伝染
ふにりと何かを尻の下敷きにした。じんわりとした痛みに尻の辺りがむずむずする。寝返りを
打って仰向けになったダンテは、妙な感触に目を覚ました。
「ん……ぁあ……?」
腕で目許を擦る。毎日のことではあるが、すっかり明るくなった部屋は起き抜けの身には
眩しすぎる。しばらく腕で顔を覆ったまま、ダンテは口をもごもごさせた。何か、口の中にある
ような……が、舌でそれに触ってみても、起き抜けの頭ではそれが何なのかが判別出来なかった。
「むぅ……」
釈然としないまま腕を下ろし、一度横向きになってから躰を起こした。寝乱れたベッドは昨晩の
セックスの跡こそ残っていないが――――バージルがシーツを替えたのだろう――――、
思わずありありと思い出してしまって、ダンテは一人で顔を真っ赤にした。
今更、少し行為が激しかったというだけで恥ずかしがることもないのだが、否、昨晩はかつて
ない程に尋常なテンションではなかった。誰が、と言えば、バージルが、である。
バージルは常に冷めた性格の男だが、テンションの高低がないわけではない。ダンテ程ハイに
なることはないけれど、時折、本当に突然スイッチが入ることがある。昨晩がそうだった。
……昨晩、というか。
ダンテは一人ごち、また顔を赤くする。そう、夜だけの話ではなかったのだ。昨日は陽も高い
うちからやる気満々のバージルに良いようにされ、結局解放されたのは夜更けも夜更け、もう少しで
繋がったまま朝日を拝んでしまうところだった。ダンテは途中で何度も気を失い、しかしバージルは
それでも容赦なくダンテを貫き揺さぶった。起きろ、と頬を打たれたのは昨日だけで一度や
二度ではない。無理矢理覚醒させられ、また激しい責めを繰り返された。よく生きているものだと、
我ながら思う。
半人半魔の身は常人よりも丈夫とは言え、バージルもまた半人半魔なのだ。そのバージルに
手加減なしのセックスを挑まれて、無事で済む筈がない。
頭がはっきりしてくると途端に腰が痛みを訴えた。腰だけでなく全身が痛く、ついでに下半身は
石のように重い。嫌な痛みと怠さだが、嫌いではないから始末が悪いのだ。
「はぁ……」
まだちょっと顔を赤らめたまま、ため息を吐いた。躰を起こしてみたものの、立ち上がるのは
つらいだろう。だが、腹は減る。途端にぐぅと自己主張した腹を撫で、苦笑したところへ唐突に
ドアが開いた。
「…………」
驚いて笑みを張り付かせたまま凍り付いたダンテを見ても、突然の侵入者は何も言わない。
せめて突っ込め、と訴えるダンテの内心など察しようともしない。
侵入者――――バージルはじっと穴の開く程ダンテを凝視し、ようやく口を開いた。
「……今度は、お前か」
ため息混じりの呟きに、ダンテは瞬いた。今度は、とは何のことだ。首を捻っていると、
バージルがトレイを片手にベッドに近寄り、すとんと腰を下ろした。サイドボードにトレイを乗せ、
人差し指でちょいちょいとダンテを手招く。
「何だよ?」
疑問符を頭の上に浮かべながらも、ずりずりとそばに寄ったダンテの尻を、バージルが遠慮の
欠片もなく鷲掴みにした。当然、ダンテはびっくりする。ついでに、ある意味恥ずかしい叫びが
口をついた。
「ひゃんっ!?」
バージルはあくまで、普通。ダンテの叫びなど聞こえていないかのようだ。
「見ろ」
言われ、バージルの手が尻から外れたことにほっとするのも束の間。
「…………」
絶句、した。
バージルが見ろと言ってダンテの目の前に引っ張って来たものは、銀色の細長い……そこまで
来て、ダンテはようよう気付いたのだ。バージルが、“普通”であることに。
