愛猫
バージルには、自覚がある。性格にしろ性質にしろ、自身に関する総てをバージルは理解している
し、それ故に自覚もしているのだ。
性慾についても、そう。
自身の性慾を、バージルは強くも弱くもないと理解している。ダンテが聞けば唖然とした後嘘だと
叫ぶに違いない。何も知らぬダンテらしい主張を、猫のように毛を逆立てて。
確かにダンテから見れば、バージルの性慾はいかにも強いの(ダンテ曰く、最悪の絶倫、とのこと)
だが、それはダンテを相手にするときのみに発揮されるのだ。他の女(バージルには同性愛の趣味は
ない)を相手にするとき、バージルはまるで昂揚というものをしない。ただの生理的な処理としての
行為に、熱など入ろう筈がないというものだ。
バージルが本当の意味で抱くのはダンテただ一人。愛だとかそんな言葉で事足りる感情ではなく、
バージルは毎日のようにダンテの肉を求める。時には、夜も昼もなく、思うままにダンテを貪る
こともある。だから、ダンテの言うところによればバージルは絶倫、ということになるのだろう。
否定しようとも、したいとも思わぬバージルではあるが。
代わってダンテのほうは、バージルのことを絶倫と罵るだけあって、自ら進んで交合を望むことは
少ない。ほとんどない、と言っても良い。かと言ってそれが、性慾が弱いということには繋がらない
のだが。
(これは、……)
どうしたものかと、バージルは思案する。交合を迫るのは、いつもバージルのほうだ。ダンテも
性慾は弱くはない。むしろあれ程交合を好む躰は他にないと、バージルは思っている。行為のあれ
これを教えたのはバージルに他ならないが、ダンテ自身の素質がもっとも大きかったに違い
ない。
ダンテが自ら交合をと望む機会が少ないのは、矜持や羞恥心が邪魔をしているからだ。
そして何より、ダンテが言い出すまでもなく、バージルが先にダンテを押し倒すことが圧倒的に
多いからだった。
日常、と言ってしまえばそれは確かに日常のごくありふれた光景であった。ダンテは大抵、
受け身だ。行為が始まってしまえば、すぐにも蕩ける躰を持つダンテではあるが。
その日常が崩れると、こうも困惑してしまうものかと、バージルは今よくよく思い感心している。
視線は下方、ソファーに座った己の腰辺りに据えてある。耳には水音。画像がなくともそれと判る、
卑猥な音だ。
バージルの股に顔を埋め、一心に奉仕しているのは無論ダンテだ。交合にはいつも乗り気ではない
ダンテだというのに、今日はどういうつもりなのか。バージルはそれを、もう数分もはかり
あぐねている。
ダンテの舌使いはなかなかに巧みだ。これもバージルが仕込んでやったものだが、バージルとしては
技巧などさして期待はしていないというのが本音であった。どんなにか拙かろうが、自分の為に
必死に奉仕をするダンテの姿を見るだけで、バージルの雄は充分に猛るからだ。しかし技巧を身に
着けられるならば、それに越したことはないというわけで。
「ん……ふ、んぅ……」
熱っぽい吐息がバージルの陰茎を包む。ダンテの口腔はあたたかく、茎に這う舌は巧妙だ。己を
制御する手段を持つバージルですら、さしたる時間もかからず熱を解放してしまいそうな程、
心地が好い。
(どういう風の吹き回しか……)
判らぬが、この状況を愉しまずにいては男ではない、という極論に到ったバージルは、腹を据えると
同時にダンテの柔らかい髪へ指を差し込んだ。ダンテの肩がぴくっと揺れる。この不可解な行為を
ダンテが始めてからこちら、バージルがダンテに触れるのは今が初めてなのだ。ダンテが過剰な
反応を示すのは、もっともなことだとバージルは思い口の端に笑みを浮かべた。この弟は、もとが
ひどく敏感に出来ている。だからこそ、愉しいのだ。
もちろん、バージルがダンテを抱く本当の理由はそれではない。
