甘棘アマイトゲ











ちく、と。何か鋭く細いものが指先に刺さる。痛みは一瞬。だからすぐに忘れてしまう。
指に刺さった棘は、たとえ痛みがなくなろうと、抜けたわけではないというのに。







奇妙な感覚だった。まだ夢に片足を突っ込んでいるような、得体の知れぬ浮遊感が足許にある ことを、バージルは奇妙と感じずにはおれなかった。

夢。口の中で呟いた言葉は、バージルの舌に何か甘いものを残して溶ける。驚いてもう一度呟いて みたが、言葉はもはやバージルに何の甘みももたらしてはくれなかった。
バージルはため息を吐き、腕の中のほっそりとしたものを抱え直した。それはバージルと正しく 血を分けた双子の弟だ。ほとんど差を見つけられない程体躯の似た彼を、あたかも大人のように 抱き締めているバージルである。それ程、弟はバージルにとって幼かった。

小さな吐息を漏らし、ダンテがバージルの腕の中で身動ぎした。きっちりと自身を抱き締めている バージルの腕を嫌がったのでは、断じてない。寝返りをうつのと似たものだと、バージルは思った。 ダンテが自分を拒むことは、絶対にない。そう、バージルは確信出来る。
ダンテの世界はバージルのみで閉じられた。その経緯には不快極まりない事象があったものの、 結論から言えばバージルはこの現状に満足している。もう少しばかりこの弟とは別な弟と遊んでいて も良かったが――――考えて、バージルは口端に笑みを浮かべた。もはやあの夢は見ることはない だろう。それがほんの少しだけ、惜しい。
バージルは眠るダンテの首筋に唇を押し付け、この弟もまた、自分を不快にさせる夢は二度と 見ないだろうことを確信していた。







別れは告げず、しかし再び出合うことはない。














「バージル」

小さな声にバージルは顔を上げた。目覚ましにコーヒーを作り、牛乳でも混ぜようかと冷蔵庫を 開けたところだった。いかにも寝起きという感のある、くしゃくしゃの頭をしたダンテがキッチンの 入り口に立っていた。所在無げに、しかし空色の瞳はきっとバージルを見据えている。
バージルはどうしたとも訊かず、冷蔵庫の扉を閉めた。無視されたと受け取ったのか、ダンテが 僅かに息を飲んだのが判ったが、弁解はしない。バージルはまだ、ダンテを赦す気には なれなかった。

「バージル、」

もう一度、ダンテが呼ばわった。それしか言葉を知らないわけでもなかろうに。

バージルは牛乳を少しだけカップに注ぎ、スプーンで掻き混ぜた。焦茶と白とが混じる。人も こんなふうに混じることが出来ぬものだろうかと、ふと思う。

バージル。息だけで(声にならなかったらしい)、ダンテがバージルを呼ばわった。まるで 懇願するような響きに、バージルは耳の奥に痺れのようなものが広がるのを感じた。どんな顔を して立ち尽くしているのか。バージルは辛抱出来なくなって、視線を上げダンテを見やった。 そして、内心で微笑する。
今、ダンテの頭にはバージルのことしかないに違いない。今にも泣き出しそうな潤んだ瞳が、 何かを堪えるように噛み締められた唇が、バージルに得も言われぬ充足を抱かせる。

「何か用か」

あえて冷たい声音でバージルは問うた。びくっとダンテの顔と言わず全身が強張るのが見て 取れる。そのさまに嗜虐心が揺さぶられるのを感じながら、バージルはカップを手にダンテの そばへ近付いた。予想に違わず、ダンテが緊張するのが手に取るように判った。

「あ、あのね、その……」

口をもごもごさせるダンテに、バージルは冷ややかな視線を呉れた。

「なんだ」

バージルが苛立ちをあらわにしてやれば、ダンテはまたびくりとして、大きな瞳に涙を滲ませる。 しかし泣き出しはしないダンテの目には、バージルが見たことのない強い意志が宿っていた。
ふっくらとした紅い唇から紡がれたのは、思いの外にしっかりとした声音だった。

「ぼくを捨てないで」

お願い。懇願するダンテを、バージルはじっと凝視した。溜め込んでいたものを総て吐き出す かのように、ダンテは言葉を紡ぐ。

「ぼくをひとりにしないで。ぼく、何でもするから。バージルが怒ってるなら、ぼく、あやまる から。だから」

捨てないで。服の裾を遠慮がちに掴んで来る手を、バージルは振り払わなかった。湧き上がる ような歓喜をいかに抑えたものか、そちらに苦心せねばならなかった。
バージルの内心に気付かぬダンテは、必死になってバージルに縋ってくる。