「なんで……!?」
ダンテはバージルの胸許にしがみつき、形の良い頭をじろじろと見た。が、ダンテの探すものは
どこにもない。ならば、とバージルに抱き付くようにして、バージルの腰の下辺りを覗きこむ。
やはり、ない。昨晩まで、確かにそこにあったというのに、綺麗さっぱり消えてなくなっている。
その代わりとでも言うように、
「ふむ」
などと考えるふうに、バージルがダンテの尻の辺りから伸びたそれをふにふにと触りまくる。
ダンテは「ひっ」と全身を竦ませた。
「や、やめっ……」
慌てて躰を捻ってバージルの手から逃れようとするが、やはりと言おうか、バージルがそれを
許さない。頭上でへたりと垂れた三角のものを軽く噛まれ、ダンテはまたしても悲鳴を上げた。
「ひぃっ! や、やめろって……!」
逃げ腰になるダンテの躰を、バージルは慣れた仕種で腕の中に閉じ込め逃がさない。
「今度は猫か」
自分もそうだったことなど棚上げして、バージルがぼそりと呟いた。そう、今やバージルは
すっかり元通りになり、今度はダンテに猫の耳と尻尾が生えてしまっているのだ。何故か。
そんなものはダンテこそが訊きたいことだ。
「な、んで……っ」
バージルの尻尾を弄る愛撫じみた手つきにびくびくと躰を震わせながら、ダンテは戸惑いの声を
あげる。どうしてこんなことに。つい半年程前、やっと犬人間状態から解放されたところなのに。
こんなことがあって良いのか。いや、良いわけがない。
一人でぐるぐるしていると、不意にバージルがダンテの猫の耳に舌を差し込んだ。
「ひぁッ……!?」
ぞくぞく、と。明らかな快感が背筋を痺れさせ、ダンテは驚きと困惑に目を泳がせた。何やら
しみじみと、バージルがダンテの耳許で囁く。
「犬の時よりも、敏感だな」
どこか愉げな、良いことを知ったと言わんばかりの声に、ダンテはかっとなった。まさしく
図星だからだ。
「うるせぇっ! アンタが触るからだろ!?」
半泣きになって喚くと、バージルがぎゅうとダンテの尻尾を掴んだ。
「喚くな。黙れ」
「だ、誰の所為だと……っぁ!」
耳の内側をぞろりと舐められ、出したくもない声が出てしまう。完全に腰が引けて腰砕けの
ようになったダンテを、バージルは膝の上に引き摺り上げた。決して軽くはないだろうに、
大した力も込めずにしてしまう辺りはさすがである。この場においては褒められたことでは
ないが。
くたりとしたダンテを自分に密着させて、バージルはよしとばかりにダンテの尾に手を伸ばした。
腰を据えてじっくりと触るつもりでいるらしい。もちろんダンテの意思など関係なしだ。
すすす、と尾を先の方から逆さに撫でられる。逆立った毛並みを再び綺麗に撫で付けられる。
それを何度も繰り返すものだから、堪ったものではない。
「や、だ……やめろ、って、バ、ジルっ……」
抗議の合間もバージルは聞く耳持たず尾を丹念に愛撫する。口で耳を舐るのにも余念がない。
きっと口の中が毛だらけになっているに違いない、などと考えて、ダンテはざまをみろと
笑った。
「何を笑っている」
静かな声。息が耳にかかってぞくりとする。
「んっ……べつに、何もねぇよ」
ぼそぼそと言えば、バージルはそうかと短く言う。それだけで終わりか。妙に落胆したダンテの
尾を、バージルが思い切り引っ張った。
「ってぇえ!! 何すんだよ!?」
涙目になって叫ぶ。バージルの馬鹿力は尋常ではなく、そのバージルに思い切り尾を
引っ張られたのだ。およそ並大抵の痛みではない。が、泣きの入ったダンテに対し、バージルは
どこまでも淡々としている。
「抜けるものではないか」
