戒離カイリ











何が良くて、何が駄目なのか。そんなことはよく、判らないけれど。

全く乱れることのない息が耳にかかって、ダンテは朦朧とした意識を僅かに引き戻した。耳に かかるそれとは正反対に、ダンテ自身の息は整うことを知らない。好き放題(一方的ともいうが)、 ダンテを抱くバージルはいつも理性を保ったままだ。
ダンテが気を失うまで攻め立てて、自分だけは涼しい顔をしているのだから、不平不満も出ると いうもの。
しかし今日は不満をぶつけられる立場ではなかった。誘ったのは、他でもないダンテの ほうだからだ。

「っん……ん……ッ」

律動に合わせて声が漏れる。堪えられるものではないことは、経験上よく知っているけれども、 あられもない声を上げるのはやはり気恥ずかしいし、何より癪だ。バージルを調子づかせる ようで。

「啼かぬのか?」

揶揄する声は、セックスなどしていないと思わせる程に平静だ。自分一人が勝手に盛り上がって いるように思えて、ダンテは内心で舌打ちする。

「っ、れが、啼くか、よ」

バージルを睨むが、膝に抱えられる恰好で深く繋がり、蹂躙を受け入れているダンテが何を したところで迫力はないし、セックスの最中でなかったとしてもバージルは全く堪えないだろう。 それでも睨まずにはおれぬダンテの気持ちなど、バージルには判らないに違いない。
バージルはふんと鼻を鳴らした。人の悪い笑みを浮かべるバージルに、ダンテはしまったと思うが もう遅い。

「足りない、ということか」

違う、とは言わせて貰えなかった。脚をいっそう開かされ、激しく突き上げられてダンテは 堪らず悲鳴を上げた。

「ひっ……! ぃあ、ぁっ、あ……ッ!」

脚が痺れる。いや、脚だけではない。繋がったそこから疼くような痺れが全身を覆っている。 指先は氷に触れているかのように感覚がなく、バージルの背中に爪を立てるのもままならない。

「ぁうっ……はぁ……あぁっ……!」

ひっきりなしに漏れる喘ぎに満足したか、バージルが目を細めてダンテののけ反った喉に 噛み付いた。甘噛みなどという生易しいものではない。ぶつり、と犬歯が膚を破る音が、ダンテの 耳にいやに大きく響いた。

「っア……!」

びくん、と喉を噛まれた痛みに躰が竦む。不可抗力でバージルを締め付けてしまったらしい。 中で好き放題をしているバージルのものが、ちょっと動きを止めた。その代わりと言って良いのか、 どうか。バージルのものが先刻よりも大きく張り詰め、ダンテは目を瞠った。

「マ、ジかよ」

首の痛みも忘れ、思わず自分の腹を見下ろすダンテに、バージルはくつくつと笑った。

「苦しいか?」

つるりと腹を撫でられて、それだけで感じてしまう我が身をダンテは呪わずにはおれない。

「判って、ん、なら、ちょっとは、抑え、ろよなっ」

息も絶え絶え、悪態を吐く。言ったところでバージルには右から左だと判っているが、諾々と 受け入れて後で悲惨な思いをするのはダンテなのだ。そもそもバージルは、ゴムの類を使わない。 その後始末はバージルがダンテの眠っている間にしているらしいが、それを差し引いても バージルとのセックスは様々な意味で兇悪的なのだ。最後まで気を失わずにいられたことなど、 今まであっただろうか、と記憶を探らねばならない程度に、激しい。
ダンテでなければ死んでいるだろうセックスを、バージルは当たり前のようにダンテに強いる。 いや、決して強要はしていない。結局のところ、ダンテが快楽しかない生温いセックスなど望んで いないことを、バージルは知っているのだ。

「聞けぬ願いだ」

バージルは鼻で笑って、繋がりを解かぬままダンテをシーツに組み敷いた。どさりと倒れ込んだ 衝撃で、ダンテはまた無意識にバージルを締め付けてしまったらしい。少し緩めろ、動けん。と 何故か不愉快そうに囁かれ、ダンテはにやりとした。

「苦しいかよ?」

眉をしかめたバージルが、ダンテの下腹部に触れて少し押した。

「お前のここよりはましだろうが、な」

「っ……ならもっと締めてやろうか?」

苦しめ、とダンテは繋がったそこを意識する。意図的に締めつけようとしなくとも、バージルが 動けば嫌でもそこはバージルに絡み付き、締め付けて離さないのだけれど。
バージルはくつりと笑い、ダンテの足首を掴んでぐいと持ち上げた。躰を二つに折るような 恰好にされ、戸惑う間もなく挿出が再開される。

「ひぐ……ッ!」

呼吸すらままならない、暴力的な律動。貫かれた箇所が痛みを訴えるが、それを言葉にして バージルに抗議することは出来るわけもなく。卑猥な粘質の水音が、スプリングの嫌な軋みが 耳を犯す。
言葉はなく、ただダンテが漏らす悲鳴じみた喘ぎだけが、行為の合間に上がるのみ。獣が二匹、 狂ったように交わっている。――――言い得て妙だと、ダンテは無意識のうちに笑っていた。

「……気でも触れたか」

淡々と(どこまでも平静を失わず)言うバージルを、ダンテは見上げてにんまりとした。 口の端からは唾液が溢れて、気持ちは悪いが拭っている余裕もない。どうせ涙でぐしゃぐしゃに なっているのだ、唾液くらい何程のこともない。

「狂って……の、は、ぁ……っ、た……だ、ろ?」

バージルはふっと笑い、そうだな、と珍しく肯定した。

「狂っているのだろう。もう、ずっとな」

いつから、とはダンテは問わなかった。バージルがダンテの脚を抱え直し、繋がったまま体位を 変えた。

「ダンテ、」

熱っぽい囁きなど望んだところで詮無いこと。ダンテは内心で少しばかり落胆して、バージルの 首に腕を回してきつく抱き締めた。

「バージル、もっと……もっと、してくれよ」

耳許で行為をねだれば、バージルは仕様がないと言いたげに笑う。

「するのは良いが、また失神するだろう」

「そん時はそん時だろ。なぁ……?」

足りないのだと言えば、バージルはため息一つでダンテに確実な快楽を与えてくれる。ダンテは 笑って、バージルの律動に合わせて腰を揺らした。獣が人に変わる。行為の浅ましさは増すばかり だが、それも良いとダンテは思う。

人も獣も、何程の違いがあるだろう。

「あっ……はぁっん……」

ダンテが気を失うまで、行為は続く。つまりダンテの意識の続く限り、バージルはダンテから 離れないということだ。もっとも、すでに朦朧としている意識がいつまで保つか――――さして 長持ちはしないだろうけれども。

「、ぁ……ジルっ……バージル……!」

夢中になってしがみつく。額に、瞼に、頬に落とされるキスの、場違いなまでの優しさが くすぐったくもある。

「ダンテ、」

囁かれる自分の名は、こんな響きをしていただろうかと。不思議に思ったところで最奥を抉る ように突き上げれ、ダンテは掠れた悲鳴を上げて吐精した。ほぼ同時にバージルがダンテの内で 精を放ち――――、

「ぁあッ――――!」

奔流の中で、ダンテの意識は閉じられた。








何が良くて、何が駄目なのか。そんなことは判らないけれども。
確かなことが一つだけあれば、それで自分は良いのだと思えるから。

それ以上のことは考えないで。目を瞑り、耳を塞ぎ。

そうしてそっと、ため息を吐く。



















戻。


兄には言葉責めしてほしかったんだけど…
どうもうまくいきません。何故。