乱舞ランブ









「いっ、てぇ……」

低く、誰に聞かせるでもなく独り言のように呟いたダンテに、二つの小さな生き物はぴょこりと 顔を上げた。

「主よ、いかがした」

「唐突であるな、主よ」

不思議そうな声は嗄れており、綴った言葉程の可愛げはない。ダンテは彼らの声と見た目―――― 頭ばかり大きい、小鬼のような姿だ――――には慣れており、その辺りには突っ込むことが ない。

「何つーか、腰が痛ぇんだよな……地味に」

腰、と聞いて二体――――アグニとルドラは朱と碧の顔を見合わせた。腰が痛いとは、 それすなわち……

「兄上殿と励みすぎではないのか、主よ」

「主よ、よもや子は出来ておらぬだろうな」

 ダンテは盛大にため息を吐き、じろっと二体を睨んだ。

「言うと思ったよ。てか、子どもなんか出来てたまるか。……違う、」

なんでそっちの方向に行くかな、とぶつぶつくさすダンテの脚に、アグニとルドラはそれぞれ 左右にへばりついた。ダンテは珍しくソファーに座って背凭れに躰をだらりと預けている。 アグニとルドラはダンテの脛にくっつき、ふくらはぎに短い腕を回した。

「励んだのでなければ、何であろう」

「励んだのでなけれぱ、はて、思い付かぬ」

「やはり励んだのであろう、主よ」

「主よ、隠し立てすることはないぞ」

さぁ吐け、とばかりに喚くアグニとルドラに、ダンテはふつりと怒りが沸くのを感じたことだろう。 が、そんなことは露知らず、二体はあくまで我が道を突き進むのみだ。

「まこと、兄上殿が羨ましいな」

「然り、羨ましい限りであるな」

「主よ、今宵は我らと睦み合おうぞ」

「我らも主の玉の肌を堪能したいのだ、主よ」

ぴぃぴぃと喚くアグニとルドラを、ダンテは首根っこを掴んで脚から引き剥がした。だらんと 垂れた短い手足でじたじたと空を掻くさまこそ可愛く、ダンテはこれがあるからアグニとルドラを 本気で叱ったことがない。要は気に入りなのだ。この小鬼たちが。

「お前らは……そうじゃねぇって言ってるだろうが。昨日はあれだ、その、……」

じたじたと足掻いていた手足が止まる。見えているのかよく判らない目が四つ、ダンテをじっと 見つめてくる。ダンテはちょっと頬を赤らめた。――――気色悪いという自覚はあるが、 恥ずかしいのだから仕様がない。

「だから、しなかったんだよ、昨日は」

先に寝ちまったから。つっけんどんに言い捨てる。そうでなければ恥ずかしくてやる瀬なかった からだ。
アグニとルドラはダンテの恥じらいなど全く気にもせず、また顔を見合わせた。

「兄者よ、昨晩は励んでおらぬらしいぞ」

「あの兄上殿が何もせぬとは、何ごとぞ」

「天変地異の前触れであろうか」

「不吉ではあれど、これは我らに勝機が巡って来ているのではないか」

「成程、然り。兄上殿が主を手放すとは思えぬが、この勝機、逃すまいぞ」

「今こそ主を奪還すべし!」

応、と手を振り上げ気合いを入れるアグニとルドラ。しかし彼らは現在、ダンテによって宙吊りに されたままだ。そんなことは詰まらぬ問題、とばかりにアグニとルドラはくいっと逆上がりの要領で 躰を引っ繰り返した。

くりん、ふわ、べたっ。

宙で綺麗に一回転をし、ダンテの腿に胴体着陸。満点だ。アグニとルドラにしか判らない判定から 言えば、の点数だが。
わけの判らないことを喚いた末、勝手に大腿にへばりついたアグニとルドラを、しかしと 言おうか、やはりと言おうか、ダンテは別段叱ることもしない。またか、とばかりに呆れている だけだ。

「はは、そんなんも出来るんだな」

笑いすらするダンテは、これでいつもバージルが苛立って青筋を浮かばせているのだとは、 まるで知らない。

「とりあえず俺、腰痛ぇからさ、横んなるぞ」

腿にすりすりと際どく手足を蠢かせているアグニとルドラに一言言い、ダンテは脚をソファーに 上げて、肘置きを枕に横になった。じんわりと痛む腰が、少しましになったような気がする。