「その前に千切れるわ! てか、なんで、もしかしたら抜けるかも、とか思うんだよ!?」
「少しでも可能性があれば、試して損はないだろう」
「可能性なんてねぇし、俺は大損だ、馬鹿! くっそ、まだ痛ぇ……!」
バージルから尾を奪取し、尾の生え際をさすりさすりしているダンテ。痛みを取り去ることに
必死のダンテは、バージルの目がきらりと光ったことに気付かなかった。
「っあ……!?」
気付いた時には、ベッドに俯せに組み敷かれていて。邪悪な笑みを含んだバージルの声音が
後ろから問うて来た。
「痛いのはここか?」
「え? な、に」
戸惑うダンテを余所に、バージルがダンテの下衣を下着ごとずり下ろした。ぎゃっ、と叫ぶ間も
与えられず、尻をぐいと持ち上げられた。明るい部屋の中で尻を高く上げた恰好を取らされて、
羞恥で目の前が真っ赤に染まる。
「なっ、なに……ひぁッ!?」
尻を、舐められた。
「いやだっ、やぁっ……バージル……!」
尾の付け根をしつこいくらいに舐られて、ダンテはシーツを掴んだ。尻が無意識に揺れそうに
なる。触れられただけでも拙かったものを、舌でされては堪らない。シーツを噛んで声が漏れるのは
どうにか堪えるが、快楽に弱い躰はどうしようもない。
ぴちゃり、と。ダンテがこの上なく感じていることを判っていてか、バージルが尾の根元を
舌先でぐるりとなぞった。
「んく、ふっ……ぅうんっ……!」
がくがくと下肢が震える。剥き出しのダンテ自身は勃起し、先端からは透明の先走りが溢れて
シーツにぽつりぽつりと染みを作っていく。幸い大腿に絡む下着のお蔭で脚は閉じており、
バージルの目にさらすことは免れていた。もっとも、触れられてもいないのに吐精しては、結果は
同じだ。
ダンテの内心など露知らず、バージルは黙々とダンテを追い詰めていく。バージルに掴まれた
尾が、ふるふると小刻みに揺れる。毛繕いでもするかのように付け根の毛並みを舌で撫でられて、
ダンテはついに堪え切れなくなった。
「ん゛んっ……!」
ぴしゃりとシーツを汚す水音が、バージルの耳にも届いただろう。ダンテは真っ赤だった顔を
真っ青にして、茫然と自分の吐き出したものを凝視した。
「……達ったのか?」
何故、と心底不思議そうに問うバージルを、今この時程本気で殺してやりたいと思ったことは
ない。普段は、何かあるごとに今すぐ死ねと思う程度だ。
「あっ……アンタの所為だろ!? ひとの気も知らないで、あんな……ッ! この、
馬鹿バージル!」
大っ嫌いだ、と喚けばバージルは盛大に眉根を寄せ、宣った。
「痛いと言うから、舐めてやっただけだろう」
何が悪い、と。本気で言ったバージルを、ダンテは殺しても殺し足りないと思う。
「なんで舐める!?」
「その方がお前には良いと思ったのだが」
「なんで!」
「悦かったのだろう、実際?」
厚顔、とはバージルの為にある言葉ではないだろうか。まさか射精までするとは思わなかった、
などとほざくバージルに、ダンテは口をぱくぱくとさせた。
「なっ……なっ……!」
バージルが秀麗なおもてにたちの悪い笑みを閃かせる。
「次はもう少し、俺を愉しませてから達け」
耳の内側をざりりと舐められ、ダンテはびくりとしながらも声高に叫んだ。
「次なんかねぇよ、馬鹿兄貴!!」
後ろ足でバージルの顎を蹴ろうとして失敗し、そのまま馬鹿な兄に良いようにされてしまった
ことは、ダンテのこれまでの人生最大の恥辱であった。
裏ではまだ兄が猫のままなんですが。
衝動的に猫ダンテを書きたかったので、前倒しで。
裏の猫兄×ダンテのその後の話、という感じですかね。
ある意味ネタバレ。