彩水
キン、と静かに納刀する。慣れた音と重みだ。バージルは剣を左手に提げ、自ら作り出した静寂の
中央に立っている。
エンツォから引き受けた仕事は三つあり、これが最後になる。どれもダンテが気が乗らないと
言って断ったもので、バージルがため息一つで請けたものだ。それでも半分以上は断ってこれで
ある。
バージルはダンテのように仕事を選り好みしない性格だが、選ばざるを得なかったのはダンテの
為だ。本当ならば、ダンテ同様しばらく仕事は請けないでいたかった。しかし経済的なことを一切
考慮しないダンテを抱えて、バージルまでもが金を稼がずにいるわけにはいかなかったのだ。
ダンテは今、精神的に不安定な状態にある。バージルはそれを判っていて、気付かぬ素振りで
ダンテには接しているが、極力独りにならせないようにもしてあった。
ダンテが不安定になっている原因は明らかだ。先日の思いがけない不幸――――と言って
良いものかバージルには判らないが――――、あれ以外の理由は思い付かない。
以前殺した筈の悪魔に、ダンテは凌辱を受けた。両手を短刀で縫い止められ、全身を切り刻まれ、
犯されたダンテ。大きく狼狽することこそなかったが、自分の肩に顔を埋めて密やかに泣く
ダンテを、バージルはただ抱き締めることしか出来なかった。
屈辱だった。あれ程の力を持つものが潜んでいることに気付けなかったこともそうだが、その
悪魔にむざむざダンテを与えてしまったことが。ダンテも男だ。凌辱されたことは小さからず
屈辱であっただろうが、女と違い孕む危険はないし、一生の傷になることもない。しかしバージルは
自分を許すことが出来なかった。
あの後、ダンテの泣きやむのを待って、バージルはダンテを自分の外套に包むようにして自宅に
連れ帰った。自分と全く同じ体躯のダンテを横抱きにして、建物から建物へと飛び移るのは相当に
労力が要ったが、ダンテのことを思えばのろのろしてはいられなかった。
ダンテの下肢には悪魔の精がべったりとこびりつき、凌辱の痕跡をまざまざと残していた。
あの屋敷で始末をしてやっても良かったのだが、バージルはあえてそれをしなかった。
自宅に着くと、バージルはダンテを真っ直ぐ風呂場に連れ込んだ。移動の間にまた意識を失った
らしいダンテを床に下ろし、ずたずたにされた服を総て脱がせた。気に入りの外套は、ダンテは
嘆くだろうが捨てるよりない。脱がせたものをドアの外に放って、シャワーのコックを捻る。
ざぁっと水がダンテの足許に降り注ぐ。バージルは服が濡れるのも構わずダンテの足許に膝を
ついた。
無惨な傷はほぼ総て塞がって、みみず腫れのような筋が残っている程度だ。しかし消えるのは
傷だけのこと。乾いて皮膚に張り付いた白濁を、バージルは忌々しく睨んだ。何より、こんな有様の
ダンテに確かな慾を覚えている自身が忌々しい。
バージルはダンテの脚を折らせ、大きく割って股を無遠慮に撫で擦った。慾はあれど、まずは
ダンテの身を清めてやらねばならない。今すぐ犯すには、ひどく癪に障るものがあった。
透明な水に白濁が溶け、内股を伝っては尻へと流れていく。きわどい箇所も無表情に清めていく
バージルの目に、ふと、ダンテの中心が硬度を持ち始めているのが映る。バージルが腿や付け根を
撫で回すものだから、無意識に反応を示してしまっているらしい。
まだ花芯には触れてもいないというのに。
バージルは不快もあらわに眉を寄せた。ダンテの躰の淫らさを、バージルはよく知っている。
ダンテに快楽を仕込んだのは他でもなくバージルで、しかしバージルはダンテの快楽に弱いところを
憎んですらいる。自分だけに脚を開くのならば、良い。しかしダンテは相手を選ばない。どんな
男でも快楽を与えてくれるものに尾を振り、啼く。それがバージルには忌まわしいことだった。
今更ダンテと関係を持ったものをどうこうする気はないけれど、こんな凌辱ですら、ダンテの
躰は悦んだのではないだろうか。それを考えると、殺してやりたい程にこの弟が憎くてならない。
