淋漓リンリ









近頃よく夢を見る。
勿論夢など誰でも見るものだし、珍しくもないものだ。しかし、総ての夢に一貫性が あることなど、滅多にはない。

バージルはもともと、あまり夢を見たい類いの人間だ。子供の頃からそうで、バージルの 眠りは浅く、かつ短い。

ある意味で、自ら夢を拒んでいる節があった。勿論無意識でのことだが。

夢は見るものではない。

幼い頃、バージルはよくそう思っていた。ほとんど見ないというのに、何故か。理由は、 彼の双子の弟にある。

夢を見ないバージルとは正反対に、ダンテは昔からよく夢を見た。まるでバージルの代わりに 見ているとでも言うように、夜毎、何かしらの夢を見るのだ。
今日はこんな夢だった。などと、バージルはよくダンテから話を聞かされたものだ。

ダンテも、見たこと総てを覚えているわけではない。取り留めのない夢の断片を、何とか 話そうと躍起になる姿は酷く愛らしく思ったものだ。

しかし、その中で、ダンテがはっきりと覚えている夢が一つだけあった。

同じ夢を何度も見るのだと、首を捻りつつ話していたのを、今でも覚えている。その 仕種こそ可愛く思えたものだが、内容は心底面白くないものだった。
いつも、同じ人物がその夢には現れるのだと言う。そしてその人物を、ダンテは酷く慕って いるのだと。

――――すごく優しくて、

その人物のことを語るダンテの頬は、紅潮していて。まるで遠く離れた場所にいる恋人と、 一夜の逢瀬でも交わしたかのように嬉しそうに。

そんな男、とバージルは幼いながらに憎悪めいたものを感じたものだ。

ダンテの話し振りから、夢の人物が男だということは判っていた。
いかに優しかろうと、その男はただの夢。幻でしかない。それなのに、ダンテは現実のことの ように熱心に語った。

俺よりも、夢を選ぶのか。

そう言って問い詰めてやりたかったが、出来なかった。そうか、と相槌を打つことしか。









「夢を見る」

ぽつり、と唐突に言うと、ダンテはコーヒーを啜ろうとしていた手を止め、奇妙なものでも 見るようにバージルを凝視する。

「……アンタが夢なんて、珍しいな」

変なもんでも喰ったか?
混ぜっ返すように言い、笑うダンテにバージルは肩を竦めた。

「腹痛のように言うな。……お前に話したのが間違いだった」

「悪かったよ。で、どんな夢なんだ?」

「さあな」

「は? って……ちゃんと謝っただろ? 拗ねんなよ」

「拗ねてなどない。ほとんど覚えていないだけだ」

それは半分は本当のことだが、もう半分は嘘だ。しかしダンテに話す程の内容ではなく、 バージルは口を噤むことを選んだのだった。勿論、ダンテが「気になる」と言い出すことなど 目に見えていたが。

「そっちから振っといて、そりゃねぇんじゃねぇ? 気になって仕方ねぇよ」

こう言い出すと、ダンテは聞き出すまでバージルに付き纏い、余程のことがなければ諦め ようとはしない。バージルは溜息を吐いた。

「話して聞かせる程覚えていない。聞いたところで、面白くもないぞ?」

一応言ってやるが、ダンテの興味を削ぐことは出来ず。

「夢なんてそんなもんだろ。良いから、聞かせろって」

早く、とせっつき、ダンテはバージルににじり寄った。普段は寝るくらいにしか役立てない ソファーに座り、先に座っていたバージルに凭れるようにして顔を寄せて来る。
何故、夢の話をするだけで、これ程に距離を詰めねばならないのか、甚だ疑問である。が、 バージルは何を言うでもなくダンテの好きにさせてやる。
喜々とした表情のダンテには、周囲が何を言ったところで無駄なことだと、バージルは よく知っているからだ。

だから、バージルはお決まりの溜息を一つ零すだけだ。

「で、どんな夢だったんだ?」

興味津々、ダンテが目を輝かせる。何故、と問おうして、バージルは言葉を飲み込んだ。

子供の頃から、こうやって夢の話をするのはいつもダンテだった。バージルがしたことは、 片手で余る程に少なかった。それも、自分から話を切り出したとなると更に少なくなり、 一度あったかどうかということになって来る。
だからだろう。ダンテはバージルの話を聞くのが、わけもなく好きだということも含めて。

バージルは小さな子供にするように、ダンテの形の良い頭を撫でた。ダンテがくすぐった そうに苦笑する。

「何だよ?」

口の中で「いや、」と応じ、バージルはようやく夢の話をするべく口を開いた。断片を 繋ぎ合わせただけの詰まらない話。しかし聞く側のダンテは、妙に神妙にしてバージルの声に 耳を傾けて。
一言一句たりと聞き漏らすまいとしてか、その表情はいつになく真剣なものだった。

ダンテが、その時何故そんな真剣な面持ちで聞き入っていたのか。一方的な話し手であった バージルがその理由を知るのは、それからもう少し経ってからのことだった。



















戻。



短くて申し訳ない…orz
こちら、『石楠花』と『無価』に雰囲気的に繋がる話として構成してあります。
上2つなくても普通に読めます。ただ、雰囲気と気分の問題です。
話的に繋がるのでは、と提案して下さった方のお言葉に、ここぞとばかりに乗りました!
いやはや、ほんとお世話になります…☆
しかしこれ、何か全然意味が判らないですね…(爆)

*淋漓…血や汗などが滴り落ちるさま。