陰明
双子の弟の腕を搦め取り、自らの下に組み敷いて。
繰り返し、厭きる程に揺さぶって。
同じ顔の弟を。
同じ血の通う男を。
何度でも、何度でも精を注ぎ。
嗄れた喘ぎに、しかし充足することはなく。
繰り返し、壊す程に征服する。
まだ足りない。
まだ、
――――満たされることは、ない。
――――互いが互いを殺すまで。
血が騒ぐ。
同じ血を求める声が、する。
名を呼ばれた気がして、男は視線をそちらへやった。
何だ、と問えば、何が、と睨むように返ってくる。男は器用に片眉を上げ、しかし何を言う
でもなく行為を再開した。
組み敷いた相手の大腿を下からすくうように持ち上げ、より深く楔を打ち込む。
噛み締めた唇からこぼれ出る呻きのような苦しげな喘ぎは、けれど確かに男の雄を昂ぶらせる。
満たされることのない渇きに似た征服慾を、僅かに忘れさせてくれる、その声、その躰。
どんな女を抱こうとも、この感覚は得られない。得られるなどと思ってもいない。女は
ただの性慾の捌け口に過ぎず、それ以上にはなり得ぬのだから。
性慾よりもはるかに強い慾をぶつけるのは、今ここに組み敷いたこれだけだ。
同じ血を分けた、文字通りの我が半身。
男は滅多に崩れぬ顔に酷薄な笑みを浮かべ、思うさま己の半身を揺さぶった。
耳をつく掠れた喘ぎは、彼の限界が近いことを知らしめる。しかし彼は、苦痛と快楽の狭間で
朦朧としているだろう意識の中、男の背を爪で裂き、男を睨みつけさえするのだ。無意識に。
じくりとした痛みに、男はまた笑んだ。
絶対に服従することのない者を征服する、この言い知れぬ心地好さ。
狂っている。
そんなことはとうに知っている。
正気のまま、狂っているのだ。
腕の中で、彼が気を失ったことに気が付いた。
は、と息を吐き、時計を見やれば夜明け前だった。宵の口にもならぬ時刻から始め、
夜明け近くまで。と言っても別段珍しいことではない。何より、男の下肢はまだ力を喪って
いないのだ。
いつも、彼が先に音を上げる。嫌とも止めろとも言わない代わりに、最後は今のように意識を
飛ばすのだ。それも、彼にとっては屈辱であるらしいが。
男は彼の額に張り付いた銀糸をかき上げ、白に近いその髪を撫で梳いた。眠る彼はあどけなく、
幼い頃を思わせる。男は子供の時分から大人びていた。逆に、彼は子供らしい子供だった。
同じ容姿でありながら、片や無表情・無感動な兄と、もう一方は表情も感情も豊かな
明るい弟――――それは今も昔も大差はない。
また彼の髪を撫で、男は彼の中から退いた。達してはいないが、自ら処理せねばならぬような
ことはない。この程度ならば、意思でどうとでもなるからだ。
引き抜く瞬間、僅かに彼が身を震わせた。が、目覚める気配はなく、少し顔を歪ませただけだ。
もう幾度となく体を重ねているが、初めにこうするようになったのはいつのことだったか、
まるで覚えていない。忘れる程、抱いた。男が組み敷かれる側になったことはない。
当然のことだと男は思う。向き不向きの問題ではなく、それが当たり前のことで、
疑問すら抱かない。
曰く。これは組み敷いてこそ価値がある、と。
男は寝台を降り、黒い革のパンツを穿いた。いつものことだが、事後は必ずシャワーを浴びる。
それから彼の体を拭き清めてやるのだ。
そのつもりで部屋を出ようとした時、不意に彼が身動ぎした。微かな呻きが、静寂の中でやけに
大きく響く。
良くない夢でも見ているのか、何かを求めるように腕が上がり、手が空を掴む。その手を、
男は無意識のうちに握っていた。途端にきつく握り返され、そこで初めて自分のしたことに
気付いたが、手を離しはしなかった。
彼の表情が、明らかに和らいだのを見てとったからだ。
安心したように彼の腕から力が抜け、シーツの上に落ちる。男の手を握り締めたまま。
部屋を出る機会を逸した男は、ひとつ肩を竦めて寝台に腰掛けた。そして彼の寝顔を眺める。
ふと、視界に時計が入った。午前――――六時半すぎ。もうじき陽が昇る頃合だろうか。
窓から見える南の空はまだ暗いが。
そういえば、と男は空いた手を形の良い顎に添えた。もはや日付は代わり、同時に年も改まった。
間もなくの日の出は、毎年弟である彼が躍起になって見たがるものではなかったか。
男はしかし、そこまで思い出しておいて、彼を起こそうという気配もない。
視線の先にある彼の、安らかな眠りを妨げてやりたくはなかった。
生きている限り、陽は何度でも昇る。けれど、この先安心して眠れる日々が続くかどうかは、
誰にも判らない。
少しでも長く、この眠りを続かせてやろう。
先刻まで、彼を貫き酷く犯していた男のすることではないかもしれない。しかし、
男にとって彼が大事な弟であることに変わりはないのだ。
狂気と正気の狭間で、男は彼を愛おしむ。
不器用に、時に激しく。
やがて南の闇が薄れる頃、男もまた、寝台に横たわり浅い眠りに就いていた。
その腕に、胸に、己が半身を抱き寄せて。
求める手は己のそれだけではなく。
互いが互いを求め合う。
血が、同じ血を欲して騒ぎ立てる。
互いが互いの息の根を止めるまで、――――
彼らは互いに、おもい合う。
棚にある、『過陽』の続きに書いてたものです。
大晦日の夜中に何やってんですかね。←お前がな。
バージルさんは思考の暗さの起伏が激しそうです。
お目汚しを致しましたこと、心よりお詫び申し上げます。