ゆるく勃起したダンテの性器に、バージルはあえて触れず濡れそぼった後孔をまさぐった。悪魔の
ものを咥えこまされたそこは、バージルの指を二本、するりと受け入れてしまう。びく、とダンテの
躰が痙攣した。
「っあ……ん……」
意識のない中にも濡れた吐息をもらすダンテの、粘膜はあの悪魔の精に濡れている。指に纏わり
つく不快な感触。さっさと掻き出してしまおうと、突き入れた指でぐるりと内壁を掻いた。
「んっ……ふ、ぅん……」
掻くたびにぞろりと震えては甘い吐息がダンテからもれる。これでもまだ目覚めないのだから、
心身が疲労しきっていたことは間違いない。
バージルが指を抜き差しすると、精液がどろりと溢れて流れ出す。それを何度も繰り返している
と、不意にダンテがそれまでになくはっきりと身悶えた。
「あぁっ……!」
まだ中に残っていないかと、奥を掻いたのが原因であるとバージルははたと気付いた。あくまで
作業と割り切っていたバージルは、ダンテの喘ぎ声に自分の慾がまたぞろ顔をもたげたのを感じて
舌打ちした。自棄のように、ダンテの弱い箇所を突いてやる。
「っあ、あ、ぁう……ッ」
ダンテの性器は、後ろへの責めだけで腹につきそうな程反り返り、先端から水ではないとろりと
した先走りを滲ませている。ひくひくと引きつれたように痙攣する内股の、透けるような白い膚に
噛み付いてやりたい衝動に駆られる。バージルは衝動を抑えるようにダンテの首筋に唇を押し当て、
泣き所をもう何度か擦り上げてやると、ダンテはぶるりと震えて吐精した。
「ふ、ぁあんっ……!」
はぁ、と荒く吐き出す息は甘い。さすがに射精の衝撃で目が覚めたらしく、バージルの成すが
ままになっていた躰がぴくりと身動ぎした。
「ぅ……ふく……?」
バージルが顔を起こすと、ダンテの睫毛が震えて瞼が持ち上がるところだった。意識のはっきりと
しない碧眼が左右に揺らぎ、そうしてバージルを見つけて焦点が絞られる。
「……バージル……」
掠れた声はバージルの耳に快く響く。この声をあの悪魔も聞いたのかと思うと、また怒りが顔を
出す。しかし今この場では何を言っても仕様のないことだ。
ダンテはしばらくぼんやりとバージルを見つめていたが、やがて自分の状態を認識し始めた
らしい。はっとしたように下肢を見下ろし、唖然とした。
「な、な……っ?」
「放っておくわけには行かぬだろう」
しらっと言い、ダンテがまだ茫然としている間に指を引き抜いた。逃がすまいと無意識に指に
絡みついてくる粘膜の淫らさを、バージルはやはり憎まずにはおれない。
「ぁっ……」
指を抜かれた喪失感に、ダンテが小さく喘ぐ。物欲しそうにひくつく蕾を自覚しているのか、
ダンテの顔は赤い。
バージルは今し方ダンテが放った白濁を洗い流してやってから、ダンテの腕を掴んで無理にも
立ち上がらせた。水を湯に切替え、頭から浴びる。冷えた躰に暖かな湯が染みるのか、ぶるっと
震えたダンテの膚を、掌で擦ってやる。
「寒いか?」
ダンテが首を左右にして、バージルにしがみついてきた。首に腕を回すのは何故か躊躇い、胸に
顔を押しつけて小さくなっている。腰をするりと撫でれば敏感にぴくりと反応を返してくる。
バージルはふとダンテの腰が引けていることに気付き、あぁ、と思い至った。愛撫をしていた
つもりはなかったが、膚を撫でていた所為でまたダンテの中心が首をもたげているようだ。
バージルは嘆息し、ダンテの耳をやわく食んだ。
「始末をしてやっているだけだというのに……淫乱が」
びくっとダンテが弾かれたように躰を離した。しかしそうすることで、明らかな慾を示す下肢が
あらわになる。それに気付いて躰を反転させようとするダンテの肩を、バージルは掴んでさせ
なかった。
「まだだ」
短く言って、ダンテの左脚をぐいと抱える。あられもない格好に、ダンテは嫌だと暴れるが
逃がしてやるバージルではない。
「喚くな」
取り出した自身の十二分に滾ったものにため息が出そうになる。ダンテの痴態だけでこれだ。
たちが悪いと、ダンテの躰に対して内心で愚痴をこぼす。
「バージル、や……」
