ並び、バージルが無言で選んだサラダが添えられる。
店員が頭を下げてテーブルから離れてから、バージルはふと腕が軽くなったことに気が付いた。 ピザの匂いに呼び覚まされたらしく、ダンテがのろのろと頭を上げたのだ。しかし瞼はまだ 重いようで、ともすればぴったりと閉じようとしている。
しぱしぱと目を瞬かせ、手の甲で目許をこするさまは酷く愛らしい。まさか中身は青年だとは、 間違っても思えない。
尤も、バージルにすれば元は元なりの可愛らしさがあると、ごく自然に思っているのだが、 今は置いておく。

「喰えるか?」

問うと、ダンテはもそりと身を乗り出し、細い腕を伸ばしてピザを一切れ取ろうとする。 既に店員の手で六つに割られたそれを、バージルは小皿に移してやった。

「喰える分だけ喰え。……細かく千切ってやろうか?」

ピザの端を掴み、皿ごと口に引き寄せているダンテに、バージルは思わず言った。どう 考えても、そのまま食べたのではくちの周りが汚れすぎる。

ダンテはまだぼうっとして、バージルの言葉に頷くこともしない。が、何を言っているかは 判るらしく、ピザをちびりと囓っただけで口を離し、バージルを見上げた。
上目遣いに見つめて来る眠気の醒めない双眸はとろんとして、バージルを不覚にも硬直させた。 勿論、ダンテに自覚などはない。

「?」

押し黙ったバージルを訝り、ことりと首を傾げるその仕種すら、バージルにはとんでもなく 危険な代物として認識された。
ここが公共の場でなければ、と強く思ったのは初めてのことではなかろうか。

バージルは小さく頭を左右にして馬鹿な考えを振り払った。

「少し待て」

言って、手が汚れるのも構わずピザを一口大に千切っていく。じぃっとバージルの手許を 見ていたダンテは、また眠気が襲って来たのか、机に突っ伏さんばかりに頭が傾いている。

バージルはダンテの肩に腕を回し、後ろから抱き締めるようにして顎を上げさせた。

「口を開けろ」

ぽか、と本能的に開いた口に、一つピザを放り込んでやる。まぐまぐとゆっくり咀嚼され、 飲み込んだのを見てから次の欠片を食べさせる。口の中が空になると無意識に口を開けるさまは、 親鳥に餌をねだる雛鳥のようだ。
ピザを三口食べさせ、それからサラダに盛り付けられたレタスの破片を、フォークに 刺して口に入れようとする。と、

「……嫌だ」

店に入って初めて、ダンテが言葉を発した。

「ピザばかりでは偏りがありすぎる。喰え」

冷たく言い、バージルは嫌がるダンテの口に無理矢理サラダを押し込んだ。そのフォークで、 ナポリタンをくるくると器用に巻き付け、自分の口に運ぶ。フォークを持った右手は、きちんと ナプキンで拭ってある。

「なぁ、」

まだ眠そうな声が、餌――――もとい、ピザを欲しがってバージルを呼んだ。外では滅多に 互いの名を呼び合わないのだが、睡魔と格闘していても、それは忘れないらしい。
バージルはやれやれと溜息を吐いた。

「自分で喰えるだろう」

皿を目の前に置いてやるが、何故かダンテは手を伸ばそうとしない。ピザを見、バージルを見、 それを二度繰り返した後、あ、と口を開けた。

「…………」

確か、見た目は子供だが、中身には何の退化も見られなかった筈……。

「…………」

何がしたいのか、バージルにはダンテの意図など判らない。判らないが、何だかんだと言って バージルはダンテに甘い。溜息一つで、バージルはピザを摘み上げ待ち兼ねたようなダンテの 口に入れてやった。チーズの付いた指を、ダンテの舌にぺろりと舐められる。

「ん……旨い」

バージルは呆れて、しかし肩を小さく竦めただけで済ました。ダンテがいつになく甘えたがる 時は、バージルはダンテの好きにさせてやることにしている。

完全に二人の世界に浸る彼らは、ダンテが眠っていた時よりも周囲の視線を集めていることに、 気付いてはいない。普段から周囲を一切気にすることのないバージルなどは、素晴らしいまでに 遮断している。
それで気まずい気分に陥るのはダンテなのだが、今日は眠気が勝っている為か、全く気にした ふうはない。バージルの与えたピザを、もそもそと旨そうに食べるばかりだ。

ダンテに食べさせ、その合間に自分も食べ、ということをしていると、当然だが総て平らげる までに普段の倍以上の時間が掛かった。
バージルがピザも三分の一程食べることにはなったが、 ダンテは半分眠った状態にも拘らずよく食べたと言えるだろう。さすがに、いつもなら必ず頼む パフェは諦めたらしく、腹が一杯になるとバージルの膝を枕にして、すうすうと眠って しまった。

気持ち良さそうに眠るダンテを片腕で抱き抱え、バージルはやはり周囲の目など完全に 無視して店を出た。落ちないよう、無意識にダンテの腕がバージルの首に巻き付き、顔が肩口に 埋められる。
しっかりとしがみついたダンテの体温が、夜とは言え夏の直中にあって、不思議な程心地好いと 感じる。ダンテはかなりの暑がりで、夏には弱い筈なのだが、苦しそうにすることもなく、 安らかな寝息をバージルの首筋に伝えて来る。

人の往来が多い通りを、おぶるのではなく抱き抱えて抜けたと知れば、ダンテは怒り出すかも しれない。そんなことをぽつりと思いながら、バージルは夜の街をゆるゆると歩いた。



















戻。



先日、バイトの帰りに駅で見かけた母子の姿があんまり可愛くて…ついこんなの出ました。
小学校何年生ぐらいかな?男の子が、お母さんに抱っこされて爆睡してまして、
でもちゃんとお母さんの首に腕回してくっ付いてるんですよ。
可愛かった…遊び疲れてすっかり寝ちゃいました、みたいで、もう…!
私はショタではないですが、可愛いものは可愛いし。
兄に抱っこされる子ダンテを書くだけのつもりが、開けて見ればこんな…
メイン抱っこじゃなくなってるし!