「ふぅ、ん……、んく……っ」
びくりとダンテの息が跳ねた。バージルが彼のうなじを指先で辿ったからだ。どこもかしこも
敏感に出来ている弟の、磁器人形のような蒼白い膚を手繰ることはバージルの気に入りだ。
手触りの良いものを好むのはダンテのほうだが、バージルも負けてはいない。ただ、バージルが
好むのはダンテの髪や膚に限られるというだけのことで。
ダンテがバージルの指先に意識を集中させているらしいと、急に緩慢になった舌使いからすぐに
それと悟る。いつも受け身であるダンテは、こちらから仕掛ける愛撫にひどく弱い。ただ爪で膚を
掻いただけでも、今ならば嬌声を上げるかもしれなかった。バージルのものを口に含んでいる為、
試すことは出来ないが。
バージルはふと、足を動かしダンテの大腿にあてた。ひくりと彼の内股が痙攣する。バージルは
片眉を持ち上げ股の間に足を突っ込んだ。今度こそ、ダンテはくぐもった悲鳴を上げて腰を跳ね
させる。そこは、触れてもいないというのに熱く張り詰め、革パンツの下で窮屈そうに自身を
主張している。
「ふん……想像でもしたか、ダンテ?」
揶揄すれば、ダンテは目だけを上げてこちらを睨んだ。しっとりと濡れた双眸は、いっそ
なまめかしい程の色香がある。いかに睨んだところで、効果がないのは明らかだ。しかも否定など
出来ぬ筈である。ダンテの下肢は間違いなく昂ぶっているのだから。
バージルはくつりと笑い、足の裏でダンテの股をぐっと押した。くぐもった悲鳴が、バージルの
陰茎を咥えた隙間からもれる。
「ッぐぅ……っ!」
痛みに歪む顔も、バージルの好むところだ。己の趣味趣向が修正出来ぬまでに歪んでいるという
ことも、バージルは無論自覚している。
口を離そうとするダンテの頭を鷲掴みにし、押さえ付けた。
「お前から始めておいて、途中で投げ出すなど俺が赦すとでも思ったか?」
ダンテの全身がびくりと竦む。かすかな震えがダンテの指先に表われていることに、バージルは
気付いた。くすっと笑い、ダンテの股間に押しつけていた足を外してやる。
「ん、む……ぅう……っ」
こちらに向けられた瞳が、何をか訴えるように潤む。突然足を引いたことを抗議しているのだろう。
バージルは笑みを消し、まったく感情のこもらぬ声音で言い放った。
「後ろを、自分で広げておけ」
ぎくりと強張るダンテ。バージルはそれすらも気に食わず、舌打ちした。
「淫乱は淫乱らしく、自ら跨がってよがるのが似合いだ。それが嫌ならば……」
言いさした言葉の続きを言わせまいとするように、ダンテは口淫を再開させ、急いたように手を
自ら尻へ回し革パンツの中へ潜り込ませる。自分で自分の後孔を指で拡げるなど、屈辱以外の
何ものでもないだろう。しかしダンテは意を決したように目を瞑り、襞へ指を潜り込ませた。
「ッう……!」
交合には、無論のこと馴れている躰だ。血は流れなかっただろう。しかし馴れていても初めの
痛みはなくなるものではないらしく、ダンテのおもてが苦痛に彩られた。
「指を入れて……それだけか?」
冷ややかに言ってやれば、ダンテは頬を赤くして指を入るところまで押し込んだ。ゆるゆると、
抜き差しを始める。いかにも緩慢な動きを、バージルは何を思うでもなく見つめた。
ダンテが何故自ら口淫など始めたのか、バージルには判らない。不可解ではあれど、全く理解
出来ぬわけではなかった。猫の発情のようなものだろうと、バージルは思っている。
淫乱な弟。ふだんはバージルが仕掛けねば交合の話もせぬダンテだが、時折気が触れたように男を
欲しがることがある。おそらく自分でなくとも、男ならば誰でも良いのに違いないこの弟を、
バージルは深く嫌悪している。
くち、くち、と緩慢な動作に見合った小さな音が耳をつく。後ろへ意識を集中させすぎているのか、
舌使いすら緩慢ときているものだから、苛立たずにはおれない。