「ぼくのこと嫌いにならないで、お兄ちゃん……っ」

きゅっとバージルの服を掴む手に力がこもり、ダンテが背伸びをするようにバージルに顔を 近付けた。

「……、……」

唇と唇が触れる。本当に触れるだけの口付けだが、ダンテにすればこれが精一杯であることは 間違ない。白い膚を真っ赤に染め、目を強く瞑って唇を合わせてくるダンテはひどく健気で 愛らしい。

随分、可愛いことをしてくれる。

バージルはダンテには判らぬ程度に笑みをはいた。
触れ合わせただけで唇が離れる。ダンテの潤んだ瞳が飴玉のように見えて、バージルはほとんど 無意識にダンテの眼球を舌で舐めていた。

「っ……バージル?」

何をするのかと、困惑して当然だ。バージルは紅いままのダンテの頬を、するりと撫でてそこにも 舌を這わせた。

「んっ……、」

甘えたような声が良いと思う。夢の中で聞いたものとは比べ物にならぬ程、幼い声音。しかし バージルは、自分が聞きたかった声はこれだったのだと、ある種の驚きを覚えていた。

「来い」

ダンテの腕を引き、バージルはキッチンを出た。引かれるままのダンテを連れ、真っ直ぐに 子ども部屋へと向かう。ただ黙々と自分について来る弟の息遣いが、バージルの耳を心地好く 撫ぜた。

部屋にダンテを放り込むと、バージルは持ったままだったカップを机に置き、ダンテにベッドに 座るよう促した。ダンテは疑問も持たずバージルの言うなりになっている。何でもする。その言葉が ダンテ自身を呪縛のように戒めているのかもしれない。
バージルもベッドに腰を下ろし、じっとこちらを見つめるダンテの前髪をかき上げ、つるりとした 額に口付けた。ちゅっと小さな音をわざとさせて、額からこめかみへ、瞼、鼻の頭、頬へいくつも 口付けを施していく。唇だけは避けて。

「ん……んぅ……」

どこか陶然とし、うっとりと頬を紅潮させるダンテの、甘えた吐息がバージルの耳を愉しませる。 ダンテは無意識にバージルの胸許に縋りついている。その手が小さく震えているのが、バージルを 更に愉しませた。

「バージル……」

ダンテの声に応じるように、バージルはダンテをゆったりとシーツに押し倒した。夢の中では 年嵩の“弟”を気儘に苛め抜いたバージルと、今いかにも優しくダンテを組み敷くバージルとは まるで別人のようであった。
何をされるのか、おそらく肝心のところで理解していないダンテの、ぽやんとしたあどけない 表情。衝動(慾)に従うなら、酷くしてやりたい。泣いて許しを乞うさまはどんなにかバージルを 昂ぶらせるだろう。見てみたい。全くの好奇心――――夢の中でも、似た衝動がバージルを 動かしていた。
が、バージルはダンテをそのようには扱わなかった。好奇心による衝動をあらわにするのは、 今でなくとも良い。むしろ今この段階では、殊更優しくしてやるべきだと思った。

簡単な刷り込みだ。

バージルはダンテの服をゆっくりと剥ぎ取り、空気にさらされた箇所から順に唇で触れた。 もちろん、手も使って。口付け、触れた場所が紅く色付いていくのを、バージルは純粋に愉しいと 思った。膚を軽く吸ってやると、ダンテが鼻に掛かった吐息を漏らすのも、愉しい。

「んっ……ぅん、ふ……バージル……」

もっと。ねだる声音は幼いなりにもひどく甘い。バージルは恐る恐る伸ばされた手を取ってやり、 掌に口付けた。指の股に舌を差し込み、舐ってやるとダンテがくすぐったそうに躰をよじる。

「ぁっ、バージル、ぅ、あ、……ッ」

びくっとダンテの躰が強張った。バージルがダンテの下衣を剥ぎ、幼茎を掌に包み込んだのだ。 ここに触れるのは今が初めてではない。しかしダンテの反応はあまりに初々しくて、バージルは 微笑した。

「ひ、ぁんっ、バ……ジル……」

何度か扱いてやれば、ダンテは堪らなくなったように腰を揺らめかせる。陰茎への刺激だけでは 足りないとばかりのさまに、バージルはその歳にはおよそ不相応の酷薄な笑みを浮かべた。