さて。アグニとルドラはくたりと寝そべったダンテの柔らかい腿に乗り、際どい動きを続けて いる。すりすり手足を掻き、ダンテのほっそりした腿――――ダンテは依然、十四かそこらの 子どもの姿のままだ――――の感触を堪能している。とは言え、ダンテは裸などではない。 バージルの選んだものらしい膝丈の綿パンツを穿いている為、その上から、という条件付きだ。 到底、満足いくものではない。

「主よ、是非とも直に主の玉の肌を味わいたいのだが」

「瑞々しい肌をじっくり味わいたいのだが、いかがか、主よ」

 いかがわしい発言に、返るダンテの反応はとても鈍い。

「ぁ……? んー……」

寝そべっていて眠気に襲われたらしい。アグニとルドラがじりじりと腹の辺りへよじ登っても、 ダンテは嫌がりもしない。少しめくれた半袖シャツの裾から、赤いアグニがもそりと侵入。 綿パンツのボタンをぷちりと外し、もそもそジッパーと奮闘する青いルドラ。ぬいぐるみのような 見た目はともかく、やろうとしていることは全く笑えない。当のダンテはむずがるように眉を しかめるが、それだけだ。

もそもそ、もそもそ、

不埒な手足がダンテの躰を這い回る。それでも起きないダンテは、必要不可欠な危機感を一切 合切どこぞへ捨ててしまったかのようだ。ただ時折、無意識だろう吐息を漏らす。

「ん、ぅん……」

アグニとルドラはダンテの甘い(?)吐息に哦然やる気を漲らせ、鼻息荒くダンテの肌に頬を すり寄せた。やっていることはまるきり変態だが、気にしないでやって欲しい。彼らは彼らで、 真面目なのだ。……おそらく。

「主よ、もっと甘やかな声を聞かせるのだ」

「もっと快楽に溺れさせてやろうぞ、主よ」

くつくつと笑い、アグニは胸の小さな尖りを、ルドラは下着の上から未熟な性器を。それぞれ、 技巧などと大層なことは言えぬ手つきでもそもそと触る。そう、あくまで、触る、でしかないのだ。 ぬいぐるみのような姿では、こまやかな動きなど出来る筈もなく、ただ性感帯に触れ稚拙な刺激を 与えるだけが精一杯なのである。
アグニとルドラは、そのことを自覚していない。そもそも小鬼の姿で出来ることなど、たかが 知れているということを認識していないのだから。

「んぅ……、……」

小鬼らの耳には悩ましげに聞こえるダンテの吐息。もちろんダンテも男だ。下肢をどうこう されれば技巧が稚拙であろうと反応しないわけにはいかない。何よりダンテは快楽とその為の行為に 馴れすぎており、なまじ触れられれば辛抱が効かなくなることもあった。
まさか、ぬいぐるみのような物体に犯されようとしているとは、夢にも思っていないだろうが。

「この白い膚に、我らの痕跡を刻んでくれよう」

「我らの種を植え付け、子を孕ませてくれよう」

それは良い、と盛り上がる二体だが、本来の姿が剣である彼らに、果たして子が出来るのか どうか、甚だ疑わしいところだが、ここも軽くスルーしてやるのが大人のマナーというものだ。

寝ている間に彼らの子を産むことになってしまったダンテは、やはり起きない。アグニとルドラは 増長するばかりで、止めるものは誰もいない……わけではなく。

「……貴様ら、わたを抉り出されたいか」

静かな、それ故に恐ろしい声。誰であるかなど見るまでもない。ダンテの兄、バージルだ。

「兄上殿よ、いつものように邪魔立てするか」

「そう毎回やられる我らではないぞ、兄上殿よ」

もそもそもそもそ。ダンテの躰を這いつつ触りつつ喚く二体に、バージルが漏れなく切れた。

「刻まれたいらしいな」

地を這う声。半瞬後には、アグニとルドラはどちらも宙を舞っていた。下方に見える、裂かれた 服から覗くダンテの白い膚。

「嗚呼、なんと悩ましい景色であることか」

「嗚呼、次こそは必ず主を奪還してみせようぞ」

宙を舞うアグニとルドラに、蒼い兇刃が静かに迫り来るのだった。





さて、ダンテの腰は何があって痛みを訴えていたのだろうか?



















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腰が痛かったのでネタにしてみました。
痛みが高じると眠気に襲われるのは私の姉です。