従彩
お前は俺のものだ。
仕事が長引いてしまい、バージルは翌日の昼ごろになってようやく帰路に就くことが出来た。
依頼主(女だ)が、バージルを気に入り離そうとしなかったのだ。見目の良さは自覚して
おり――――父も母も見目は並以上だったのだから当然だ――――、同じ顔をしている
双子の弟よりも女うけが良いことも知っている。が、バージルは女に対して興味の欠片も持っては
おらず、うけが良いというのは逆に迷惑なことなのだ。
仕事が終わればすぐに引き払うつもりでいたバージルを、依頼主は報酬の支払いを先延ばしに
することで引き止めた。そんなに急ぐことないでしょう、と婀娜っぽく腕に絡み付いてくる女を、
バージルは煩わしいとしか思わなかった。女が性的な意味合いでバージルを誘っていることは
明らかで、それがいっそう、バージルには不快だった。
女を抱かないわけではない。男である限り性欲の捌け口はどうしても必要になる。その、道具と
してしか、バージルは女を抱いたことはない。バージルは、どんな種類であれ情と名のつくものは
総てただ一人に注いでいる。それはバージルにとって当たり前のことで、女の入る余地はどこにも
なかった。
バージル、と女の紅い唇が名を紡ぐ。不快極まりない。バージルの我慢は、そう長く
続かなかった。
金は灰にして構わぬと、女の躰を押し退けて部屋を出た。待ってという甲高い声を無視して、
バージルは玄関は使わず窓から身を投じた。
妥協で請けた仕事だった。その結果がこれだ。二度とあの女の依頼は受けるまい。苛々と自宅兼
事務所へ帰り着いたバージルを待っていたのは、更なる不快だった。
痛い、とダンテが喚く。バージルはそれがどうしたとばかりに淡々と、ダンテの手首を一纏めに
縛り、引き倒してベッドの脚にくくり付けた。
「バージルっ、嫌だ、やめろッ!」
ダンテの下衣を脱がせ脚を折り曲げ、伸ばせぬように半ばを縛っていたバージルは、視線を
呉れてやることもしなかった。
「やめるのはお前のほうだ」
まだ兆しもないダンテの中心を無遠慮に掴む。ひくりと息を飲んだダンテの、喉笛を噛み千切って
やりたい衝動に駆られる。
「なにを、」
やめるのかと。ぬけぬけと宣うダンテに、バージルは覆いかぶさってその首に噛み付いた。
「っう……!」
突き出した喉仏に舌を這わせば、ダンテの躰がびくりと震える。バージルはダンテの、耳の下
辺りにもう一つ噛み付いた。
「ぁ……っ、」
小さな吐息が漏れる。バージルは口端を上げ、ダンテの前髪を掴んで顔を持ち上げさせた。白い
うなじに、紅く腫れた痕が一つ。バージルは笑みを消した。ダンテの頭から手を離し、縛り付けた
格好のまま、ダンテの躰を俯せにひっくり返した。
「ぅあっ?」
困惑の色濃い声が上がるが、無視だ。あらわになったうなじの、忌まわしい赤にバージルは歯を
あてた。ぶつりと尖った歯で皮膚を破れば、びくっとダンテの肩が跳ねる。
滲む血を吸い、舐め取り、しかし満足がいかずもう一つ歯を立てた。ダンテの赤は甘い。これを
自分以外のものが味わったのだ、許せるわけがない。
「バージルっ……やめ、……っぁ……」
拒むことはダンテには許されない。バージルはダンテの前に手を潜らせ、性器を握りこんだ。
ろくに愛撫もしていないというのに、僅かに反応を見せるそれにバージルは眉を顰める。
「奴のときも、勃たせていたのか」
ダンテが首を左右に何度も振る。バージルはダンテの性器を荒っぽく扱いた。
多少乱暴なくらいが、ダンテには丁度良いのだとバージルは知っている。痛みを与えるくらいが、
良い。ダンテの躰は痛みを快楽に変えることを知っている。
「っあ……ん、あぁ……!」
「こんな程度で濡らすとは、大した躰だ」
