早朝
あまり目にすることのない朝日を、早朝に見る気分というのはどんなものなのだろう。
バージルは傍らで寄り添って眠るダンテの、白に近い銀髪をひと房すくい、指に巻き付けた。
長くない髪は、何周もさせぬうちにするりと指先から逃げていく。今でこそバージルが手入れを
してやっている髪は、元が良いこともあって女の髪よりもさらさらだ。
ダンテの髪は昔からバージルの気に入りで、それは今でも変わっていない。だからこの髪を
念入りに手入れすることは、バージルにとって何ら苦にはならないのだ。
バージルとダンテは双子の兄弟だが、バージルは自分の髪をこれ程大事にはしていない。洗い
晒しの、蒼褪めたような銀髪に指を差し込んでみるが、やはり興は乗らない。総てを等しく分かち
合った双子であるが故か、自分とダンテは似ても似つかないとバージルは思っている。確かに
顔立ちこそ、髪型を揃えてしまえば見分けがつかないらしいが、バージルにすればそれすら疑問の
残るところだ。
ダンテの髪を、バージルは半ば無意識に指に巻き付けては解いている。気に入りの髪をこうして
いるとき、自分は笑みを浮かべているのだろう、とバージルは思う。ささやかな楽しみだ。そう
思えることがこの世にいくつあるのか――――バージルは内心で自嘲した。
楽しみは多くは要らない。たとえ小さなことであろうと、手の届くところにあれば充分だ。
バージルの楽しみは、総てダンテに起因する。それは当然だと、バージルはごく自然に思って
いる。
無意識にダンテの髪を強く引っ張ってしまったらしく、ダンテが眉を寄せてぐずるように
唸った。
「ん……んん……」
不機嫌な猫のように顔をしかめ、しかしまだ起きるつもりはないようで、バージルの胸板に額を
擦りつけてまた動かなくなった。落ち着く場所を見つけた、とばかりに途端安らかになるダンテの
表情に、バージルは内心で肩を竦める。やはり、猫だ。
勝手気儘。懐いたかと思えばひらりと腕から逃げてしまう、自由な猫。捕まえているつもりでも、
明日には逃げられているのかもしれない。明日の朝には、いなくなっているのかもしれない。
可愛い猫は、気紛れだからこそ可愛いのだろう。
バージルはダンテの白い頬を人差し指の背でなぞり、ゆるくつねった。子どもの頃のような
柔らかさこそないが、それでも柔らかいとバージルは思う。女の柔らかさとは根本的に違うけれど
も、バージルは女よりもダンテを選ぶ。それもバージルにすれば当然のことだ。
額を擦りつけ、シャツを握って離れないダンテの髪に、バージルは口付けた。時刻はまだ、七時に
もならない。早くても昼前にならねば目覚めないダンテにとって、バージルの起床時間は早すぎる
のだそうだ。お前が遅すぎるのだと、何度言ったことか。
とことん噛み合わないのはいつものこと。それはもう諦めた。似ても似つかなぬ自分たちは、
世界の終わりまでこうしてすれ違いながらここに在るのだろう。――――ともに、というのは無理な
話だとしても。
「……んー……」
ダンテがもぞりとバージルの腕の中で身動いだ。長い睫毛がぴくりと震え、しかし碧い双眸は瞼に
隠されたまま。やはり、目覚めない。
長い睡眠時間を必要としないバージルは、朝方に眠りに就いたとしてもダンテのように昼まで
寝こけるなどということは絶対にない。ダンテは逆に、何時に就寝しようが昼まで寝るということに
変わりはない。よくそんなに眠れるものだと、呆れを通り越して感心してしまう。
(よく眠る……)
思えば子どもの頃から、ダンテはこうだった。よく寝過ごし、遅刻をしそうになるたびに、
どうして起こしてくれなかったのかとバージルに噛み付いて来たものだ。思い出して、バージルは
低く笑った。
あの頃も、今も、ダンテは変わらず可愛いままだ。当然、これからも。
ダンテの後頭部に手を差し込んで、髪の感触に浸りながら目を閉じた。たまには、ダンテの眠りに
誘われてやるのも悪くはない。
だから、明日は。
(たまにはお前も早起きしろ)
朝の陽射を浴びながら、さて、何をしようか。
引き込まれるように眠りに落ちながら、バージルはくすりと笑った。
こういうの好きだなぁ自分、としみじみ思いました。