香体
「まだ起きてるのか?」
毛布を肩に羽織り、膝に羽布団を引っかけてベッドに座り込むダンテに、バージルが呆れたように
声をかけた。
時刻は日付の変わった一時半。バージルは日付が変わった辺りから今まで、自分の机に
据えられたライトのみをつけて分厚い本を読んでいた。まだ十二歳にしかならない子供で
ありながら睡眠時間が少なくても平気というバージルとは違い、ダンテはいつもならばすっかり
眠って夢の国にいる。それが今日に限って何故こんな時間まで起きているのか。
ダンテは毛布を引き寄せ、尻をもぞもぞとさせた。
「だって……」
「夜明けまで六時間近くあるんだぞ? それまで起きてるなんて、無理だろう」
きっぱりと言うと、ダンテがぐっと眉を寄せた。泣きそうになっている合図だ。しかしダンテは
確かに、すぐに泣き出す子供だが、打たれ弱い性格ではない。この程度のことで泣きそうになって
いるということは、自分でも無理だと悟っているからだろう。というのに、
「無理じゃないよっ!」
などと、意地になってバージルを睨んでくる。それがバージルの目には愛らしく映るのだと、
この年齢よりも幼い弟は知らない。バージルが愛しい弟を、鳥籠の中の鳥のように閉じ込めて、
自分だけのものにしたいと思っているとは、知る筈もないのだ。
バージルは肩を竦めて本を閉じ、スタンドのライトをつけたままでベッドに近寄った。ダンテが
暖めているベッドに腰掛けると、スプリングが微かに軋む。
じっとこちらを睨むように見つめているダンテの、癖のない前髪を掻き上げた。
「寝過ごすのが嫌なら、おれが起こしてやる」
だから少し眠れ。そう言ってやるが、ダンテは意固地になってか首を縦にはせず。バージルに
逆らうこと自体の少ないダンテには珍しく、眠ることをひたすら拒絶している。
バージルは肩を竦め、ダンテのつるりとした額を撫でた。
「……眠りたくないのか?」
うん、とダンテがしっかりと頷く。こうもダンテが眠ることを拒む理由を、バージルは知って
いる。今日の日の出を見たいが為だ。
彼らの家は静まり返っているが、今は既に新しい年に改まっており、どこかの街では新年を
祝う人々に溢れまるで祭の様相だ。彼ら双子の母はあまり騒ぐことを好まず、日が変わると
ほぼ同時に双子にキスをし、そして眠ってしまった。
バージルはその後読書に耽り、ダンテはこの通りだ。
新年第一の日の出を見たいと言い出したのは、丸一年前のことである。何かのテレビ番組で
見た初日の出の光景に、何故か惹き付けられたらしい。
母が寝入った夜中の一時。ダンテもまた、目覚まし時計をセットして眠りに就いた。うきうきと、
しかしすぐに眠ってしまったダンテの頬にキスをして、バージルはダンテを抱き締めて夢の世界に
旅立った。きっと、ダンテは寝過ごすのだろうと予感しながら。
バージルの予感は見事に当たった。
ダンテは寝ぼけ眼で目覚ましを止め、バージルにすり寄ってまた寝入ってしまったのだ。
バージルもうっすらと覚醒していたのだが、うとうとしているダンテが可愛いらしくて、離して
しまいたくなかった。
すっかり陽の明けた頃に目覚めたダンテが、ショックのあまり愕然としてしまっている傍ら、
バージルはその表情すら愛らしいと思ったものだ。
そんなことがあったお蔭で、ダンテは今現在、必死に睡魔と格闘しているというわけである。
眠ってしまえば去年の繰り返しになると、ある種の脅迫観念にかられているのだろう。意地に
なって眠りを拒むダンテもまた可愛いのだが、そうまでして日の出を見たいという気持ちが
バージルには判らない。
毛布をぎゅっと握り締め、横になろうとしないダンテの眉を指の腹でなぞり、バージルはそっと
顔を近付けた。
「そんなに眠りたくないなら、手伝ってやろうか」
ちゅ、と目尻に口付ける。ダンテは片目を眇めるようにして、ちょっと頬を赤らめた。
「て、手伝うって、何を……?」
「夜明けまでまだ五時間半はある。ただ起きてるだけじゃ、暇だろう?」
時間潰しの手伝いだよ。言葉だけは優しく、バージルはダンテの耳に囁いた。息を吹き
かけられただけでぴくりと反応するダンテの耳朶を、軽く噛む。
「ひゃんっ」
可愛い声に笑みを浮かべながら、バージルは羽布団をするすると剥がし、毛布を掻い潜って
寝着のボタンをぷちりと外す。やわやわと耳朶を噛む感触に集中しすぎているダンテは、
バージルの手の動きなど気付いてはいない。
ボタンを総て外し、バージルはダンテの薄い胸に手を這わせた。そうしてようやく、ダンテが
