誘乱
ダンテの声が聞こえた。笑っているようでもある。気分が昂揚しているということがはっきりと
判る、上機嫌そのものの声音だ。
さもあらん、とバージルは肩を竦めて閻魔刀を鞘に納めた。今日は久し振りに手応えのある
悪魔と当たったのだ。ダンテ曰くの“アタリ”という仕事である。
他の人間から見ればうさん臭いことこの上ない、しかし彼ら双子にとっては本命の仕事が悪魔を
狩ることだ。とくにダンテは、悪魔絡みの依頼と判れば目の色を変える。
命の駆け引きを好み、無謀を絵に描いたような無茶と派手な立ち回りを好むダンテは、今日も
今日とて無傷ではない。これは相手取る悪魔が強力だからであって、いつもの仕事なら傷など
めったに作ることはないのだが。
止血する時間すら惜しいのだろう、額から垂れた血が目を覆っているというのに、ダンテは
笑みを絶やすことなく大剣を舞わせている。いかにも愉しんでいる表情だ。
バージルは肩の力を抜くように息を吐き、逆手に刀を抜く。脇腹に沿わせて真後ろに刀を突き
立てると、醜い断末魔が響き渡った。手首を捻って刀を引き、鞘に戻す。バージルの周りに
群れているのは下級悪魔ばかりで、一つ斬撃を振るうだけで数匹を纏めて屠ることも不可能では
ない。大物の周囲には雑魚が群れやすく、バージルはそれらの小物を片付ける役を引き受けた
のだ。
大物は、ダンテに譲ってやった。恩に着せるつもりはない。
ここしばらく悪魔絡みの依頼が全くなかった為、ダンテの機嫌は下降するばかりだった。
機嫌取りなどしたつもりはないが、こうするのが手っ取り早いと思ったのは確かだ。悪魔を
狩った後のダンテは、躰の内に点いた火を自力で消すことが出来ない。バージルがダンテの
意識が飛ぶまで貫いてやらねば、どうすることも出来ないのである。
今回はよほど鬱憤を溜め込んでいただけに、後から来る反動はいつも以上に激しいだろうと
バージルは予想している。だからこそ、大物をダンテにあてがったのだ。
性格が悪い、とダンテはバージルをして言う。だから何だとバージルは思う。バージルが“こう”
なったのは、九割方ダンテが原因なのだ。その自覚が、ダンテには全くないだけのことで
ある。
また、ダンテの笑い声が聞こえた。やけに時間が掛かっているが、てこずっているというよりも、
遊んでいるからに違いない。愉しみを一瞬で終わらせてしまうのは勿体ないとでも思っているの
だろう。バージルに言わせれば、無駄な遊びである。
バージルが周囲の悪魔どもを屠るのに費やしたのは、ほんの五分強。それでもゆっくりしていた
つもりだ。一方ダンテは、バージル以上の時間をかけて遊びに耽っていた。十分を過ぎて遊んで
いるようなら、バージルが横槍を入れてやるつもりをしていたのだが、そうはならず。
満足げに大剣を背中に納めて口笛など吹いているダンテに、バージルは黙って背を向けた。
帰るぞ、などとわざわざ声は掛けない。いつものことで、ダンテも黙ってバージルの後を追って
来るのだが、今日は違っていた。
「なぁ、バージルぅ」
甘えを含んだ声だ。バージルが足を止めると、ダンテは前に回り込んでバージルの顔を覗き込む。
碧い双眸は滲んだようにきらきらと輝いており、バージルを呆れさせた。
「我慢も出来んのか?」
家までは彼らの足で約二十分といったところだ。しかしダンテの表情を見るに、バージルを
誘っているとしか思えない。屋外で行為に及ぶなど言語道断、と以前声高に叫んだのはダンテで
あるというのに、だ。
ダンテがちょっと頬を赤くした。
「何勘違いしてんだよっ」
「そんな顔をしておいて、違うとでも?」
自分がどんな表情をしているか判っていないらしく、ダンテはぺたりと頬を撫でる。
「違ぇよ……俺はただ、さ……」
「ただ、何だ」
「……キス、してほしいだけだし」
拗ねたように唇を尖らせたダンテに、バージルはくすりと笑った。
「誘っていることに違いはあるまい」
「っ、違う!」
「だが、して欲しいのだろう?」
指の背で頬をなぞってやれば、ダンテは過敏にびくりとする。狩りの熱が燻っている現状では、
少しの接触ですら感じてしまうのに違いない。バージルは笑みを浮かべ、猫にするように喉を
撫ぜてやった。
「ぁ……ん……」
「良い声だな。誘っているようにしか聞こえぬぞ?」
目許を赤く染めて、ダンテがバージルを睨めつける。気丈な視線だが、悔しそうに唇を噛むさまは
いっそ可愛らしいものだ。
「馬鹿バージルっ……」
罵り、ダンテは珍しく自分から唇を合わせて来た。触れるだけで離れようとするダンテの後頭部を
鷲掴みにして、角度を変えて深く口付ける。舌を差し込めば、ダンテの舌がおずおずとバージルの
それを迎えた。遠慮なく搦め取り、吸ってやるとダンテがぞくぞくと背中を震わせるのが
判る。
「んっ……ふ、ぁ……」
漏れる吐息の甘いこと、バージルは内心で肩を竦める。まったく、これのどこが誘っていないと
いうのか。
少し、思い知らせてやったほうがダンテの為というものだろう。
バージルはダンテからすれば物騒なことを考えながら、まずはダンテの口腔を味わうことに
集中した。もう乾いているが、ダンテの血を拭ってやるのはそれからだ。
「はぁ……、ふ……ぅん……っ」
甘さを増すばかりの吐息に煽られて、口付けはさらに深く濃いものへと変わっていく。
(お前の責任だ)
下肢に集まっていく熱を自覚しながら内心で笑い、ダンテの舌を甘噛みした。途端にびくっと
跳ねる躰を、愛しく思わぬわけもなく。その反面、悪魔によって高められた躰をすり寄せて来る
弟の淫らさが、ひどく疎ましくもあり。
バージルは外は嫌だと喚くダンテの腕を縛り、組み伏せて――――月明りに照らされた路地で、
弟を犯した。
後から恨みごとをぶつけて来るだろうが、気にする必要もないことだ。今、自分のしたいことを
する。ダンテがいつもやっていることを、たまには真似てみるのも悪くはないだろう。
バージルはダンテの肉を貫きながら、ダンテの言うたちの悪い顔をして、笑った。
急いで書いたので短いです。
とりとめもないし…反省点満載…