暴徒ボウト












夏場、燦々と照り付ける太陽により否応なく猛暑がもたらされるこの時期、ダンテにとって それはなくてはならぬ必需品となる。

ダンテは暑さに弱い。当たり前だが夏を好きになどなれず、毎年この時季が巡って来なければ 良いのにと、切実な思いをこめて願う程度には夏が嫌いである。汗をかくことは嫌いではないが、 それとこれとは別問題だ。暑いと思考そのものが働かなくなる。もとから働いていないがな、と 意地の悪い兄ならば言いそうだ。
とにもかくにも、連日の暑気にダンテはまったく参ってしまっている。夏には強い筈の兄の眉には 深い皺が刻まれていて、しかしダンテにはそれをちらとしか見る余裕はなかった。ともかく、 暑い。

暑さに辟易したときは、水風呂に入ることがダンテの気に入りであった。しかしそれは今、 兄によって禁止されている。一度、兄の不在時にこっそり強行したことがあるのだが、何故だか 露見してしまい、結果それからは全くご無沙汰となっている。その際兄に何をされたのか、 思い出すことすらこわくて出来ないダンテであった。
通年のように水風呂で避暑を図ることが出来なくなってしまったダンテが、次に逃げ込んだのは この、今まさに手にしているものである。それは丸い形をして、ダンテは両手で大事に包み込む ように口を寄せている。アイスだ。それもソフトクリームや棒状になったものではない。小さな 風船のような形をしている。味は何の変哲もないバニラだ。素朴だからこそ、旨い。

ちゅ、と音をさせて熱心にそれを食べるダンテを、無言で見つめる兄がやおら口を開いた。

「……何を喰っている、ダンテ?」

目だけを上げると、新聞を片手にしたバージルが不審げにこちらを見ている。その表情の深い 意味など考えもせず、ダンテはそれから唇を離して兄に答えた。たまごアイスだ、と。兄の眉に、 皺がもう一本追加される。

「アイス?」

兄は見たことがないのだろう。もちろん、食べたことも。だからいかにも不審なものに見え、 ついでに旨そうにも見えぬのに違いない。ダンテがもう一口たまごアイスを吸って、旨いよ、と 無意識に頬を綻ばせた。

アイスはよく食べる。水風呂を禁じられたダンテに残された避暑方策がこれである。アイスを 食べている間は、束の間とはいえ暑さを忘れられる。それがやめられず、ダンテは日にいくつも アイスを食べるのだ。
腹を下しても知らんぞ、と。水風呂には難色を示したバージルも、こちらには小言を言うだけに 止どまっている。冷凍庫にはいくつもアイスが箱で収納されており、それらはバージルが小言を 言いながらも買ってくれたものだ。ダンテが暑さにもへこたれずにこにこしていられる理由は、 そこにもあった。
が、このたまごアイスはダンテが独自に購入したもので、バージルの預り知らぬ代物であった。 だからいっそう不審だったのだろう。

卵よりもレモンに近い形のアイスは、それこそ小型の風船という表現が似合う。絞った口の反対に 穴を開け、そこから中のアイスを食べるのだ。直接口をつけて、こう、吸い上げる恰好で。その ためどうしても、ちゅう、と音がしてしまう。溶けてくれば吸うことも容易くなるが、それに より高まる危険性について、ダンテはまだ認識してはいなかった。何しろ、たまごアイスに 挑戦するのはこれが初めてなのだから。

再びたまごアイスに夢中になる弟へ、バージルが呆れるように肩を竦めたがダンテはもちろん 気付かなかった。汚すなよ、という小言だけは、何故かきれいに耳に入り込んで来た。

「ん……判って、っわ!」

返事を、しなくても良かっただろうにしようとしたことが間違いだったのか、残り僅かだった たまごアイスが、ゴムの弾力を借りて破裂するように中身を吹き上げたのだ。

「うぇ……」

呻くダンテの顔には、飛び散ったアイスがまともにかかってしまっている。残りはもう僅か だったとはいえ、こうしてみると妙に量が多く感じられる。鏡で見たわけではないが、顔や 胸元のべたつきですら判る程度には、気持ちが悪い。

