利機リキ









急なことで宿が確保出来ず、空いていたのはランクとしては下の下にあたる安ホテル……ならば 良かったのだが。

バージルは無駄に広いベッドに腰掛け(座るところといえばベッドしかない)、何故自分は ここにいるのかと少し考えた。もちろん考えるまでもなく、どこのホテルもモーテルも空きが なかったからに違いない。そうでなければ、こんな野暮ったい連れ込み宿になど、誰が好き好んで 泊まろうと思うものか。
ラブホテルなどという単語も当てはまらないような、古い連れ込み宿で一晩過ごさねばならなく なったのは、仕事で予想外に時間を食ってしまったからだった。本当なら夜半までかかる筈のない 仕事――――取り壊し前のビルに取り憑いた悪霊を追い払うだけ――――だったというのに、 思わぬ弊害を食う羽目になったのだ。

「風呂、空いたぜ」

この、暢気に風呂など入っていた弟の所為で。

ダンテは革のパンツだけ穿いて、頭をタオルで掻きながらこちらへやって来る。バージルが 動かないことを不思議がるように、首を傾げた。

「バージル、風呂入んねぇの?」

自宅の風呂のように言うダンテに、ふつふつと怒りに似たものが沸く。しかしダンテはバージルの 怒りなどには無頓着で、ひょいとベッドに腰を下ろし、近くの店で買ってあった安いワインの栓を 切ろうとしている。
バージルはそれを睨むように見やり、ダンテがワインの栓を開けるのを見計らってボトルを取り 上げた。あっ、とダンテが声を上げてバージルを見る。

「何すんだよっ」

噛み付くように言い、睨んで来るダンテを横目に見やりながら、バージルはワインを一口含んだ。 俺が開けたのに、と喚くダンテの後頭部を掴んで引き寄せ、唇を重ねる。口に含んでいたワインを 流し込んでやれば、ダンテは目を見開き、苦しげに呻いた。

「ん゛ぅっ!?」

バージルはダンテの髪に指を絡ませ、角度を変えて深く口付ける。ダンテがワインを嚥下したのを 確認して、口内をぐるりと舐め上げてから唇を離した。ダンテの濡れた唇を舐めるのは、癖の ようなものだろうか。

「何なんだよアンタはっ!?」

唇を解放した途端に喚くダンテに、バージルは眉をしかめる。

「煩い」

今度はワインなしで唇を塞ぐ。鼻で息をすれば良いものを、あくまで口を頼ろうとしてダンテは ひどく苦しそうだ。バージルの躰を押し退けようと両手で突っ張るが、無駄なことである。二人の 膂力を比べれば、確実にバージルに軍配が上がる。潜在的な魔力こそダンテが勝っていると バージルは見ているが、今現在での能力を比較すれば総体的にバージルのほうが上だ。

「んっ……ふく、ぅ……!」

甘い声だとバージルは思う。強がっていても、少し餌を与えてやればダンテは陥落する。 そうなるように、バージルがした。幼い頃から植え付け、大事に大事に育てた種は、今もダンテに 根付いて揺るがない。
バージルは僅かに唇を離し、とろんとなったダンテの双眸を見据えた。

「やめるか?」

少し戸惑うように、ダンテの瞳が左右に揺れる。

「嫌ならやめてやる。どうしたいか、言え」

やめろ、とは言わないだろう。しかしもっととねだるにも、理性が残りすぎていて羞恥が勝つ。 困惑して口をもぐもぐさせるダンテの、鎖骨から胸にかけてを指先でするするとなぞった。ぴくんと ダンテの躰が大袈裟な程に跳ねる。

「ぁっ……や……」

ダンテの唇から漏れた無意識だろう微かな拒絶の言葉に、バージルはふっと笑って指を離した。 途端、ダンテが傷ついたような顔をするものだから、バージルは思わず笑ってしまう。

「っ……笑うなよ」

「ふん。嫌、なのだろう?」

「そ、それは……っ」

顔を真っ赤にしてダンテがそっぽを向く。恥ずかしそうに唇を噛むさまが良い。バージルは ダンテの耳に、ふっと息を吹き掛けた。敏感になっているらしいダンテが、ひゃっと妙な声を 上げる。