目を細め、ダンテの唇を手で塞ぐことで言葉を奪う。
「何が嫌だと?」
犯されることを期待してひくつく蕾を先端で擦ってやると、襞が誘うように収縮する。それが
ダンテにも判るのか、自身の淫らさに泣きそうな顔をするダンテを、バージルはいっそう苛めて
やりたくなる。
「躰は正直だな、ダンテ?」
「っ……」
びく、と顔を強張らせるダンテの襞に、バージルは亀頭を埋めた。内壁はバージルを奥へ誘おうと
熱塊を包み込む。しかしバージルはそのまま、ダンテと視線を絡ませた。
「嫌、か?」
必要以上に敏感になっているダンテは肩で息をしながら、ふるふると首を振る。快楽主義者である
ダンテには、そもそもバージルの与える快楽を拒むことはできない。誰よりも自分の躰を知り尽く
しているのはバージルだと、ダンテは知っているのだから。
でも、とダンテがまだ諦め悪く口ごもる。
「でも、何だ」
「俺……俺は……」
言い淀むダンテに、バージルは鼻を鳴らした。
「嫌でないならば、黙っていろ」
どうせ、あの悪魔に犯された自分は穢れているとでも思っているのだろう。全く馬鹿馬鹿しい
ことだ。しかしバージルはダンテの思い込みを否定してやることはせず、まだわだかまりを隠せない
ダンテの粘膜を犯した。
「ひぁあっ!」
ぎくっと跳ねる躰を、脚を抱え肩を壁に押しつけて固定し、上下に揺さぶる。痛い、と喚くのは
背中が壁に擦れるからか、それとも繋がった箇所が痛むのか、バージルには判りかねる。
「少し辛抱しろ」
「む、り……っ……」
抱き付くのを躊躇っているらしい腕を首に回させ、落ちるな、と短く耳に囁く。
「え、あっ?」
両脚を抱えると、ダンテの体重の分だけ重力がかかり、より深々と貫く形になる。ダンテの
困惑した声が悲鳴に変わった。
「あぁっ! く、ぅん……!」
ぱくぱくと息が出来ないのか喘ぐ唇。少し肉厚の下唇を、バージルはちょっと噛んでやった。
とたん、ぞくっとダンテの膚が粟立つのが判る。好きものが。低い呟きはダンテの耳に入ることは
なく。
「あっ……はぁ、ん……バー……ジ、ル……ッ」
ゆるゆるとした責めに焦れたのか、ダンテがバージルに抱き付いてくる。その拍子にバージルの
腹に性器を擦りつけることになり、呆気なく達してしまった。バージルはべっとりとシャツを汚した
ダンテの精液を見下ろし、それからダンテを見やればダンテは今にも泣きそうな顔で唇を噛んで
いる。
恥ずかしいのだろう。簡単に射精してしまったことも、バージルのシャツを汚してしまった
ことも。
「ご、ごめん……」
らしくもない殊勝な言葉に、バージルはこちらも珍しく声を上げて笑った。とはいえ、ダンテの
ような笑い方はしないバージルだが。
くっくと笑うバージルを、ダンテが真っ赤になって睨んでくる。
「笑、う、なよっ……響い、て……っん……!」
僅かな振動にすら敏感に伝わるものらしい。ダンテの目には羞恥と快楽がないまぜになった涙が
浮かんでいる。
「ふん……また汚すつもりか?」
達したばかりの性器がまた首をもたげようとしているのを揶揄すれば、ダンテは首まで真っ赤に
なった。
「アンタが、っ……するか、らだろうがッ!」
仕返しとばかりにきゅうと締め付けられ、バージルは眉間に皺を寄せてダンテの性器の先端を
爪で押した。ひっ、と掠れた悲鳴を上げるダンテの、紅く染まった耳朶を甘噛みする。
「汚れても気にするな。何度でも出せ」
耳に囁き、突き上げる。先刻の緩慢な動きから一変しての激しい律動。揺さぶるたびに、
ダンテの目尻から涙がこぼれて落ちる。
「ひッ! ぃあっ……あぁっ! ぁんっ……!」
襞を擦り上げ、粘膜を抉り、そうしてバージルがダンテの中で果てる頃には、ダンテはほとんど
意識を保ってはいなかった。それでもバージルはダンテを休ませてはやらず、ダンテは震えながら
バージルにしがみつく。
もう出ないと身も世もなく泣いて縋るダンテに、バージルはようやく口付けをした。
こやつら、この後ベッドに移動して、朝まで励みます。
といういらない情報をぼそりと…
[07/8/22]