びくりとする。
「やっ……ん……っ」
胸の小さな尖りを爪で掻く。そこはすぐに固くなり、親指と人差し指で摘むとしっくりと
収まった。バージルがくりくりと弄ってやれば、ダンテの声が次第にうわずったものになって
いく。
「ダンテ、見てみろ、」
促せば、ダンテはわけも判らずバージルの言う通りに視線を落とした。そしてずり下ろされた
下衣から覗く、恥ずかしげに首をもたげた自分の性器を見つけてしまう。
「っあ……」
真っ赤になったダンテの耳をもう一度噛み、バージルは震えている性器を指先でするりと
撫でた。途端、びくっとダンテの腰が揺れる。
「ゃあっ! やだ、バージルっ……」
「……ここを擦ると、気持ち好くないか?」
茎を辿り、先端を指の腹で押すようにしてやれば、嫌と言いながらもダンテは明らかな快感に
全身を震わせた。
「やぁっ! や、そこ……バージルぅっ」
くちくちと何度も擦り、ぷくりと腫れぼったく色付いてくる性器が、酷く卑猥に映る。ダンテは
自分のそれをあたかも違う生き物であるかのように凝視し、今にも泣き出しそうな顔を
している。
「ダンテ……気持ち好い、だろう?」
耳の裏側を舐め、胸を弄り、性器をくすぐり。意地悪く聞いてやれば、ダンテは堪り兼ねた
ように手で口許を覆った。
「やだ……や……っあ……」
「ふぅん……? ここはこんなに濡れて、よさそうなのにな」
くにゅりと性器を扱く。片手で茎と根元の双球を同時に愛撫するのは少し難しいが、胸への
刺激をやめてやるつもりはない。手を逆手にし、指で双球を、掌で茎を擦り上げる。
「ゃんっ! あ……ぁっ!」
ぶるりとダンテが震えた。感きわまったらしいが、しかしまだ精通のしていない性器は吐き
出すものを持たず、ただひくひくと痺れたように震えるしかない。
「ひ……い、た……ぁ……」
とうとう、ダンテが泣き出してしまった。何も出ない性器を無理矢理射精に導かれれば、
つらいのは当たり前だ。
バージルは涙でくしゃくしゃになったダンテの目許を丁寧に舐め、口付けた。
「痛いか、ダンテ?」
自身の性器をおさえるダンテの手を外させる。ひりひりするのだろう。ダンテはしゃくり
あげながら、バージルに口付けをねだった。
「ばぁじる……もっと、もっと……っ」
「あぁ、好きなだけしてやるから、急かせるな」
先に、こっちだ。
バージルの言葉の指す意味がダンテには判らないのだろう。離れていくバージルに、もう
口付けて貰えないのだと勘違いしたらしく、いやだと叫んでバージルの首にしがみついた。
「やだ、やめちゃやだよ、ばぁじるぅっ」
ぽろぽろと先刻とは違う涙を溢れさせ、しがみついて離れないダンテの背中を、バージルは
やわく叩いた。
「ダンテ、」
腕を外させると、ダンテの悲しげに濡れた瞳と視線が絡む。
「やだよぅ……、……やだって言ったから……? だからもうしてくれないの?」
バージルが否定するより先に、ダンテはまた泣き出した。
「お、れ……がま……する、なんでも……るから……っ」
だから、嫌いにならないで。
途切れ途切れの言葉はあまりに幼く、しかし確実にバージルを煽った。同じ歳だというのに、
ダンテはどうしてこんなにも可愛いのだろう。真剣に、思う。
「ダンテ、おれがおまえを嫌いになんて、なるはずがないだろう?」
「っく……、ぅ……ほんと……?」
「信じられないか、おれが?」
そっと額に口付け、舌先で涙をすくう。それだけで、ダンテは鼻をすんすん言わせながら、
とろんと蕩けたような顔をする。それがまた、バージルを誘うのだ。
「ばぁじる……」
「おまえはおれを信じていれば良い。そうだろう、ダンテ?」
僅かなことも疑うな。おまえはおれに属していればそれで良いのだ。
刷り込むように囁き、うっとりとして頷いたダンテのぽってりとした赤い唇を柔らかく吸う。
「んぅ……ふ……」
鼻に抜けるような吐息が心地好い。バージルはダンテの口腔を舐めながら、またダンテの性器を
扱きだす。ぴくりと腰を引きかけたダンテだが、逃げようとはしなかった。逃げればバージルに
嫌われる。そう思い込んでいるのかもしれない。
どこまでも、可愛らしい。
バージルは内心で笑い、ダンテの下唇を甘噛みして顔を離した。ぽわんとしているダンテに
笑みを浮かべ、す、と躰をかがめる。掌に包んだダンテの性器を、躊躇いなく舌で舐めてやる。
思わぬことに、ダンテが躰を強張らせる。
「ひゃうっ!? ば、ばぁじる……っ?」
「大丈夫、気持ち好いことをするだけだ」
言って、細い茎を下から上へ舐め上げる。
