幼稚オサナク









ぐずると、拗ねる。それはおよそ切り離せぬものらしく、ぐずったと思えばその後は決まって 拗ね始める。拗ねる必要はどこにあるのかと、問うたこちらに対し彼は「拗ねてない」と頬を 膨らませて反駁するのだ。それが拗ねているというのに、認めぬあたりやはり強情で子どもで ある。そう指摘すればまた、臍を曲げるであろうことが容易に予想されたので、口には 出さなかったが。
ぐずるさまも、拗ねるさまもバージルは嫌ってはいない。むしろ気に入ってすらいるという自覚が ある。しかしそれらの表情を気に入ってはいても、そうなっているときの状況はあまり好きでは なかった。拗ねた彼は、バージルが触れようとすると嫌だと喚いて激しく拒絶するからだ。
拒まれることを好かぬバージルにとり、それは軽いジレンマをもたらすものであった。





ダンテが、拗ねた。自分に隠れて仲介屋から仕事を請け、黙ってこなして済まそうとしていた ダンテを、バージルは責めたまでのこと。ダンテがひとりで外へ出るなど、バージルは赦して いないし知っていればもちろんさせなかった。だから、ダンテはこっそり実行したのに 違いなかったのだが。
黙っていれば露見せぬとでも思ったのか。だとすればいかにも稚拙で知恵の足らぬ計画だ。

バージルが帰宅したとき、ダンテは何食わぬ顔で自分を出迎えた。やはり隠しおおせると思って いたに違いなく、しかしそんなわけもなくバージルはすぐに、ダンテが纏う臭いに気がついた。 血というには濃く、そして汚らわしい爛れた臭いだ。バージルはそれが悪魔の臭気であると 察して、次に何故ダンテがそんな臭いを纏わせているのか疑問に思った。ダンテが、自分に黙って 何かしらの依頼をこなしたのだという結論に辿り着くまでに要した時間は、僅かに五秒。 半瞬後、バージルはダンテの痩身を事務所の床に押し倒していた。

俯せにさせ、両腕を後ろに捻り上げて一纏めに縛り、嫌だやめろと喚く口にハンカチを押し込み 黙らせて、獣の姿勢のまま、犯した。慣らしもせず貫いた蕾は襞が裂け、血がダンテの内股に 伝った。
苦痛を含んだくぐもった悲鳴を上げ続けるダンテを、バージルは壊れるのではないかと 思う程に貪り、蹂躙し尽くした。罰なのだから、快楽なぞ与えてやるつもりはなかった。苦痛に 泣き、喚けば良い。許しを乞うて縋って来ようとも、バージルは容赦をするつもりはなかった。

獣の恰好で、二度。ダンテの意識が遠のきかかれば頬を打ち、無理矢理こちらへ引き戻してさらに 犯した。涙と唾液とでぐちゃぐちゃになった床とダンテの顔とを、バージルは見つめながら ダンテの躰を抱き起こし、膝に抱いてもう一度粘膜へ熱を放った。ダンテの喉はもはや悲鳴を 上げることもなく、バージルのハンカチを噛むことすら出来ないようだった。しかしダンテの ぐったりとしたさまを見ても、バージルの激情は鎮まることを知らず、お前が悪いのだとその耳に 囁いてダンテを風呂場へ連れ込んだ。

嫌な臭気を落としてやりたいという意図もあった。どうすれば効率よく己のにおいを馴染ませる ことが出来るだろうかと考えて、バージルが取った手段はダンテをして大いに動揺せしめた らしい。口にはハンカチを詰めたままだったので、何を喚いていたかは判らなかったものの、 蒼い双眸はひどく驚愕した(傷ついた?)ように見開かれていた。

風呂場で何度、しただろうか。ぼんやりとしか覚えていない程度には、バージルの理性も焼き 切れていたということだ。ダンテはといえば、すっかり意識を混濁させてしまっていた。しかし 無茶をさせたとは、思わない。何故ならバージルのしたことは、ダンテへの懲罰だったの だから。

気絶したダンテの躰を大判のタオルで包み、頭にもタオルを巻いて寝室へ運んだ。ゆっくり水分を 拭ってやり、髪を拭いてやる頃にはバージルの感情もいつもの平静を取り戻していた。それを ダンテに見られなかったことは、バージルにとって幸いだったと言っても良い。無様なものだと、 ひとり自嘲した。





すっかり日付の変わった夜更け、バージルはダンテをその腕に抱き締めて眠りに就いた。





ダンテが拗ねて口を利かない。おそらく昨晩の行為を引きずっているのだろうが、バージルは もちろん謝ることなどしなかった。それがまた、ダンテの臍を曲げることに繋がってしまった らしく、ダンテはむぅっと膨れて外方を向いた。可愛いさまではあるが、こちらを見ようとも せず、口を開こうともしないというのは少々頂けない。
バージルは内心で肩を竦めため息を吐いた。

(まったく……)

バージルはダンテの身を思って、ダンテに外出をさせないというのに、当の本人がそれを 理解しようとせず、あまつさえ禁を破って仕事などしたというのだから、責められるのは当然と いうものだ。それなのに、ぐずるわ拗ねるわ臍を曲げるわ、何という我儘な弟であろうか。
呆れて、しかしバージルがダンテを見限ることはないのだけれども。いっそ一度、突き放して みればこの弟も懲りるだろうか。赦して、と。泣いて縋ってくるだろうか。それはいかにも 魅力的なことであるが。

「ダンテ、」

呼ばわれば、ダンテの肩がぴくっと跳ねる。眉を寄せて唇を噛んでいる。そうも過敏な反応をして しまった自身を、内心で叱咤しているに違いなかった。
バージルは斜め右下にあるダンテのつむじを見下ろし、その髪を梳いてやりたいという欲求を 抑えつつ、言う。

「買い物へ行くが、どうする」

機嫌を取ろうとしての発案ではない。実際冷蔵庫の中身は涸渇しようとしているし、ダンテが臍を 曲げていなくても近くのスーパーマーケットへは行くつもりをしていた。ただ、ダンテを連れて 行くというつもりは全くなかったのだが。
ダンテの頭が微かに揺れる。こちらを見るか、どうしようか迷っているのだろう。そして買い物へ ついて行くか否かも。(気持ちは、間違いなく前者へ傾いている筈だ。)

「俺はどちらでも構わんぞ」

ダンテの内心の葛藤を眺めながら、バージルは口許に笑みを浮かべた。どうするのか。答えを 急がせるつもりはバージルにはなく、ただじっと、ダンテのつむじを見つめるに止どめる。
行くと言うなら、髪をくしゃくしゃに撫ぜてやろう。無論、その後きちんと梳きほぐすことは 忘れない。

(さて、……)

気は長いほうではないが、時にはこうして待つのも悪くはない。



そうして待つこと数分ののち、ダンテの小さな小さな呟きを聞いて、バージルは笑みを湛えて 彼の髪をくしゃくしゃにしてやった。



















戻。



アグルドの入る隙間がありませんでした…