「嫌か、ダンテ?」

赤く染まった耳を甘噛みしてやれば、ダンテはぞくりと躰を震わせた。右手でダンテの臍を 弄る。そんな悪戯めいた愛撫ですら、ダンテは反応せずにはいられないのだろう。

「んっ……んぅ……」

どこに触れても過敏に反応するのだから、組み敷く側にすればこれ程楽しいことはない。 バージルはダンテの耳に舌を差し入れ、ぬるりと舐ってから囁いた。

「やめる、か?」

びく、とダンテが顔を強張らせ、バージルに目だけを向けた。恨めしげな目だ。実際、恨めしく 思っているのだろう。

「意地悪ぃぞ、アンタ」

バージルはしれっとして首を傾げた。

「それがどうした。で、どうする」

ダンテはきゅっと唇を噛み、じわりと潤んだ双眸でバージルを睨み付けてくる。迫力は、 もちろん皆無だ。

「そんなん、判ってんだろ?」

「さて? 判らんな」

「ッ……!」

ダンテが息を飲んだ。バージルが革パンツの上から、ダンテのものを無遠慮に掴んだからだ。

「い、たッ……バージル、やめっ……!」

痛いのは判っている。しかしバージルは手を緩めることはせず、代わりにとでも言うべきか、また ダンテの耳に囁いた。

「口で言わねば判らんぞ、ダンテ。どうして欲しいか、早く言え」

言わぬならこのままだ、とひそりと嘯いてやれば、ダンテはぎょっとしたようにバージルを 凝視した。冗談を言っているのだと思ったのかもしれないが、もちろん冗談などでありはしない。 ダンテもそれに気付いたらしく、ひくりと頬を引きつらせた。

「ア、ンタ……っ」

「どうした、早く言わねば潰れるぞ?」

潰す、とは言わないバージルに、ダンテは何を思っただろうか。痛みによる涙を浮かべ、 ダンテはバージルを睨み付けた。

「ッそ……するんなら早くしろよっ」

可愛げもなく噛み付くように言い捨てるダンテに、バージルは肩を竦めた。往生際の悪いやつだ。 覚悟をした上での往生際の悪さではないだろうが、ダンテが覚悟をしていようがしていなかろうが、 バージルにすればさほどの違いはない。

「言い方は気に入らんが、まぁ良いだろう」

くすりと笑うさまに、ダンテは正しく不穏な空気を読み取ったようだ。蒼白になったダンテの 頬に、バージルは唇を触れさせ舌を這わせた。それだけのことで、ダンテはやはりぞくりと感じて しまうらしい。

「敏感だな、いつにも増して」

揶揄するでもなく、ただの感想としての呟きなのだが、ダンテは顔を真っ赤にした。蒼く なったり赤くなったり、忙しいことだ。

「そっ、それはアンタが……」

「俺が何だ。していることはいつもと変わらん」

「そ、うだけどっ……だって、仕方ねぇだろっ?」

「何がだ」

すぐさま問い返すと、ダンテはぐっと一瞬言葉に詰まり、赤い顔を俯けた。だから、と口ごもる。 察しないバージルに焦れているようだが、バージルには全く判らないのだから察しようもない。

「ダンテ?」

「こ、こんなとこですんのなんか初めてだからだよっ!」

なんで判らないんだ、とばかりにダンテが叫び、しかしバージルにはやはりぴんと来ない。

「初めてだから、何だ」

「っ……だから! その……緊張するんだよ……」

バージルは不覚にも呆気にとられた。ダンテが緊張するなど明日は槍が降るかもしれない。いや、 それよりも、

「こんな連れ込み宿で、何を緊張することがある?」

と、そういう理由で。

「そうだけど、やっぱこんな、ヤるの前提にした場所で改めてってなると……」

「緊張するのか」

こくん、とダンテが首を縦にする。素直な反応でよろしい、と思わなくはないのだが……やはり バージルには判らない感覚だ。交合するのに、場所の違いなど何の関係があるというのだろう。 眉を顰めて首を捻り、考えた結果バージルは、