「さっさとしろ」
苛つきを隠しもせずに(隠す理由が一つもない)バージルが言えば、ダンテは「んぅっ」と声を
上げ、後孔へもう一本、指を差し込む。今度は比較的すんなり、指を飲み込んだようだった。
加えて舌の動きも回復する。懸命さが見て取れる程、頬が紅潮している。
男のものを舐め舐ぶりながら、自ら後孔を弄るさまはひどく淫猥だ。バージルは目を細め、
ぐちゅぐちゅという、布越しですら品の感じられない水音に耳を傾ける。
「ダンテ、」
低く、呼ばわった。次は何を言われるのかと、ダンテの躰が強張る。バージルは弟の髪をゆるく
指に巻き付けた。優しげな仕種に、ダンテが訝ってかそろりと上目遣いに視線をよこす。
「口か、中か、どちらで飲みたいか選べ」
瞬時には意味を理解出来なかったらしく、ダンテが空色の碧眼をぱちりとさせる。バージルは指に
巻き付けた髪をつんと引いた。半瞬後、ようよう意味を飲み込んだダンテの耳までも、真っ赤に
染まる。熟れた林檎のようだと、バージルは思い、牙を突き立てたい衝動に駆られる。
「どちらだ」
静かに問うバージルに、ダンテは行動で答えを示した。バージルのものから口を離し、後孔から
指を引き抜き――――自棄のように荒っぽく下衣を脱ぎさってバージルの膝へ、跨がるかたちで
ソファーへ乗り上げる。つまりは後者、というわけだ。
「手は貸さぬぞ」
わざと突き放すように、言う。ダンテは唇を噛み、判ってる、と悔しそうに言った。実際、
悔しいに違いない。ダンテの矜持は低くはない。むしろ高くあることをバージルは知っている。
それを、蹂躙し支配することをバージルはこの上なく好んでいるのだ。
歪みと言うにはまだ生ぬるいか。
バージルは距離の近くなった弟の、細く尖った顎を見つめた。時折上下する喉笛に噛み付きたいが、
堪える。手は出さないと、今ダンテに言ったばかりだ。口は手ではないという屁理屈をこねても、
まぁ構わないのだけれども。
そうっと、ダンテはバージルのものに手を添え、その先端を後孔にあてがった。期待をしてか、
襞がいやらしく収縮する。ダンテは唇をちらりと舐めた。赤い舌が男を誘っているようだと、
バージルは思ったがやはり手も口も出さない。
ダンテの体重が、その一点にのしかかる。重みを感じる前に、自身がダンテの内部へ侵入していく。
重力とダンテの自重によって、ず、ず、と入り込み弟を犯していくさまを、バージルは他人事で
あるかのようにじっと凝視した。視線に気付いたダンテが、見るなと喚く。バージルはしれっと
して、何故だと返した。
「い、やだ……っ」
バージルの視線を意識している所為で、襞に力が入り順調であった侵入が中途半端なところで
止まってしまう。己をきつく締め付けられたバージルは、片目を眇めた。
「喰い千切るつもりか、ダンテ?」
そんなことをしては、困るのはお前のほうだろうに。嘯けば、真に受けたダンテの下肢までも
ほのかに赤くなったようだった。
「な、な……ッ」
口をぱくぱくさせるダンテに、バージルはやれやれと肩を竦める。何とも、この弟は初心で
かなわない。
「力を抜け。これでは満足に犯せぬだろう」
ダンテはぐっと唇を噛み、手を片方、自身へ触れるそれへ変える。そうすれば力が抜けやすいの
だと、ダンテは経験からよく知っている。数回扱くと、ダンテの陰茎からとろりと蜜が溢れ
出した。感じているに違いなく、ダンテのもらす息は甘やかだ。後ろも徐々にバージルの熱塊を
飲み込んでいき、間もなくバージルはダンテの最奥に行き着いた。ふ、とダンテが息を吐く。
「これで終わりではなかろう。早く動け」
「っ……わかってるよ……!」
いちいち煩い、とでも言いたいのか、しかし口端を噛んでダンテは腰を揺らめかせた。ここという
箇所は、ダンテよりもバージルのほうが詳しく把握している。だがダンテも自分の好きな箇所くらい