「まだ、出ないか?」

張り詰めたダンテの幼茎を、試すようにバージルは弄った。以前こうしたときには、ダンテは まだ精通しておらず、空の射精でひどく痛そうにしていた。さて、今はどうだろうか。思案したのは 束の間だけだった。
ダンテの震える茎は先端から紛れもない先走りを滲ませている。バージルは微笑んだ。
くちくちと先走りを撫でつけるように先端を擦ってやれば、ダンテは堪らずに短い嬌声を あげた。

「ひゃんっ――――!」

ごく少量の白濁がバージルの手を汚した。肩で息をするダンテを見下ろしながら、ダンテの 吐き出したものを舐めた。ほのかに苦いが、バージルは眉を顰めることもしない。ダンテが瞑って いた目を開け、ぼんやりとこちらを見上げて来るのへ、バージルは濡れた手をかざして見せた。

「何か判るか?」

ダンテは首を傾げ、あ、と何をか閃くものがあったらしく、声を上げた。

「あのにがいの……?」

以前、互いのものをすり合わせて自慰の延長のような睦み合いをしたとき、バージルだけが 射精した。ダンテはバージルの吐き出したものに興味を示していたから、それで覚えていたの だろう。

「あぁ。これはおまえが出したものだ」

「ぼく?」

そうだ、と息だけで答え、バージルは手に残ったものをダンテの頬にすり付けた。紅潮した頬に ねとりとした白濁。あどけない容貌とあいまって、ひどく淫靡だ。
ダンテの薄い胸が忙しなく上下しているのを満足げに見下ろし、バージルはダンテの脚をひょいと 持ち上げ、膝を曲げさせた。不安げな声がバージルの名を呼んだ。

「バージル?」

バージルが笑みを返してやれば、ダンテはいくらか安堵したらしい。何をされるのかも判って いないだろうに、つられて笑みを浮かべるダンテを、バージルは心底可愛いと思う。

「もっと気持ち良くしてやる」

言って、バージルはダンテのきゅっと締まった秘蕾に指をあてた。ひゃっとダンテが文字通り 飛び上がった。

「なっ、なにするのっ?」

バージルはダンテのベッドをずり上がろうとする足首を掴み、引きずり寄せた。

「何でもするんじゃなかったのか?」

「そ……だけど、でも、」

言い募ろうとするダンテの頬を、バージルはぱしりと打った。

「黙れ。これはおまえが持ち出した交換条件だ。そうだな?」

ダンテの双眸が揺れる。バージルの口にしたことは事実なのだから、ダンテに否定出来るわけは ない。そう、これは交換条件なのだ。ダンテは捨てられたくない一心で、バージルに自身の総てを 差し出した。バージルはダンテの願いを飲んだ。つまりダンテはその瞬間から、バージルに 支配されることになる。それが条件なのだから、バージルは別段、おかしなことはしていない。 ただ、ダンテが知らぬ行為に及ぼうとしているだけのことだ。
バージルが手をどけても、ダンテは喚くことも逃げようともしなかった。

「それで良い」

バージルはごく当然のように頷き、再びダンテの後孔に手を伸ばした。先刻、一度触れたことも あり身構えているのか、そこは必要以上にぴったりと閉じている。が、息に合わせてひくひくと 僅かに震えていることを、バージルは見逃さなかった。

「ゆっくり息をしろ」

ダンテは素直に頷き、はふ、と息を吐いた。襞が緩んだ瞬間、バージルは人差し指をダンテの 中に押し込んだ。

「いっ……! た、い……ッ」

切れてはいない筈だが、やはり初めてはこんなものか。バージルは冷静に判断し、襞が指に 慣れるまでダンテの前を弄って待つことにした。ダンテの気も紛れるだろうと思ったのだが、 果たしてその通りになった。

「くぅ、んっ……」

犬が甘えるような声を漏らし、気持ちが好いのだろう陶酔した表情を浮かべるダンテは、 バージルの指の存在を束の間忘れているようだった。バージルはゆるりとダンテの粘膜(思った 以上に指に馴染む)を掻く動作を開始した。
初めこそ、ぎくっとして顔を強張らせたダンテだったが、すぐにバージルの指に慣れていった。 もっともそれは躰の話である。ダンテ自身は勝手に慣れていく躰に戸惑いを隠せぬ様子だ。

「ん……んんっ……ぁ……ル……っ」

漏れる声の甘さ――――倒錯的な色気に、バージルは半ば酔いそうになる。ダンテのそこから、 バージルは唐突に指を引き抜いた。それに対してすら困惑するダンテが、バージルには続きを 求めているように見えて、にっこり笑った。