冷ややかな揶揄に、ダンテが頬を赤くする。
「あ……アンタが、っ……するから……」
「ふん、責任転嫁とは、良い度胸だな?」
透明な先走りを滲ませる先端を爪で掻くと、ダンテはびくっと背をしならせる。
「あっ! ッ……はぁ、ん……っ」
弓なりになった背に、バージルは顔を埋めて舌を沿わせた。じわりと滲んだ汗が舌に辛い。
うなじから少し下がった辺り、浮き出た背骨に歯を立てる。
「いっ……ん……!」
ぞくりと粟立つダンテの膚。感じているのだと、表情を見なくともありありと判る。
「好き者が」
己を凌辱したものですら受け入れるとは、何という淫乱だろう。ダンテには、犯してくれるなら
相手は誰であっても同じ――――ならば、自分はどうなのだろうか。ダンテにとっては、
バージルもまた他の男と同列なのか。ただ一番己の求める快楽を知っているからというだけで、
本当は自分でなくとも良いのだろうか。
(そう、なのかもしれぬ)
バージルは目を細め、ダンテの陰茎から手を外して尻の奥――――窄まった蕾を指先で
なぞった。
「ひっ……バ、ぁ、ジルっ……」
ぎしりとベッドの脚が軋んだ。縛った腕に力が入っているらしい。手首に痣が残るだろうが、
バージルの知ったことではない。
ダンテの先走りに濡れた指を一本、襞を割って内部に押し込む。ぎくんと跳ねたダンテの肩を、
バージルは反対の手で上から押さえ付けた。
「あっ! ぁ、あ……」
初めは指の一本ですらつらいのか、ダンテは喉を引きつらせる。バージルはダンテの弱い
箇所だけを避け、粘膜を掻いた。ダンテの内はバージルの指に絡み付き、締め付ける。バージルが
指を抜き差しすれば、逃がさぬとばかりに熱い粘膜がきつく絡み付く。淫らな蠕動を繰り返す
そこを、バージルはしかし指を増やすでもなく中指だけでまさぐった。
「んんっ……んぁ、あ、くぅん……ッ」
艶めいた喘ぎを漏らすダンテの、腰が無意識にだろうがふらふらと揺れる。もっと、と言葉には
せずねだるような動きに、バージルは目を細めた。
「……足りぬなら、言葉で言え」
びく、とダンテが躰を強張らせる。
「だ、誰がっ……」
躰を捻ってこちらを振り仰ぎ、睨み付けてくるダンテの目はしっとりと潤んでいる。首筋まで
赤く染めたさまはいかにも淫らがましい。
「違う、とでも?」
「っ……たり前だろ!」
吠えるように言ったところで迫力の欠片もない。バージルはダンテの朱に染まった耳朶を軽く
食んだ。
「そうか。ならばこのままで問題ないな」
言い放った言葉にダンテが絶句する。先刻から、バージルはダンテが達する程の刺激は与えて
いない。しかし快楽はゆるゆると与え続けており、これがひたすら続くとなれば、ダンテにすれば
責め苦に違いないだろう。
「あ、悪趣味だぞ……!」
「それがどうした。これで満足だと言ったのは、お前だ」
またしてもダンテが絶句する。赤かった顔は今やすっかり青くなってしまっている。
「足りぬと、言え。どうして欲しいのか言えば、その通りにしてやる」
ダンテの唇が言葉をなくしたようにぱくぱくとする。言え、ともう一度囁いてやれば、ダンテは
ばっと顔を背けた。
「そんなことをしても、逃げたことにはならんぞ、ダンテ?」
耳の後ろに口付け、粘膜をゆるりと掻いてやる。
「あっ……バージル……!」
「どこまで堪えられるか、試してみるのも一興……」
ぎくりとダンテの背中が強張る。嫌だ、と搾り出したようなダンテの声は震えていた。
「嫌なら、――――どうすべきか、判るな?」
残酷なのだろう、自分の言葉。しかしバージルはどこまでもダンテを貶め、苛んでやらねば気が
済まない。ダンテが細く何ごとか呟いた。
「……、……て……」
「聞こえん」
くち、とわざと音を立てて内壁を引っ掻けば、ダンテはぞくぞくと躰を震わせる。