「ちぇっ、もったいねぇな」

悪態を吐き、睫毛に飛んだ雫を指で払った。最も忘れてはならないことを、すっかり失念している ことには気付かずに、口の周りにこびりついたアイスを舌で舐める。それはいかにも扇情的な眺め でありすぎたが、自覚のないダンテが判るわけもなく。
す、と影に覆われたことに目を瞬かせる。

「? バージル?」

テーブルとソファーの間に座り込んだダンテを、明かりから遮るように立ったバージル。 その表情は逆光になってよく判らない。笑っているようには見えないけれども。と考えて、 ダンテはようようはっとした。汚すなと言われたばかりだというのに、まんまとアイスを まき散らしてしまったことに思い至ったのだ。
怒られる。まず間違いなく雷を落とされる。蒼白になってバージルを見上げるダンテは、それが 全く見当外れであることを知るよしもない。肝心のところでひどく鈍い、ダンテらしいといえば そうなのだが。

「バ、バージル……?」

自覚はなく、怯えた声音で兄を呼ばわる。バージルの手が腰――ベルトにかかるのを、ダンテは 何を察することなく見上げていた。そして、長く節の高い指がダンテの頬に触れ、アイスの雫を すくいとり自分の口へと運ぶ。

「そんなにたまごアイスが好きなら、こちらも喰ってみるが良い」

は? とすら言わせてももらえなかった。髪を鷲掴みにされ、半端に開いてしまっていた口に、 目の前にあらわにされたバージルのものを突き込まれたのだから、たまったものではない。
んぐぅ、とくぐもった悲鳴を上げるが、バージルはお構いなしにダンテの頭を前後にさせる。 ぢゅぷ、ぢゅぷ、とそんなつもりもないというのに卑猥な音が自分の口からもれて、ダンテは きつく瞼を閉じた。無意識にバージルのそれへ舌を絡めようとしていることには、無理に 気付かぬふりをして。

「っふ、ん、んんっ……!」

嫌がって顔を背けようにも、バージルの手がそれを許してはくれない。掴まれた髪が数本、 まとめてぶちぶちと抜けるのが判る。やたらとダンテの髪を大事にしたがるバージルには、 しかし自分が手荒に扱うことには全く頓着しないという問題がある。自分のものだという意識が 強すぎるのだ。だからダンテに対し、時折こうした酷い暴挙に出ることがあった。

喉の奥が苦しさゆえにひくついた。それは意図せずバージルの先端を吸うかたちになったらしく、 口腔はいっそうの圧迫感に見舞われることとなった。もとより逞しく猛っていたバージルの それが、より硬度を増すのだからたまらない。こういうときに鼻で息をするのが苦手なダンテと しては、窒息死という言葉が冗談にならぬ状態である。

「ぐ、ぅ……う……っ」

こんなのは嫌だ。嫌だが、しかし。早くせねば本当に死んでしまいかねない。そしてバージルは、 そうしかねぬ男である。

「苦しいか、ダンテ」

判りきったことを、バージルがしれっとして問うてきた。ダンテは瞼を開け、生理的な涙の 滲んだ瞳でバージルを睨みつけた。その上目遣いすら雄を煽るのだとは、無論知らずにいる。

「もう少し旨そうにして見せろ。さっきのように」

たまごアイスを食べていたときのことを言っているのだろうか。そうだとすれば最悪だ。 こんなものを旨そうになど、出来るわけがないではないか。
いくら、毎日のようにこれを我が身に受け入れているとはいえ。口で咥えるのとではまったく別な 問題である。――それもまた、少々ずれたものの考え方であるのだが。

ほら、どうした、などと。バージルはダンテの髪を掴んだ手を軽く揺すった。旨そうに。 そんなものは出来ないけれど、ダンテが解放されるための糸口は今のバージルの言葉に 隠されていた。おそらく。いや、きっと。

「んっ、ん、く」

バージルのものに舌を這わせ、喉を使い、いわゆる奉仕を施す。旨いとはとてもではなく 思えぬが、口淫には不慣れではない。バージルが射精すれば、口での奉仕は終わるに違いない。
熱心に舌を使い始めたダンテの頭上から、バージルの笑みを含んだ低い声が降る。

「ふん……それで良い」

いつもながら、傲慢な男だ。この兄は本当に変わらない。諾々と従ってしまう自分も、そう。 何も変わらない。だからこそ、ダンテはバージルから離れられないのだ。この変化のない、 異常な日常がぬるま湯のように心地好くありすぎるから。