は判っている筈だ。ダンテはバージルの熱がそこへあたるよう、ゆるゆる腰を使った。
と、
「ひぁっ……!」
思わず、といったふうな嬌声が上がる。バージルの先端がかすめた箇所は、まさしくダンテの
弱い箇所に違いなかった。びくびくと、ダンテの腰が跳ねる。一度味わった快楽を手放せるような
ダンテではない。二度、三度と自ら腰を揺らめかせて快楽を貪るさまは、手練手管に長けた
商売女ですら及ばぬ淫らさだ。
「んっ、はぁ……あ、あっ……あ……」
羞恥はあるのだろう。しかしそれに勝る快楽にダンテは成す術もなく溺れる。そういう淫乱なのだ、
これは。バージルはダンテの痴態を視界に収め、下肢が猛るのとは別に冷ややかに評した。
気に入らない。
己の膝で喘ぐダンテが、まるで全く別の男に犯されているかのような錯覚に陥る。確かにダンテを
貫いているのはバージルで、結合部の締め付けも生々しく感じるというのに。
バージルは舌打ちをし、はっとしたようにこちらを見たダンテにまた苛立ち、わずかに揺れる柳腰を
掴み荒々しく腰を突き上げた。
「ひぅッ!?」
手は貸さぬと、言った。今し方のことだ、忘れてはいない。しかしただ指を咥えて見ているには、
ダンテは妖艶でありすぎる。
「お前に任せていたのでは、夜が明ける」
「や、バージル、まっ……あぁっ……!」
驚きに喘ぐダンテの腰を、バージルは上下させより深みを抉るように突いた。自分で動くのとは
まるで違う強烈な突き上げに、ダンテの喉からはひっきりなしに嬌声がもれ、呼吸すらままならぬ
様子だ。
「あぅっ、んんっ……くぅ、ン……ッぁ、ア……!」
ダンテの腰が、おそらく無意識にだろうがなまめかしく揺れる。より強い快楽を得ようと、
ダンテの躰は意志とは別に動くのだ。
バージルは自身に絡み付く襞の一枚一枚を意識しながら、ダンテの開きっ放しになった口から
こぼれた唾液を舌で拭った。その程度のことですら、ダンテの背はふるりと痺れる。感じやすい
にも程があると、バージルは呆れてしまう。
「そろそろ、か」
呟いた。ダンテは既に限界に達し、陰茎は今にもはち切れん程だ。
バージルはダンテの腰を強く掴み、一際激しく(乱暴に)ダンテの最奥、この体位でなければ
届かぬ粘膜を貫いた。ダンテが悲鳴を上げる。
「ッあ、ぁあああ――っ!」
張り詰めた陰茎がようやくの射精を果たし、ダンテとバージルの腹をしとどに濡らした。同時に、
バージルもダンテの奥へ精をぶちまけている。その衝撃と射精の余韻に、ダンテの腰や背が
ぶるりと痙攣し、しなった。
「ひ、んっ……!」
ダンテの陰茎の先から、とぷっと残りの精液が溢れ出る。快楽にけぶった表情でため息をもらす
ダンテの、汗の滲んだ額をバージルは撫ぜた。張り付いた髪を掻き上げてやると、ダンテが気持ち
良さそうに目を閉じる。
まだ熱のこもった息を繰り返す唇が、バージルの名を呼ばわった。うっすらと瞼が持ち上がり、
そこから覗く瞳は陶然としており。
「何だ」
後ろ髪を梳いて促せば、ダンテははふと息をもらし、
「な、ぁ、バージル……もっと……」
などと。
バージルは、首に腕を絡め再び腰を揺らめかせ始めたダンテの、紅い舌に噛み付くように口付けた。
淫らに揺れる腰と背中を腕で支え、体勢を入れ替えソファーに組み敷く。
「声が嗄れる程度では済まぬと思え」
宣言し、「えっ?」と目を瞬かせるダンテを無視して律動を再開させた。こうなればもはや、
ダンテはバージルに縋り喘ぐしかない。嫌がっているふうなど、当然ないのだからバージルに
遠慮などする理由はない。
(ふん……)
たまには、ダンテがやけに積極的というのも悪くはないかもしれない。
バージルは二度目の解放を目指し、弟の躰を貪った。
エロのみで推して参りました。
誘い受ダンテ…って、誘ってない…?
[08/06/17]