薄紅ウスベニ











動くな、と言われたので意図は判らないがじっとした。何、と訊いても返ってくるのは黙って いろといういつもの口調。ため息を一つ。
黙るんじゃなかった、とすぐに後悔した。






「……なぁ、」

体調的には問題ないのだが、気分的にぐったりしてダンテは兄を呼ばわった。双子の兄、 バージルがダンテの呼び掛けに応じる声は、やけに上の空だ。

「……何だ」

おざなり、というのが全面に押し出された声に、ダンテはいっそうぐったりする。バージルは 現在別のことに熱中している為、ダンテ本体になどかまけている暇はないのだろう。しかし バージルが珍しく熱中していることは、ダンテにも無関係ではないのだ。むしろ関係がありすぎて、 無視など出来るわけがない。

「バージル……もう嫌だ」

げんなりして訴えるが、聞き入れられはしないのだと、答えを聞くまでもなく判っている。 それでも訴えずにおれぬダンテの心情を汲んでくれる程、バージルは優しくはない。むしろ徹底した 無情だ。

「まだ駄目だ」

もう何度も聞いた言葉に、ダンテはちょっと泣きそうになる。少し泣いたところで、バージルには 判らないだろう。ダンテの両目は、シャツの切れ端で覆われているのだから。

(くそ……何でこんな……)

忌々しく、布の下で目をきつく瞑る。眠ってもいないのに目を閉じている所為で、瞼の裏には 光とは言えない何かが這っている。

バージルの悪趣味は今に始まったことではないが、毎回それに付き合わされるこちらの身にも なれ、と殴りたくなってくる。――――それをしたらしたで、後が恐ろしいのだとは言うまでも ないが。第一、手を自由に動かせないのだから殴るも何もあったものではない。
両手はそれぞれ、左右の足首と一纏めに縛られている。そうして膝は大きく開かされており、 それだけでも充分趣味の悪い恰好だ。

「バージル……っ」

思いがけず躰が跳ねる。声を上げなかったのは、驚きがそれに勝ったからだろうか。バージルが ダンテのことなど一切顧みず――――いっそ人形か何かでも扱うように――――、 ダンテの中心に無遠慮に触れたのだ。
今現在、ダンテは一糸纏わぬ姿である。無論、バージルによって剥がれたのであり、目隠しは ダンテの着ていたシャツが裂かれたものだ。服を剥ぐ前に目隠しをする辺り、バージルの悪趣味が 露見しているとダンテは思う。
バージルの手は、本当に何の遠慮もなくダンテのものを扱く。弱い箇所を的確に押さえた バージルの指に、ダンテは不本意だけれど追い上げられていく。

「んぁ……っは……ひッ!」

先端の割れ目に爪を立てられ、短い悲鳴が喉をつく。その反応が気に入ったのか、先端を執拗に 掻かれてダンテは堪らずにびくびくと躰を痙攣させた。

「ぁっ! ふぅ、ん、くぅ……ッ」

見えないというのだけで、躰は異常に敏感になるものだと、ダンテはやはりバージルによって 教えられた。バージルは時折、いらぬことをダンテに吹き込む。それをいちいち、ダンテは覚えて しまうから忌々しさも極まっている。 普通ではないセックスは、思いがけず深い快楽に繋がってしまい、そもそも快楽に馴れたダンテは 抗うことが出来なくなってしまうのだ。それを判っていて、バージルはダンテに自分の悪趣味を 刷り込もうとする。たちが悪いのはどちらなのか、ダンテには判らない。

くちくちと先端を弄っていた指が、不意に離れる。思わず物足りなげな声が出かかって、 ダンテは慌てて唇を噛んだ。
バージルがくつりと笑うのが、やけに耳に響いた。

「足りぬだろう……?」

まるでダンテの心を読んだような、確信を持った揶揄。ダンテはかっと頬を赤くした。

「そっ……んなわけあるか!」

膝を閉じようとするが、腿を手で押さえられた。脚も縛るか、と不穏な呟きが聞こえてダンテは ぞっとする。おそらくバージルの目論みとしては、ダンテに脚を自分で閉じられないよう、どこかに 縛り付けるといったところだろう。ただでさえあられもない恰好を、これ以上酷くされては堪った ものではない。