「あぁっ! ……ば、じ……して……くれよ……っ」
バージルはダンテの顎を捉え、無理矢理こちらを向かせた。
「それだけでは判らぬな」
底意地の悪い、とはバージルは自覚していない。ダンテを相手にしていると、こうするのが
当たり前になるのだ。
ダンテはぐっと唇を噛んだ。恥ずかしいのだろう。しかしこのまま責め苦が続けられることには
耐えられない――――良い顔だ、とバージルは思う。
「……っ、い、れて……早く……!」
「まだ不充分だが、まぁ、良い」
指を引き抜き、自身を取り出す。期待にひくつくダンテの後孔を、バージルはひと息で貫いた。
「あぁあっ――――!」
びくん、とダンテの背がしなる。バージルは挿入した格好のまま、ダンテの前へ手を伸ばした。
全く萎えているわけでもないが、少し固いそれは先走りではないもので濡れそぼっている。
「入れただけで出したのか」
くつりと笑うバージルに、ダンテは「違う」などと喚いて顔を真っ赤にしている。何が違うという
のか、白濁した水溜りが何よりの証拠ではないか。
羞恥にか、触れていなければ判らぬ程小さく震えているダンテの躰を、バージルは軽く前後に
揺さぶった。
「あっ! あ、あぁっ……」
「何も考えるな。ただ啼いていろ」
徐々に突き上げを強くしながら、囁く。揺さぶられるに任せるしかないダンテは、がくがくと躰を
震わせる。
「あぁっ、あっ……はぁ、ん……!」
バージルはダンテの腰を抱え込むようにして、ダンテの躰を起こさせた。ベッドの脚に両手首を
縛り付けている為、自分も多少動かなくてはならない。自重により深くバージルを咥え込むことに
なったダンテは、短い悲鳴を上げた。
「ひッ……ぐ……!」
途端、きつくなった締め付けに、バージルは眉根を寄せた。
「締めるのは良いが、もう少し緩めろ」
動けぬ、とダンテの脚の付け根を叩いてやる。ダンテは切羽詰まったふうに首を振った。
「む、り……ぃ……」
「ならばこのままだが、良いのか?」
良いわけがない。ダンテは口汚なくバージルを罵り、観念したかのようにはぁと息を吐いた。
バージルは必死に深呼吸をしようとするダンテの、うなじをちょっと甘噛みした。
「っん……」
「また、力が入ったな」
くつくつと笑えば、ダンテは唯一自由になる脚でバージルの膝を蹴る。
「うるせぇっ」
行儀の悪い脚をひょいと掴み、大きく割り広げる。赤い耳朶を食み、ダンテの腰をぐっと突き
上げた。
「ひぅっ! や、め……!」
「躾けだ、ダンテ。お前はまだまだ何も判っていないようだからな」
まだきつい締め付けの中、バージルはダンテの最奥を突く。抜き差しするまでにはさすがに
いかないけれども、今のダンテにはこれだけでも充分すぎるくらいだろう。
「や、あっ……さ、いあ、く……っ……!」
「ふん? まだ舌が回るとは……躾ける甲斐がありそうだな」
バージルはダンテの、腹につく程に反り返った陰茎の根元を握った。ダンテが困惑したように
肩を跳ねさせる。
「バージルっ……」
「躾けだと言っただろう。俺が許すまで、我慢していろ」
耳の後ろを舐め、ダンテが言葉を紡ぐよりも早く律動を再開する。
「ひ……っ! やめ、ぁ、あ!」
精を吐き出したくても出せずに身悶えるダンテを、バージルはただひたすらに揺さぶった。
自身をより深く刻み込むように。
――――他の何をも考えられぬように。
その目に何ものも映さぬように。
その口に誰の名も唱えぬように。
その耳に誰の声も聞かぬように。
お前の総ては、ただ俺の為だけに在るのだから。
ダンテにとある一言を言わせたいがためにずるずると…
でも最後まで書く気力はありませんでした…無念。
しかしよく喋るな、兄。
[07/10/5]