無価
「バージル、」
その声は高く、彼がまだ幼いことを知らしめた。
「バージルってば」
返答のないことに焦れ、彼がせっつくように名を呼んだ。どうした、と応じてやれば、
ぱっと笑顔が咲く。
「遊ぼう、バージル!」
思った通りの言葉。思わず笑みが込み上げた。
「ねぇ、遊ぼうよう、バージル」
甘えるようにねだる彼。
何をしたい? 問うてやると、彼はそこまで考えていなかったのか、えっと、と困った
ように眉を寄せて悩みだした。その表情と仕種が、子供らしくてとても可愛らしい。
ゆっくり考えれば良い。笑って言う。しかし時間はそれ程掛からなかった。
彼は上目遣いにこちらを見上げ、おずおずと言葉を紡ぐ。
「あのね、」
そこで、目が覚めた。
それが夢だと言うことは、考えるまでもなく判っていた。何故なら、あれは確かに弟には
違いなかったが、双子である自分達の片割れだけが幼いなど、夢でしか有り得ないことだ。
しかし、弟の言葉を最後まで聞けずに夢から醒めてしまったのは、少しばかり惜しい
気がした。どうせなら、どんな遊びを思いついたのか、聞きたかったというのに。
ふむ、と一心地付き、バージルはベッドから起き出すべく上体を起こした。常に眠りの浅い
バージルは、たとえ目覚めた直後であってもしっかりと起き上がることが出来る。
深く眠らない分、覚醒が早いのだ。
その、起き抜けだが冴えたバージルの目に、映って欲しくないものが飛び込んで来る。
「…………」
バージルは目を瞑り、深く息を吸って吐き出した。再び目を開けるが、それは消えては
くれなかった。
「…………何をしている」
怒りを通り越せば、残るものは呆れと諦観。バージルをそうさせたのは、折り重なるように
して眠りこける、三匹――――もとい、一人と二匹だ。
一人はバージルの双子の弟、ダンテ。
二匹はダンテを主として従う双子の剣が化けた、小鬼のぬいぐるみ姿をした
アグニとルドラ。
それらが、バージルの周りに好き勝手な恰好で眠っているのだ。
昨晩――――そう、昨晩眠りに就いた時はいなかった筈のそれらに、バージルでなくとも
溜息を吐きたくなるというものだ。
特に、アグニとルドラに。
ダンテだけならば良かった。バージルはほぼ毎日のようにダンテと同衾する。それは主に
バージルのベッドで、だ。別々に寝る時と言えば、バージルかダンテのどちらかの帰りが遅く
なる日くらいのものである。
だから、ダンテは良い。昨晩帰りの遅かったダンテは、帰るなりバージルのベッドに潜り
込んだのだろう。それに気付かなかったことは、少々情けないものを感じるが、
この際無視する。
よれたシャツ姿のダンテを見下ろし、バージルは肩を竦めた。それから、
ダンテにへばり付いて眠る、二匹の魔具を見やる。
アグニとルドラに関しては、バージルに言えることは無言。つまり何ごとか言葉にすることも
面倒だ、と。
仲が悪いだとか、そういったことはないが、だからと言って馴れ合うつもりはバージルには
ない。
それはアグニとルドラも同様で、ともすればダンテを独り占めするバージルを、憎々しく
思っている節もある。
ダンテがいちいちバージルを選ぶのも、二匹は納得出来ないに違いない。
彼らは確かに元はダンテと敵として対したが、ダンテに叩きのめされ、その力を認めて以来、
時が経つごとにダンテを慕う気持ちを募らせている。それが、バージルにはよく判った。
しかしダンテは持ち前の奇妙な鈍さでもって、全く気付いてはおらず。
気付いていれば、こうも気を許して眠りこけたりはしないだろう。
バージルはまた溜息を漏らし、とりあえず、朱と碧のぬいぐるみを片手でまとめて鷲掴みに
した。きゅう、と鳥が絞められたような音が二体の喉から発せられる。が、二体は起きない。
起きた瞬間“落ちた”のだろう。
くったりとなったそれらを完全に無視して、バージルは空いた片手でダンテの髪を撫で
梳いた。さらりとした銀糸が手に心地好い。
無意識に浮かぶ笑みには気付かず、バージルはぬいぐるみ二つを床に放り、寝着を着替えた。
白のシャツと黒革のパンツ。バージルにとってのラフな恰好に。
バージルは小鬼を拾い上げ、部屋を出た。
ダンテには穏やかな眠りを。
アグニとルドラには安らかな死……否、穏便に退室して頂く。
バージルにとっての優先事項は、まずダンテ。それから自分だ。
ダンテが望んでアグニとルドラをベッドに入れたとしても、バージルには不快でしかなく、
そこは自身の気分を優先させる。
眠るダンテの傍らに、これらを置いておくなど言語道断だ。
掴んだぬいぐるみが何やら蠢いた気がしたが、バージルは無視して洗面所に行った。
まだ薄暗いが、夜明けの冴えた空気をバージルはなかなか気に入っている。
ひょい、と手に持ったものをタオルなどを置いたラックに乗せて、バージルは顔を洗った。
滴る水を指で払いながら、今日の朝食は何を作るか、と思案しつつ、キッチンへ向かう。
ぴくりぴくりと時折痙攣する二匹の小鬼は、最早存在すら忘れられていた……。
短いです。ギャグ?何?とりあえずごめんなさい(土下座)
今回のアグルドにはセリフなしでお願いしました。
ほんとは、起きたら本当に子供になったダンテが…という展開を考えていたのですが、
奇しくも挫折しまして、結果こんなことに;
反省しまくりで現在崖から半分落下中でございます…うふふふ…(嫌)
今日はちょっとばかり日記を書く元気がないのでここに少々…(眠いだけ/殴)
メルフォありがとうございます。
こんなヘタレが書くバジダンを気に入って下さって、ほんとに嬉しいです。
涙で前が見えません…! 子ダンテ頑張ります!(そこ?)
そしていつもの方、子ダンテに絡む小鬼をいつかお目見えしたいと思いますので、
気長にお付き合い下さると幸いです。見捨てないで下さいね…(ホホエミ)