「バージル、嫌だ。何でこんな……」

応じるバージルは、やはり冷ややかだ。

「黙っていろ」

人形は喋るな、とでも言うように。どこまで悪趣味なのか、ダンテは嘆くよりも呆れてしまう。 もっとも、バージルが自己中心的で傍若無人であることなど、今更のことなのだが。

ふん、とバージルが鼻を鳴らした。どことなく不機嫌な気配を感じ取って、ダンテは拙いと 思った。自分が何かをしてどうの、ではない。ダンテがバージルを怒らせることはかなり頻繁に あり、その度に説教や小言を食らうのは日常茶飯事だ。バージルは基本的に感情の起伏に乏しいが、 不機嫌なときは本当に手が付けられなくなるから困る。ただ怒っているだけなら、まだまし、と 言っても良いのだけれど。
バージルには判らないよう、ダンテが唾を嚥下したとき、

「詰まらん」

勝手極まりない呟きが耳に届いた。不意に首に指らしきものが触れ、ダンテは身を固くした。 指はすぐに離れ、同時にバージルの気配も遠ざかる。え、と困惑して顔を上げるが、何も見えない のだから意味はない。
かたりと引出しか何かを探る音がし、さほど間を置かずバージルはこちらへ戻って来たらしい。 嫌な音が聞こえた気がするが、正体を知りたいとは思わない。知ってはならないと本能が拒絶して いる。

「バージル……?」

呼び掛けは格別小さかった。怯えていると取られても仕様がなく、怯えていないと否定も出来ない 自分が情けない。しかしこんな恰好で見栄を切ったところで、もっと情けないのは間違いない。

「赤か青か、選べ」

出し抜けに問われ、ダンテは返答に困った。何の色を選ばされているのか、全く判らない。

「……あか?」

とりあえず、無難に。そうか、とバージルが呟く。ダンテが首を傾げようとすると、また動くなと 言われ顎を掴まれた。動くと言う程の動作ではないだろうに、何故か。答えはすぐに判った。 ……判りなくなかった。
首に巻き付けられた冷たい感触――――これは革、だろうか。金具の軽い音が耳に届く。 苦しいようなそうでないような、微妙な具合でそれを留められ、かちり、と。嫌な音を聞く。 じゃらりと何かが擦れて鳴った。音の正体は何で、首に巻かれた革は何なのか。判りたくもないが、 判ってしまう。

これは。

「よく似合っているぞ」

何やらご満悦の様子で、バージルが宣う。それはそうだろう。趣味を全開にしてバージルが自ら 購入したのだろうそれを、買った本人が気に入らないなど正直救われない。何が救われないのか。 もちろん、それらを着けさせられるダンテが、だ。

「この、悪趣味……ッ!」

呻かずにはおれない。首輪を巻かれ、鎖で繋がれて喜ぶような趣味はダンテにはないのだから。 が、バージルにとってはダンテと趣味が合おうが合わなかろうが関係ない。

「ふむ……」

一人ごちて(きっとろくなことを考えていない)、バージルがおもむろに鎖を引っ張った。 当然だが、ダンテの首は絞まる。

「ぅえっ……!」

喉をまともに絞められなかったのは幸いと言って良いのか、どうか。呻くダンテなどバージルは まるきり無視だ。
ダンテを自分の膝に引き寄せておいて、バージルは半ばうつぶせの恰好になった ダンテの尻に手をかける。何も着ていない尻は当たり前だが、素、である。無造作に掴まれて平然と していられる人間などいまい。

「ぎゃあっ!?」

断じて大袈裟ではない悲鳴に、しかしバージルは顔をしかめたらしい。

「煩い」

と告げる声は理不尽にも苛立ちをあらわにしていた。

「んなとこ掴むな、馬鹿バージル! 何がしてぇんだよ、アンタはッ!?」

噛み付くように吠えると、耳に濡れた感触があり、

「喚くな。喰い千切られたいか?」

耳の外側、尖ったところに歯を立てられた。ダンテが喚けば、バージルは躊躇いなく言葉通りに 実行するだろう。判りはしても、ダンテは黙ることなど出来なかった。黙ってバージルの言うまま、 人形になるなど勘弁だ。