「すぐに佳くしてやる」

バージルはダンテの細い大腿をぐいと持ち上げ、腹につくかという程に脚を折り曲げさせた。 あらわになった蕾は不安げに蠕動し、幼茎は怯えたように震えている。ひどく淫らな光景だ。
バージルは少しの間ダンテの下肢を舐めるように眺めてから、ひくつくそこへ自身をあてがった。 何をされるのか、いまだ判らずにいるダンテの双眸に自分を映し込みながら、バージルはダンテの 中に押し入った。

「ひっ……!」

未知のものに蹂躙されるダンテの引きつった悲鳴と表情は、バージルをいっそう昂らせた。 指でおざなりに慣らしただけなのだ、痛みがあるのは当然と言える。しかしバージルはダンテから 退くことは微塵も考えなかった。痛みに苦しむなら、今下手に宥めるのではなく、後から思い切り 甘やかしてやれば良い。夢の中で、バージルはその使い分けの意義を学んでいた。このダンテも、 あれと同じに違いない。違うと言えば、そう――――

(顔を合わせて犯すのも、良いものだ)

夢ではいつも、“弟”に獣の姿勢を取らせて後ろから揺さぶっていた。体格の差が一番の理由 だったが、うなじから尻にかけてのしなやかな躰の線が気に入っていたからでもあった。が、 今ダンテを正面から蹂躙してみれば、また違った趣があるのだと、バージルは真新しい発見をした 思いだった。
痛みに堪えるダンテの表情はなかなかのもので、バージルは知らず笑みを浮かべていた。

「痛いか?」

白々しく問えば、ダンテはがくがくと首を縦にする。必死なさまがまたバージルの熱を高めるの だと、ダンテが知る筈もない。ずっ、と奥に押し入れば、ダンテは躰を震わせてバージルに しがみついて来た。

「あっ……こわ、い、よ……ば……じる……ッ」

バージルはダンテを抱き返してやりながら、しかし律動を止めることはしない。

「何も考えるな。おれに集中していろ」

素直で疑うことを知らぬダンテは、かたかたと震えながら頷いた。健気なことだ。バージルには 到底真似出来ない――――彼ら双子はそのように出来ているとバージルは思っているが。
ほとんど暴力に近い、荒っぽい律動を繰り返すたび、ダンテの喉を悲鳴じみた声がつく。

「あっ、あぅっ、くぅんっ」

まだ痛みはやまぬのだろう。しかしダンテの声音には確かに甘いものが含まれている。 順応率(とでも言うべきかどうか)の高さに、バージルは純粋に感心した。それと同時に、 危うさも感じ取らずにはおれなかった。

「あっ……はぁ、……じる……」

とある危惧を、バージルは一時忘れることにした。今はダンテを我がものにすることに集中する べきだ。
バージルはしがみついて離れないダンテの腰を抱え直し、深く肉を犯した。

「ひぁあ……ッ!」

感きわまった悲鳴を上げたダンテの中に、バージルは精を放った。が、ダンテの幼茎は震える ばかりで何を吐き出すこともなかった。先刻出したもので総てだったのだろう。精通して間も ないのだから、仕様のないことかもしれない。

「まだ怖いか?」

問うたバージルに、ダンテは首を左右にした。きゅっとバージルの首に回した腕に力をこめ、 ダンテが小さな小さな声で囁いた。

「……約束だから、ね?」

バージルは一瞬表情を消し、しかしすぐに笑みを湛えた。

「おまえも、どこへも行くな。ダンテ」

繋がりを解かぬまま、バージルはダンテの白いうなじを吸った。しっとりと汗の滲んだ膚に 朱の花びらが散る。

「ここにいる。バージルと一緒にいる」

今まで堪えていた涙が堰を切って溢れ出したらしく、ダンテはバージルの肩に顔を押し付けて 泣き出した。どこにも行かないで。しゃくり上げながら繰り返される言葉を、バージルは頷くことも なくただ受け止め、ダンテの髪を手櫛で梳いた。













ちくり。棘は時折、思い出したように痛みをもたらす。それが示す意味を、彼は漠然と知って いながら無視をする。
いつか、棘は心臓に達するのだろう。しかし彼は恐れることはしない。

この鋭くも甘い棘が、自分を殺すようなことには絶対にならないのだと、確信しているから。



















戻。


仔双子、初。うちの兄は子どもでもこんな、ね…

[07/11/9]