「っひん……!」
ダンテがバージルの頭をどかそうとしてか、髪に触れてくる。
「あ、あっ……ぁん……」
かたかたと震える内股にかぶりつきたい衝動が沸くが、今は手で触れるだけに抑えておく。
それはまた、あとだ。
「どうだ、ダンテ?」
茎を軽く食んで、問う。どうかなど、ダンテの表情を見れば判り切ったことだというのに。
ダンテの手が、バージルの髪をくしゃりとした。
「ば、じ……も……だめ……やぅっ」
びくびくと跳ねる腰を押さえ付け、ダンテの性器を銜えてやる。ぢゅ、と喉の奥で吸ってやれば、
ダンテは呆気なく達してしまった。
「ひあ、あ……!」
二度目の、何も出すもののない“射精”。しかしバージルが舐めてやっている為か、先刻の
ようには痛みを訴えはしない。
バージルが口を離すと、ダンテの性器に絡んだ唾液が糸を引いた。淫らな光景だ。それを自分で
作っているのだと思うと、愉悦のような感覚がふつふつと沸いてくる。
ダンテは茫然としたようにぼんやりして、浅い呼吸を繰り返している。バージルは躰を起こし、
ダンテの頬に口付けた。
「まだ時間はあるな……そろそろやめるか?」
本心ではない囁きを吹き込んでやれば、ダンテはふるふると首を左右にし、おそるおそる
バージルの下肢に手を伸ばした。
「ばぁじる、も……」
自分ばかりでは不公平だと、そう言いたいのだろうか。バージルはくすくすと笑った。
「じゃあ、おまえのと一緒に……な?」
ぐいとダンテの腰を引き寄せ、膝に乗らせた。少し段差が出来るが、そのくらいで丁度良い
だろう。ただ性器を擦り合わせたのでは、面白みに欠ける。
「ほら、ちゃんと握らないと……」
ダンテの手を自分たちの性器に添えさせ、ゆるく上下させる。ダンテと違い既に精通している
バージルの性器が、次第に張り詰めてくるのがよく判る。
「バ……ジルの、んっ……ぁ……あ、つい……」
喘ぎながらもきょとんとしているダンテの目尻に、バージルは小さな口付けをした。
「おまえのも、充分熱い」
くちゅ、と茎を扱きながら先端をこねるように弄ってやる。
「ひゃんっ! や、や……っ」
「手が止まってる。ほら、ダンテ……?」
ちゃんとしないと。囁けば、ダンテは朦朧としながらも手を動かした。自分が何故こんなことを
しているのか、判っていないことは明らかだ。
ダンテの頭には、ただバージルの言葉の通りにするということしかないに違いない。
可愛い、可愛いダンテ。
バージルは腰を揺すり、ダンテの性器を下から擦り上げた。
「ひぅっ……あ、ぁ、ばぁ……じるぅ……っ」
喘ぎ声が甘く響く。後ろに挿れてやったら、これはどんなふうに鳴くのだろう。そんなことを
思って笑んでいると、ダンテが不意に二つの性器をきつく握った。無意識にしたことなのだろうが、
その刺激でダンテは達し、バージルもまた不覚にも精を弾けさせてしまった。
指に絡むとろりとした白濁を、ダンテが不思議そうに見つめる。そして何を思ったか、ぺろりと
舐めた。
「……うまいか、ダンテ?」
「ん……ちょっと、にがい……?」
なに、これ。
問いながら、こてんとバージルの肩に頭を凭せかけるダンテの背中を、ゆるゆると撫でた。
「眠るか?」
「んん……ない……」
寝ない、と言いたいらしい。しかし言葉にはなっておらず、ダンテは今にも寝入りそうだ。
バージルは肩が揺れない程度に笑い、ダンテの髪を柔らかく梳いてやった。こうしてやると、
気持ち好いのだとバージルは知っている。
「……ば……じ、……」
すう、と。ダンテが吸い込まれるようにして眠りに落ちたのが、手に取るように判った。
バージルはちらと机の上の時計を見やる。夜明けまであと三時間と少し。ダンテにとっては
一眠りするくらいの時間しかないが、全く眠らないよりは随分ましだ。
くたりと全体重を預けて眠るダンテの背中に毛布を掛け直してやり、バージルは横にならぬまま
自身も目を閉じた。これでまた寝過ごしたら、ダンテはどんな顔をするのだろう。想像し、くすりと
笑いながら。
あまり見ることのない夢だけれど、ダンテと逢えることを願って、眠りに落ちた。
翌朝、意味があるのかどうなのか、双子は互いにひっつきあってベッドの中から朝日を
眺めた。
初日の出の意味合いが違うような気がしながらも、バージルはダンテの嬉しそうな笑顔を見、
自身も自然と笑みを浮かべていた。こんなことも、たまには良いな。総てをダンテを中心にして
考えるバージルは、そう思ってダンテを強く抱き締めた。
クリスマスで仔双子書かなかったなぁ、と。思ったのが間違いだった…