「続きだ」

「へっ?」

ダンテをベッドに組み敷き、何ごともなく抱くことにした。いきなりの再開に、ダンテは目を 白黒させている。が、ダンテの混乱などバージルには何程のことでもなく。
ダンテの濡れた髪を雑に掻き上げ、後頭部に手を差し入れてぐいと髪を掴む。髪を濡れたまま 放っておくのは許しがたいが、それよりも早くダンテを抱きたい。まだまだ若い、と自嘲し、 バージルはダンテの胸に顔を埋めた。暑さでか、それとも緊張でか、しっとりと汗の滲んだ膚に 唇で触れるが思ったよりも不快感はない。むしろ体温の高さが心地好いくらいだ。

胸の尖りに歯を立ててやれば、ダンテはびくんと背をしならせる。バージルは噛んだそこを 舌で舐り、笑みを浮かべた。

「こんなところに泊ることになった責任は、たっぷり取って貰おう」

はぁ、と息を吐き出したダンテがバージルの頭をがしりと掴んだ。

「たっぷりって……ここで?」

「嫌なら、外でするか?」

「! それはもっと嫌だ!」

「なら、喚くな。黙って脚を開け」

「お、横暴だぞ、バージル……!」

「ほう、良い度胸だ。では要望に応えて、喉が潰れるまで抱いてやる」

げ、とダンテが色気のない声を漏らしたが、バージルを萎えさせるには到らない。革パンツを 下着ごと脱がそうとすると、ダンテが慌てた様子でバージルに制止を求めた。

「まった、ちょ……待てってバージル!」

「まだ何かあるのか」

「電気……」

煌煌としているわけではないが、互いの表情が見える程度の明るさはあり、それが気になると ダンテは言う。明かりがあると、ここがどこで、何をしようとしているか突き付けられた気分に なるのかもしれない。

「お前がよく見えて良い」

と、ありきたりなことはバージルは言わず、

「慣れる為だ。我慢しろ」

連れ込み宿ですることに緊張すると言うなら、いっそのこと慣れてしまえ、と。

「はぁっ?」

「黙れ。縛られたいのか?」

途端にぎくっとなって口を噤んだダンテに、バージルは一つ頷いて見せる。

「それで良い」

下衣を取り去り、咄嗟に脚を閉じようとするダンテを嘲笑うように、足首を掴んでぐいと左右に 割った。ダンテが恨めしげにバージルを睨む。

「まだ何かあるのか?」

ダンテはちょっと唇を噛み、バージルの胸を掌で押すようにした。

「……我慢してやるから、加減しろよ」

交換条件のつもりなのだろうか。バージルはくつりと笑い、ダンテの脚の間に躰を割り 込ませた。

「善処して欲しいなら、もう少しましな条件を提示するんだな」

言いながらダンテの後孔を指でまさぐる。硬度を持ち始めている中心は、とりあえず後回しだ。 ダンテの意識がはっきりとしている間に、一度犯しておきたい。

「ひぁ! ……っ、ま、待って……あ!」

きゅっと窄まった襞をなぞるだけで躰を跳ねさせるダンテに、バージルは内心でため息を吐いた。 挿入してもいないのにこの状態では、何度も保たないだろうことは明らかだ。加減をするつもりは ないが、結果的には加減をしてやらねばこちらが愉しめそうになく、こんな連れ込み宿に泊ることに なった責任を取らせるなど、無理も良いところだ。

「ふん……」

敏感なダンテを追い詰めるのは愉しいが、バージルは面白くないと鼻を鳴らした。ダンテが いつになく初々しいということが、少しばかりバージルの溜飲を下げるけれども、やはり満足いく ものではなく。

「ぁ……あぅ……」

バージルはダンテの意識を奪わない程度に指で内壁を掻きながら、回数に拘るか内容に拘るかを 考えあぐねた。



















戻。



エロ目指して挫折。リベンジしたい。違う話で。←え。