「ん、ふ、ぅン……」

目を細めて男の象徴を貪るさまは、ダンテの意思に反していかにも美味なものを味わっている かのようだ。口の端から唾液が溢れていく、それすら卑猥に見える。熱心な舌は、問題なく男を 高め、頂点へと導いていき――

「っ……ダンテ、よく、味わえ」

語尾にかかるように、バージルがダンテの口内に精を放った。ぐぅ、とダンテの喉が鳴り、目が 見開かれる。

「ッ……!」

突出た喉仏が上下する。喉の奥に直接放たれた精液を、ダンテは勢いもあってすべて嚥下した。 後に残るのはひどい苦みと、口腔からバージルのものが抜き去られ、久々に目一杯空気を吸った ことによる咳だった。

「げほっ、げほっ……げほっ……」

涙目になったダンテの頬に、ぴしゃりと何かがかかる。何か、とは一瞬では理解出来なかったが、 バージルがダンテの口に放ちそこねた残滓である。それを、ダンテの顔へ。理解したくないものを 理解してしまった脳は、かちりと止まって考えることをやめた。バージルのそれが、一度達したと いうのにいまだ硬度を失っていないことが拍車をかけている。
現実からの逃避を図ったことを見破ったらしく、バージルがソファーに腰掛けながらダンテの頬を 撫ぜた。自分の放ったものを、ダンテの膚にすり込むようになすりつける。

「っ、やめ……」

抵抗しようとするダンテなど無視で、バージルはダンテの二の腕を掴みさして力も入れぬふうに 自分のほうへ引いた。ダンテの尻がふわっと浮き、驚いている間にソファーへ、バージルの膝の 上へと引き上げられてしまう。相変わらず、でたらめな膂力だ。抗う暇などありもしない。

「ふむ、」

何やら一人ごちたバージルの、股を跨ぐ恰好で座らされたダンテは、当然ながら居心地は最悪で ある。バージルは自身をしまいもせず、となればこの体勢は非常に危うい。だが、だが。
バージルのは、ちゃんと喰った。
それがダンテの言い分であり、バージルの要求でもあった筈だ。だから、もうこの遊びは終わり。 そうなると思って、ダンテは懸命にバージルのものを咥えたというのに。

淡く小さな期待を打ち砕くように、バージルの意地の悪い声音がダンテの耳に吹き込まれた。

「まさか、あれで終わりとは思っていないだろうな?」

「えっ……」

嫌な予感ほど当たるものはない。ダンテは顔と言わず全身を引きつらせた。嘲笑うように、 バージルがダンテの尻をいやらしく撫で上げる。強張った躰が、勝手にびくんと跳ねた。 くつくつと笑う声が、いつものこととはいえ恨めしい。

「うぶなことだな、ダンテ。これからたっぷり、喰わせてやろうというのに」

何を、とはやはり言わない。そんなものは判りきっている。
ダンテは「ひっ」と悲鳴を上げた。それすらもバージルを焚き付ける要素になるのだと、 バージルの酷薄な笑みが深まったことで知りたくもないが知ってしまう。

「とりあえず、次はここか」

何ということもなさそうに、バージルがダンテの後ろを指でつついた。どうしてもぎくっとして しまうダンテに、声音だけは優しく(これが一番たちが悪いのだ)囁いてくる。

「よく味わって、啼け。お前は食い意地が張っているから、言うまでもないだろうが、な」

くすりと笑うバージルを、ダンテは殺してやりたいと本気で思った。しかし現実には、ダンテは バージルの言うとおり、散々に貫かれて甘く啼き続けることになる。それが予想出来るからこそ、 ダンテは殺意を抱かずにはいられない。最も殺したいのは、自分自身だ。だがそのどちらも、 ダンテには出来ない。

「ぁ、あっ、は……ッん……」

ダンテには、バージルとのセックスをやめることなど出来はしないのだから。いかにそれが、 変態的な意味合いを持たされた場合であっても。

「旨いか、ダンテ?」

バージルの低い声音は、まるで依存性の高い麻薬のように、ダンテの思考を容赦なく 奪っていく。



















戻。


某サイト様にて掲載されていたたまごアイス漫画にめっさ萌えました。
結果、こんなの出ちゃいました☆…すみません(土下座)
ダンテをベッタベタにしたいという欲望が突っ走ったといいますか。

[08/09/01]