休暇――――始
クリスマスになると、街は特定の店をおいて総てが閉まってしまう。皆クリスマスを挟んだ
休暇を取り、どこかへ旅行に出掛けてしまうのだ。どこへも行かぬ家族もあるだろうが、しかし
店は閉まり、街はあたかもゴーストタウンの様相を呈するのである。
人通りのない寒々とした大通りを、バージルはダンテを連れて歩いていた。世間のご多分に
漏れず、彼らもまた休暇を決め込もうとしているのだ。
旅行にでも行きたい。そう言い出したのはもちろんダンテだ。
「旅行……?」
鈍い反応を返したバージルに、ダンテはしかし機嫌をそこねることはなく。
「そ、旅行。行ったことねぇだろ?」
二人で。と付け加えるダンテに、バージルはそういえばと顎を撫でる。
出掛けるにしても近場のスーパーか骨董屋程度のもので、遠出をしたことすらほとんどない。
外泊を含めたものは仕事以外にはなく、ダンテの言う旅行などというものは確かにした覚えが
なかった。
「な? 行こうぜ、旅行」
お前は子供か、と言いたくなるようなダンテのはしゃぎっぷりに、しかしバージルは言った。
「どこにだ」
どこまでも平坦な声は、バージルが旅行に乗り気ではないとダンテに思わせてしまったの
だろう。ダンテが一瞬怯んだような顔をしたのを、バージルは見逃さなかった。
「どこって、……どっか」
やはり考えなしだったらしい。バージルは肩を竦め、膝に顎を乗せているダンテの髪を
くしゃりとした。
「遠出の方が良いのか?」
問うが、意味が伝わらなかったのか、ダンテが首を傾げる。
「行く場所にあてがないなら、わざわざ遠出をすることもないだろう」
バージルの言葉を、ダンテはやはり旅行を否定するものとして受け取ったらしい。傷付いた
ような顔をするダンテに、バージルは違うと言ってやる。
「近場のホテルでも良いのかと言っているんだ」
え、とダンテが目を瞬かせる。
「要は仕事とは関係なく、外に泊りたいのだろう?」
笑って見せれば、ダンテはきょとんとして、次いでぱっと破顔する。
「うん! そう、どっか泊りに行きたいんだよ!」
バージルが連れて行ってくれると判った瞬間、ダンテは子犬のように尻尾を振ってバージルの
膝にじゃれついた。実際、ダンテの尻――――腰との中間か――――には犬のものらしい尾が
生えている。
頭には耳が、それぞれ髪と同じ色をしてにょきりと生えて、もうどれ程になろうか。
今ではダンテ自身もすっかりその姿を見慣れてしまい、治るかどうかと騒ぐこともほとんど
なくなった。
ぱたぱたとはたきのように揺れる尾と、その動きを作る腰もまた左右に揺れている。ダンテは
無意識にやっているらしいが、バージルにとっては様々な意味で目に毒の光景だ。
どこに泊る? なぁ、なぁ?
上目遣いにこちらを見上げ、首をことりと傾げるダンテを、バージルはおもむろに膝の上に
引き上げた。いきなりのことに、ダンテが困惑する。
「何? 何だよ、バージル?」
判っているだろうに。バージルはしかし、ダンテを揶揄することはしなかった。ダンテは奇妙な
ところで鈍い。何度も交合をしているというのに、バージルのスイッチがいつ入るかがまだ
判っていないのだ。
自分自身の持つ魅力というものを、判っているようで実は判っていないのだろう。これだから、
知らぬ間に男をその気にさせるのだ。
内心で溜息など吐きながら、バージルはダンテの頭の上にひょこりと生えた犬の耳を、尖った
犬歯で一つ噛んだ。
ダンテは、バージルの目にこそ人の姿に映るし触れられるが、他の人間には犬としてしか
映らない。しかもそこそこに大きな犬であるらしい。その為、普通のホテルには泊ることは
不可能だ。
遠出ではない距離で、愛玩動物同伴可のホテルがあったか
どうか。
調べるのも面倒で、最終手段に出ようとしていたバージルは、ふと思い立って電話の受話器を
取り上げた。
二泊三日。休暇としてはあまりに短い期間だが、ただホテルに泊るだけの日程にすれば長い。
バージルは礼を言って電話を置き、ダンテに報告すべく二階へ上がった。
ダンテはまだ、眠っている。
着替えを詰めた革の鞄を左手に、右手にはリードを持って家を出る。無表情のバージルの隣では、
首輪とリードを着けられたダンテが、しかし意気揚々とにこにこしている。
初めはかなり嫌がった首輪も、気にならないらしい。風呂と眠る時くらいしか外してやらぬ
それに、ダンテも慣れるしかなかったのだろう。外出する際に付けるリードも、どこかで諦めたの
だとバージルは知っている。
少し前を歩くダンテの、銀の髪の隙間から覗く赤い首輪を見つめ、バージルは
微かに笑みを浮かべた。
通りはまるで人気がない。一層寒さの増した通りを並んで歩いていると、ダンテが何を思ったか
バージルにすり寄って来た。何だ、と問えば、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにはにかんで。
「なぁ……これだけ人がいねぇとさ、その、」
くっついてても大丈夫だよな?