「せめてコレ、解けよ……」

呟くような小さな声になってしまうのは、仕様のないことだとダンテは思う。バージルは悪趣味で 自分勝手な男で、怒りを買えば何をしでかすか判らないからこわいのだ。
ぼそぼそと訴えるダンテに、バージルはにべもなく言い放った。

「聞けぬ願いだな。それとも、俺を煽っているのか?」

そんな恰好で、と。まるでダンテが好きでこんな恰好をしているとでも言うような言いざまに、 ダンテはかっとなった。

「アンタがこんな恰好にさせてるんだろうが! 嫌がって何が悪いんだ畜生! だいたいなぁ、 誰がいつアンタを誘ったよ!?」

一気にまくし立てたダンテだが、バージルはあくまでさらりと受け流してしまう。

「煩いと言っただろう。喧しく喚けぬようにしてやろうか?」

どうやって、とはバージルは言わない。しかしダンテは慄然とした。バージルによる過去の “お仕置”は、ダンテに恐怖心を植え付けるには充分な威力を発揮している。ひ、と掠れた悲鳴を 上げたダンテの白いうなじに、バージルがゆるく噛み付いた。ひくりとダンテの躰が跳ねる。

「っ……ぁ……」

ダンテの膚を甘噛みしつつ囁くバージルの声は、奇妙な程優しい。

「ただ抱くだけでは詰まらん……そうだな、後ろに玩具でも入れて、それから全身、 余すところなく膚を吸ってやろう」

遊びを思い付いたかのようなどこか愉しげな口調に、ダンテは眩暈を覚えた。

「こ……の、変態ッ……!」

「良い度胸だ。そんなお前には、もれなく一番大きいものを喰わせてやる」

何を、とはやはり言わない。聞きたくもないとダンテは思う。

「そんなもんいらねぇし嬉しくねぇよ!」

喚いたところで、バージルを止めることなど出来るわけもなく。

「喰ってみれば、やみつきになるかもしれんぞ?」

それはそれで見物だ、などと臆面もなく宣うバージルを、ダンテは本気で嫌いだと思う。 そしてそんなバージルを放置しておくしかない自身に、ほとほと嫌気がさす。

鎖を引かれ逃げることも出来ないダンテの尻に、ひやりとした何かが塗りたくられる。

「嫌だって、バージルっ!」

嫌がって喚いたところで、聞くような相手では断じてない。

「少し痛むかもしれんが、まぁ気にするな」

「無理だから! って、や……あ!」

ぐ、と。濡らされただけのそこに無機質のものが押し当てられて、ダンテは躰を固くした。

「ひっ……い、あ、ぁああッ!」

悲鳴を上げずにはおれぬ衝撃と痛み。バージルはダンテの身など案じもせず、それを一気に 押し込んだのだ。臓腑を押し上げるような圧迫感に、ダンテは息を忘れた。

「ひ、ぁ、あ……」

引きつれた喘ぎを漏らすダンテの背に、バージルが唇を押し当てた。

「良い声だ、ダンテ。喰わせたまま、犯してやりたいな……」

息も絶え絶えのダンテは、信じ難い言葉に目を瞠った。バージルの口調が、冗談を言っている ようには聞こえなかったからだ。

「ひ……ッ!?」

「そう怯えるな。まだ、お前の膚に痕を刻むのが先だ」

しない、とは言わない辺りがバージルの兇悪なところだ。ダンテは目の前が暗くなるのを 感じた。

「ば……」

無意識に、叫んでいた。

「バージルなんか嫌いだぁあッ!!」









翌々日。ベージュのソファーが廃棄処分にされる為、リビングから運び出されるのをじっと 見届けながら、ダンテは部屋の隅、膝を抱えて小さく小さく蹲っていた。

そうして数日、ダンテは徹底してバージルと口を利かなかったとか、どうとか。



















戻。


ソファーでヤってたらしいです。すいません。
コンセプトは変態兄。…挫折しました。