小さな声で言うダンテ。人目がないのだから、誰に憚ることなく触れて構わないだろう、と。
バージルは(人目があっても構わないのだが)などと思いながらも口にはせず、リードの先、
輪になった部分を手首に通してダンテの腰を引き寄せた。この光景、もし人が見ればどんなふうに
映るのか。少し気になったが、すぐに忘れた。ダンテが、珍しくバージルの肩に頬をすり寄せた
からだ。
バージルが料理をしている時に、後ろから抱き付いて来ることはよくある。が、こんなふうに、
まるで男女の恋人同士のような仕種をすることは滅多とない。
どこかがくすぐったいような、不思議な気分だ。
「バージル、なぁ……」
甘たな声がバージルを呼ばわる。それが既に男を煽っているのだと、気付いてはいないだろう。
ぼんやりと灯り始めた街灯に照らされたダンテの表情は、ちょっと息を飲む程に艶めいて
見える。
何かを言いさしたダンテを制し、バージルは半端に開いたダンテの唇を自身のそれで塞いだ。
下からすくうように吸い、少し肉厚の下唇を甘噛みする。
「っん、ふ……はぁ……」
ダンテの漏らす息は甘い。いかに人気がないと言えど、こんな表で。普段ならば、ダンテは
激しく嫌がっただろう。しかしダンテの方から甘えてすり寄って来たこともあって、拒む気配は
少しもない。むしろ、もっととせがむようにバージルの舌を自身の口腔へ誘おうとすらする。
バージルは口端を上げ、ダンテの望み通りに舌を差し入れてやった。嬉々として、ダンテが舌を
絡ませてくる。互いの唾液が混じり、くちゅりと粘質の水音をたてる。
「ふ、く……ぁ……じるぅ……ぅんっ」
びく、とダンテの躰が跳ねる。バージルがダンテの腰の辺りを撫でたからだ。そこにはコートに
隠れてはいるが、すぎる程敏感な尾が小さく丸まっている。直接触れてやりたいが、ここで
脱がしてしまうわけにもいかない。ならば、と。
コートの前を当然のように開け、手を差し入れるバージルに、ダンテがさすがにぎくりとする。
互いの唾液を飲む程に口付けをしているのだから、何を憚ることがあるというのか。バージルは
くつりと笑い、ダンテのズボンを少しずらした。怯えるように震える尾が、ふわりとバージルの
手に包まれる。
可愛らしいと、思う。――――尾のことではなく。
ふやりふやりと尾を弄ると、ダンテはバージルの肩を掴んで寄り掛かるように額を押し
つけてきた。
「あ、んっ……や、……ばぁ、じ……る……っ」
陽は既に落ちようとしているとは言え、大通りの真ん中でどこまでするのかと、不安がる
ダンテの髪に唇で触れる。
「こんなところで誘った責任は、しっかり取って貰うぞ」
囁いてやれば、ぎょっとしてダンテが顔を上げる。その表情は、やはり愛らしい。尾を中心に
して尻を撫でてやると、ダンテは腕を突っ張りバージルを押しやろうとする。
「ちょ、待てっ……て、バージルっ……こんなとこで……!」
バージルはダンテの腕を片手で易々とまとめ、腰を密着させるように引き寄せた。互いの下肢を
擦り付ける形になり、ダンテがびくりとする。既に昂ぶったバージルの熱を感じて、思わず腰が
引けたのだ。
「っあ……」
逃げようとする腰をきつく抱き、脚の間に脚を割り込ませてバージルはにやりとした。
「嫌だと言うわりに、硬いのは気のせいか?」
囁いた途端、ダンテの耳だけでなく顔も真っ赤に染まる。
「っ! ちが……」
「何が違う?」
ぐい、と押し上げるように腿で股を擦ってやる。
「ひんっ……! だ、ぁ……バージルっ……やめ……ッ」
一定の拍子で腰を揺すってやれば、ダンテは堪らずに喘いだ。人気がないとはいえ、大通りで、
という状況に昂奮しているのだと判る。ただ布越しに振動を与えているだけだというのに、
ダンテは達してしまいそうな表情をしている。
淫靡な顔だ。
「一度、出すか?」
ズボンの中、下着を掻い潜って直に触れる。既に濡れて開放を待ち望んでいるダンテのそれを、
バージルは軽く扱いた。
「ひっ……ぁっ、あぅんッ……!」
ぎゅっと目を瞑り、バージルの手に精を吐き出したダンテの、がくがくと震え縋りついてくる
躰を片手で支えてやる。へたりと寝たままの犬の耳に、笑みを含んだ囁きを吹き込む。
「……意外に早かったな」
あからさまな揶揄にかっとなって、ダンテがバージルを睨んだ。
「そっ、それはアンタが……っ」
生理的な涙で潤んだ瞳で睨んでも男の慾を煽るだけなのだと、いつになれば気付くという
のか。
「俺が、何だ?」
意地悪く、問う。ダンテはぐっと唇を噛み、バージルを睨むことしか出来ないでいる。
「ダンテ、俺が何をしたのか、言え」
愉しんでいることが伝わったのだろう。ダンテは自棄になったようにバージルの唇に
噛み付き、
「馬鹿バージル!」
悪態を吐いてバージルの腕を振り払った。しかしリードはバージルの手首に絡まったまま。
どうするのかと思い動かずにいるバージルを、ダンテが不意に立ち止まり肩越しに睨んだ。
「早く、さっさと行って続きするぞ!」
こんなとこで最後までなんてごめんだ。
恥ずかしさといたたまれなさに肩を怒らせ、ぷいと外方を向くダンテに、バージルは久しぶりに
声を出して笑った。
頂いたネタをありがたく活用させて貰ってます。